第6話 青春ハート


彼は、海輪ヒロシは髪を染めた。


そんな事を、こんな盛大に書くなって?

そんな事か、確かに、じゃあ暗めの昔話は後回しにして、今の話を書くことにしよう。


そんなことを知らないヒサからすれば、

救世主に見えただろう。


剣士は倒れたボアに剣を突き立てた。

いつしか強敵のレッドボアは光のポリゴンになって、消えて、少し重い剣が地面に落ちて、刺さった。


「大丈夫か…?」

思っていたより、甲高い声だった。


目の前の金髪から、手を差し出されるけど、

ヒサは少し考えた後、自力で立ち上がった。


生命力が三分の一まで減った、ダメージを受けたのに、足元はしっかりしていた。

足を立てた時、一瞬痛みも感じたが、筋トレや運動部時代の練習で、ある程度の痛みに耐性を持っていたヒサからすれば、何でもなかった。


「ありがとうございます。」


少し上擦った声が出た。

ソーシャルVRMMOでの、初めての交流だったし緊張もあるし、その…少し好みのかっこいい顔をしていたから。


それでも手を取ることはしなかった。



(何話せばいいんだろう、……でも助けられたんだよね、助けられた時ななんて言えばいいかとか、ヒロシから聞いてないよー〜、

いや普通でいいんだよね、多分だけど昨日のあの子みたいな対応でいいんだよね。)


ヒサはゲーム自体が無知だが、コミニュケーション能力も、ヒロシのゲームで磨いたコミ強能力と比べると、その見た目とは裏腹に、

ヒサの方が低い。


陸上部で部員とも最低限の会話しかしなくて、同じような場面に立ったら、自身の見た他の人がしていた事を繰り返すのがやっとなのだ。


「すいません!ありがとうございました。

サラダバー!。」


喉を締めたような声をしていた金髪は、

地声になって吹き出した。


「ブクッアッハッハッハッ

オイ、俺。俺だよ、ヒサ!ヒロシだって。」


その聞き覚えのある声に気づいて、走り出していたヒサも振り返る。


「え、ヒロシ?何…でも髪が…ゲームで

変えられないって言ってたよ。」


振り返ってきたヒサは、ヒロシに限界まで近づいて、不思議そうに聞いた。

疑い深く髪を掴みながら。


「俺がそう言ったよな、最初のキャラは大事な物だよってのを教えたくて、言ってなかったんだけど、一つだけ抜け穴があるんだよ。」

「…どんな?」

「現実の世界で変えた。新しい髪色、どう俺に似合ってる?」


驚いた、けど、そこまで驚かなかった。

前々から髪染めようかな〜とか、普通すぎないかな〜とか、独り言を聞いてた身としてはやるだろうなと言う感情だったが。現実に行けばこの人に会える、と思う方が強かった。


「ふーん、普通。」

「あんなに覚悟してやったのに、あんまり変わんねぇのかよ!」

ヒロシは上から下に、腕を大きく振り回す。


「うん、そんなに変わってないよ。高校生の大学デビューみたいな感じで。」


ショックを受けていたヒロシは、ヒサの何気ない一言で、今は長い休みの期間だった事を思い出す。


「ア、そう言えば、そろそろ大学授業も始まるし、知り合いの奴に顔見せる機会あるじゃん。」

「そんなことも忘れてたの?」

「うーわ…いーや、ヤッベェ忘れてた。」

第二のショック。

を受けて今度はヒロシが地面に倒れた。

心底絶望した顔で、髪を掴みながら、赤ちゃんみたいに、体を丸めた状態で駄々をこねる。


「うわー〜〜!!ヤバい〜、大学2年生にして大学デビューじゃん!こんなの…、

ヤベー!」


しばらく、イケメン風の剣士がのたうち回るのが面白くて見続けた。

電脳世界の空が赤く染まってきて、夕焼けになったが、現実世界ほどは時間は経っていない。


電脳世界の1日の時間は、大体16分で太陽が一周する、ヒサはゲームの世界に入ってきて何日もモンスターを狩って、ちょうど回ってきた朝日をバックに、レッドボアに倒された事になる。


時間にして、8分間。

ヒロシを見ていた。


「このゲームも結構難しいね、スライムとか青いの、なら結構上手いこと行ってたんだけどね、やっぱ上には上とか強い奴はいるんだね。」


歩きながら話す彼女のそれが、自分の言おうとしてる事を後押しするように聞こえて、言いたい言葉が、話しやすくなる。


「別の場所にもいってみるか?」


「うーん、どうしようかな、なんか区切りが悪い気がするんだよね。なんか、ちょっとしたボスとか倒してからじゃ無いと、なんか。」

「そーかー、レッドボアは一応ボスだぞ。」


そのいつものヒロシとは違う絶妙に投槍な、言い方に何か感じた


「やりたいの?」

「う……んあ、やりたいけどヒサは?」


ヒロシは自信ない顔をして、もう一度ヒサに聞き返す。

今さっき入れた、胸にしまった優しさを早いけど、ちょっとだけ出して答える。


「まあいいんじゃ無い?

他のもっと面白いゲームも知ってるんでしょ、一緒に行こうよ。」


「そんなに、ハードル上げんなよ。」


歩いていると、すぐに街中までついて、

しばらくゆったりと歩いていた。


話している最中、

彼女が道脇の宝石や装備品の売店を見て、目を奪われているのを見逃さなかった。


会話の中、頷いてはいたが、意識がどこかに行っちゃって、怒っている時に指を指す癖に、続いて二つ目のの癖だ。


「寄ろうぜ。」

手を強引に引いて行こうとするが、ちょっとだけ、思っていたより力が強くて、逆に俺が親に止められている子供みたいに、引きずられる。


「ヒロ、道端でやってるようなお店は、詐欺も多いんだよ。それにこう言う宝石系のお店は高いんだから、私たちここにきて二日じゃ買えるものなんてないよ。」


子供みたいに言い聞かせられた。


「一回見てみようぜ!」


「アレ?……安い、」

「こう言うもんなんだよ、リバーススカイにはいっぱいゲームがあるからな。

顧客に色々なゲームを楽しんでもらうためにも、一貫して最初の街の方は安くなってるんだ。」


彼女の好きな動物は鳥系、その要素で探していくと。

一つだけ見つかる。


ツバメの髪飾り

ダブルタップすると、詳しい情報が表示される、

燕をかたどった、群青色のヘアピン、

銀色の金属だけで作られた、金具部、

燕の目に当たる場所に、一つだけ飾った、

青い色のサファイア。


この世界だけの効果

反射速度を120%に上げる。


そして左上に銀色の丸い形に縮小された、

リバーススカイのロゴマーク。


「コレには、銀色の認証マークがついてるだろ。これがあると別の世界でもつけれるって証。」


「ほう、良いね。」

ヒサの目は俺の持っているものに釘付けになった。こう言う時は、わかりやすい癖で本当に助かるよ。と思いながら、髪に付ける感じで、当てがう。


微妙に目線の合わないあどけない顔、

によく似合っていた。


「コレがゲームの区切りじゃ、悪い…か?」


「……悪く、無い。」


澄んだ瞳の中が鮮明に見えた。


二人は心のつきものが晴れたようで、

二人並んで歩いている後ろ姿が、夕陽に照らされた。


赤く染まって、照れたような、

あっちこっちに向き合う、矢印のような、

不安定ながら何重も堅く繋がっている糸。


「普通に良いんじゃ無い?変わらずカッコイイよ、ッフフフ」

彼女は少し走って俺の前に立つと、腰に手を当ててイタズラに笑った。


「アー!やっぱり笑った!」

「やっぱりって何、もしかして今日朝から、悩んでたのってこの事?」


「あー〜違う違う!……もう良いだろ。」


二人は楽しげに歩いていくと、

面白いゲーム、楽しい人達、まだ見えない

新しい出会いを求めて、ロビーに戻った。



お悩み解決

       人数:2人



〜〜〜〜〜〜

これで一旦、序章は終わりました。

コレから色々な悩みを持ったキャラクターや、面白いゲームだったりを絡めながら、話を書いていきたいと思います。


まじムズイ休みも終わるし、でもネタはもう五人分ぐらい作ったから、

ゆっくりと書いていきたいと思います。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

気に入っていただけましたら応援 星 

よろしくお願いしまう。


ではでは、

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