第12話 羨望の眼差し


大きなカジノホールの一角、

スロットが立ち並ぶその場に、一人のキャラクターが可愛く立ち、それに応じるように一人の黄色い声援が響いた。


「きゃー可愛いー!ユキリ〜〜!」

いつの間に撮ったのか、水色の布地に電脳世界でのアバターの写真を付けたハチマキと、これまた水色とターコイズブルーで横向きの縞々をしたペンライトを掲げた、

まさかのヒサが声援を挙げていた。


しっかり決まったポーズをしていた、ユキリもそんな反応を想像していなかったのか、少しだけ恥ずかしそうに、目を閉じていた。


「え、知ってたのかヒサ?」


「うん、うん?…いやぁユキリちゃんが追いかけてきた子ってのは、初めて知ったよ。でもね〜ちょっとだけ知ってるんだ〜」


上がりきったテンションままに、返事をして聞き返しながらもう一度返事をする、少ししてユキリを見て色めいていた目が、血走った迫真すぎる顔に変わり、ツラツラと話し始めた。


三田乾ユキリ、あだ名はユキリン、ユッキー、

見た目の小動物っぽい印象と名前から、タヌリンと呼ばれることもある。


身長152センチの低身長、でも自称は157センチ。自己情報には数字の2を無理やり7に変えてまで、高く見せようとしてる。

体重47キロ、ユキリちゃん本人はこの身長だと少しだけ太ってる…と思ってる。


チャームポイントは、

黄色味がかった栗色の長髪!

ゆるゆるフワフワのパーマ、毎日でも抱きしめたくなるボリューム感のある毛並みなのに、雨の日は湿気の影響で、髪の毛が徐々にカールになっていきよりフワフワになる。


〜〜放っておくと永遠に〜〜ハキハキとしたオタとは思えない声量で喋ってそうなので、ヒロシが一旦まとめに入るように促す。


「ちょっと待った、なんでそんなに知ってんの?もしかして…高校が同じだったとか?」


さすがに何か、友人関係や旧知の関係性がないと、そうそうと手に入れられなさそうな情報量なのに、この大学生活の中でヒサからユキリの話は聞いたことがない事で、ヒロシはいぶかしんで聞く。

それを可愛らしく頭を振って否定するヒサ。


「んーん、でも初めて会った時から、密かに憧れてる存在ひとだったの。

私は身長高いし、女の子として魅力になりそうなものが何も無いと思ってた、

入学して間もない時に見て、ユキリちゃんは身長低いし、同性の私から見ても可愛かったから。」


ヒサは、暗黒時代を抜け始めた時期だったが、入学にあたってまた、人間関係が思うようにいかず、上手くいかないんじゃないかと、心配になって、少しだけブルーになっていた時のことを思い出す。

そんな時に、


「学校で毎日楽しそうに、話してる友達もいたし。学校の文化祭とかでやる企画が、色々と方向性の違う物も出て、クラスにまとまりが無かった、

皆んなの立ち位置から、凸凹の関係のクラスメイトを前に、自前のリーダーシップもあって、みんなを惹きつけて、それでまとめ上げてたの。

可愛いのにかっこ良かった、だから憧れは変わらないでも。ちびっ子生徒会長みたいで、

ああ言う人になりたいって憧れから、

最高可愛い、憧れの推しになったの。」


初めて出会ったユキリの事を思い出して、

自分がこの人のカップルとしては、少し妬けてしまうくらい良い笑顔になる。


「あ〜、そうだったのか、なのに学食の時気づかなかったのか?…それにそのグッズ何?」


静かにそう言ったヒロシの目線の先には、


尻尾の濃いところのように青い色に、光を乱反射する大量のスパンコールをつけたハッピを着て、またいつの間にか持っていた、自作のうちわや。

更に増えたペンライトを降りまくる、運動部時代のクールビューティー系の姿とは、激変してしまったヒサの姿が。


「あの時は、ちょうどヒロの頭で見えなかったんだよ、わたしが見た時にはもう居なくて、足音しか聞こえなくて気づかなかったんだよ、私もちょっとショックだよ〜。


静かにグッズ作ってたんだから、シー

バレちゃうでしょ。」


「バレてるだろ、今めっちゃ恥ずかしそうに、目背けてるぞ。」


唇に指を当ててシーとあくまでもバレてない程で話すヒサに、ヒロシはしっかりと現実を見せるために、指を指す。


ユキリはヒロシの言う通り、全身のメインカラーが青い系統の色だからこそ、よくわかる顔色をして、汗をかき俯いている。

わかりやすく恥ずかしがっているのに、それでも、

「バレてないって、まだ大丈夫。」

バレてないと思い込んでいる、ヒサからすれば目の前の人間がアバターとか人間とか関係なく、あくまで憧れの人、だから自分との間に一線引いて、あくまで遠い存在として見てる、通常はいい方向に発動する、オタクフィルターもここまでくると怖いね。


「いやいや…その話は置いといて、なんか話しするか?俺たちも一旦休憩したいなって思ってたし、そっちもコインが無いんじゃあな、ここで何も出来ないだろ。」


ヒロシがコインと言ったら、体をギクと反応させる。

今までどんな輝いた目線にさらされても、過剰な歓迎で恥ずかしめをされても、一ミリとして動かなかった、ユキリも床から足を剥がされた。


その間にヒロシは自分の所持コイン枚数を確認すると、カラスが何度か鳴いた声が聞こえる、 忘れていた。


今日、悩んでいた人影の答えがやっと出た事や、オタク話の内容が濃すぎて印象が薄れていたが、さっきヒサの怒り買って、その怒りをを抑えるために全額、支払った後だった。


「俺のコインは全部ヒサにあげたから、

じゃあヒサの方からあげれば、」


あんなに大量のグッズを作って、滅多に見せる事はないくらいはしゃいではいたが、それでもまだ変に近づかないように萎縮している。

それに気づいた俺が手を差し伸べると、その小さいヒサが手の上に乗ってきて、そのまま腕の上を走ってきたように感じた時には、もう時すでに遅し、置き去りにされた。

無駄に早い速度で音を置き去りにして、ユキリの真横まで移動したヒサ。


「ユキリちゃん、私からあげますよー」


少し上から目線の、こんな近くの視点からみるユキリはかなり小さく見える。

いつもの長髪があるところにモフモフの尻尾があって、現実の姿とリンクして映る。


ヒサはその姿を見たまま、ハムスターとかウサギとかの愛玩動物に餌をあげるみたいに、コインを渡そうとしたが、断られる。


「待てッ」


ユキリは、カジノコイン送金のOKパネルとヒサの指の間に手を差し止めて、

近くにいたヒサではなく、少し離れた位置にいるヒロシを睨む。


「そんなんで受け取ると思ってるのか?、

私らはゲームをこよなく愛する、ゲーマーだろ!」


目の前にいる少女は、少年漫画の格言風な事を言い、それほどの膨張率はない胸を張り、拳を強く握りしめた立ち方をしている、主人公特有の言葉尻の強い口調で話してると思う。


かなり低い位置から。


こっちを睨んでいる。


こっちを見ている。


「え、あ……じゃあバトルでいくか。」

何となく忘れてしまった。

話しかけられてるのを、


通常あり得ない状況だ、目の前でしかも睨まれているのに。

ヒロシは一つ考えていた。

何故だろうこの子を見てると、体に対して視界の中にある全部のものが大きく見えて、なんか今の視界を外から、三人称視点で見ている、みたいに自分の体からも離れて、夢を見てるみたいな気分になってくる。


「どうしたの、…ペンライトあげようか?」

ヒサはそんなヒロシが何秒か、ユキリを見たまま静止してることに異常を感じ取って、

まるで辛い思いをして落ち込んでる友達に、棒のアイスを分けてくれるみたいに、近寄ってきてペンライトを差し出した。


ヒサ、心配して寄ってきたのは嬉しいけど、その対応は絶対違う。絶対に違う!

ペンライトを払い除ける事なく、ヒサに押し返す。


「いや、でも俺たち二人しかいないぞ、これじゃあ、どっちかが二対一になんなきゃいけないし、それだと…」


それだと…不公正な条件になってしまうんじゃないかと言いかけた、ヒロシの言葉に食い気味で、声を被せるユキリ。

「そうだ2体1だ、」


そう言うと背後にいて何やら、尻尾に顔を近づけて鼻をヒクヒクと動かしている、流石に電脳世界のディティールでもそこまで作り込まないだろう、

だから自分の頭の中で想像した仮想の匂いを嗅いでいた、ヒサを掴んで組む。


だがその時、ユキリの服を掴む力が、体重を乗せて引っ張ったからか少し強く、ヒサは元からでも、アバターとして作った虚乳のせいで、今にも溢れてしまいそうな服だったのが、遂に、はだけて胸下の素肌が見える。


「そんな刺激の強いことをしたら、……あーあやっぱり。」とヒロシが警告を話す前に、事が起きた。

目は白目を剥き、ヒサは憧れの人がこんなに近づいてくれたことに、声にならない歓声を上げている。


「そっちが二人なのね。」

戦力的にもヒサが一人になる事は決してないから、ギリギリ納得はできる、ので仕方なく了承する。


「ああ、それになあ、あんたらが騒がしすぎて気づいてたよ。

オセロとか将棋とかの頭脳戦はコイツもだけど、それなり。ゲームセンスに関しては……

オマエ GN《ゲームネーム》はヒロとか言ったか?」


「ヒロシだ、現実と変わらないよ、じゃあ人数差が出にくいゲームを、探そうか。」


次のことを考えて、今度こそ!と言う感じで、早口で言いかけた時、また遮られた。

「ヨシ、ヒロシ!もうゲームは選んであるからついてこい。」


「こんなにテンポ良く、いくって事は、俺たちを利用して、ただただ多人数ゲームがやりたかっただけじゃね?」と頭に疑問符を浮かべ、渾身のダミ声で考えながらも。


もうかなりの時間ヒサとゲームをはしゃぎすぎて、疲れていて少しのため息をつきながら、

あまりの尊さの過剰摂取に脳内回路がショートしている、ヒサを運ぶ。


前を歩いている、ユキリを見て、和装だからか、何となく一句読みたくなってきた。


尻尾が左右に揺れて、

頭を見え隠れさせる、

ああおもひながら。

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