第3話 特性 力持ち

振り上げた片手剣の重みを感じながら、

腕を引く力で振り下ろす。


半透明の体を持つスライムの身体を、剣がすり抜けて、スライムのHPがグッと半分ほど減る。

初撃は当たるが、その瞬間スライムに体当たりをされる。


かなりの重さがあって尻餅ついてしまう。

下に表示されているHPが、数ミリだけ赤くなり100から98に減る。


そしてちょっとだけ痛い、あの重さの水が体当たりしてきたことを考えれば、当然のことだけど、普通に鈍痛だった。


腕をバネにして、

跳ね上がり足を地面につける。

その勢いを殺さずに、剣の重さを込めた、

一撃を放つ。


たまたま放った一撃が、中心にあったガラス玉みたいなものを崩して、スライムは倒れる。


光の粒になって霧散していく。


「うおっ、思ったより強かったし、跳ね上がりできた。」


「大丈夫なのー、」

「うん、痛みもあるけど、すぐ引くしそんなに痛くはない。」


自分の右側に表示されているログにはいつのまにか、クエストから対戦クエストに変化していて、スコアただただ、離されていくだけ、


「……うーんやるしか無いか、」

沈黙の後、

ヒサ元運動部主将の勝負魂に火がついた。


腰から抜いた片手剣が形を変える。

分厚く重い、だが片手剣をそのまま大きくしたみたいな、シンプルな形の大剣になった。


電脳世界での装備品は、その人にあったその世界にあったものに変化する。

もちろん武器や服装など自分で変更する事は可能。


「おもっでも、フン!」


 やはり大剣の一撃は重く、片手剣では二発かかったところが、一撃でスライムを核ごと粉砕する。


返り血みたいな青色のゲルが、頬につく。

がフッと霧散する。


 ヒサは大剣の重さに、少しばかり苦戦はするが、それにもすぐに慣れて、問題なくスライムを狩っている。


スコアはぐんぐんと追いついてくる。


(ヒサは大剣か、一撃で破壊できる威力、

それに比べて俺の片手剣は威力は低い、

だがあのHP的に、核を壊せば片手剣でも一撃で倒せると見た!

それなら攻撃速度の高い方が、勝てるはず。)


この勝負、俺がもらった!!


自信満々で経った、五分後、ヒロシは平原に仰向けで倒れて息も絶え絶えにしていた。


一方あくまでいい汗かいた程度のヒサは、

自分のパネルとヒロシのパネルを見比べていた。


「アレ私の方が多く狩ってない?」


ついでレベルで、自身も壊された。


「いや、思ったより疲れる、ハー

スライムが一体一体離れてて、……多分初心者に群がらない対策なんだけど………初心者に負けた。」


 それに気が削がれたんだ、削がれるって言ったけど、盛られているものに気を削がれていた。

あの慎ましかった彼女っぱいが、この世界では戦闘で剣を振る度に、腕に圧されて窮屈そうに歪み、解放されて美しく大きく揺れていた。

「プルっプルっと、そうだそのせいだ。」と本心からなの嘆きを言いかけた時。


ガツッ

後ろから頭を叩かれる。


一瞬、忘れていたここは戦場、

彼女の盛った胸に気を削がれている場所ではない。

剣で切られた。



…ならそのまま倒れていただろう。


叩かれた衝撃で、お辞儀をするような前傾姿勢のまま倒れた。


その一瞬背後にいた人が見えて、

よくよく見れば、手に持っていたのが金属ではない、木材の暖かい色だった。


頭に走った鈍痛。


「イッテエェェ!」


「ああ…すみません私、スライムを追ってたら、本当にすみません。」


杖だったからよかったけど、剣だったらえらいことになっていた。電脳世界とは言え、想像するのも嫌なぐらい。


「大丈夫でしょ、ゲームだし。それになんか考えてたんでしょ、戦場で突っ立てる方が悪いよ。」


直前の事もあり、疲れもリアルに来るし、痛みも超リアル。

HPがいつの間にか71まで減っている、

コレは誰?いや、どっちから受けたんだ。


青いスライムか。

それともこの、紫色のローブに身を包んだ、骨格がふっくらとした、小柄な少女か。


 髪で目が見えなくて、ローブの首元で鼻先まで隠れてしまっているが、溢れていて、焦っているのがわかる。


「ああもう大丈夫、ですよ。

ってかありがとうございます、叩かれなかったら変なこと言うところだった。」


感謝と挨拶も兼ねて、手を握って上下に振った。


「え?え?どういたしまして?…すみません本当にすみません。コッ、コレ回復薬です、それではさら、ばだー」


それでも謝り続けるメカクレの女の子は、

カバンの中から取り出した、緑色のポーションを渡すと、


足を無駄に高速で動かして、走っていった。


明らかに運動神経の悪い走り方だったが、

ゲームのシステム上、ジタバタした走りでも、走りと判断したら颯爽とした走りになるんだろう。


回復薬を強引に渡すと去っていった。


「…なんかかわいいね、あの子。」



(なんつー古風な、ネットスラングなんか。

しかもサラダバーっとかって何十年前の物だ、)


去ってもなお、そこにいた女の子を思い出して目で追っていた、ヒサだけが気づいた事があった。


「アレでもヒロ、なんであの子、杖なんて持ってたんだろう。」


「ああ、確かにな。この世界魔法とかないって言ってたもんな、まあ、そう言うプレイングなんじゃね。」


「プレイング?」

何度か見た、目を黒枠と中を白くして、首を傾げて人差し指で下唇を触る。アニメや漫画でしか見たことがない、ヒサの事を初めて知った、ちょっとした噂程度になる癖だ。


「色々と教えたはずなんだけどな、忘れちゃった?」


「あの時はそんなに興味もなかったから、

難しい言葉の説明されても覚えられなかったんだよ。」


「そうか、次はもっと興味を持たせてから話すべきだったか。


まあプレイングはなりきりみたいなもんかな、そのキャラクターになりきってプレイしてる、人のことだよ。

あの人は多分、魔法使いプレイをしてたんじゃないかな。」


「魔法使いか〜、私もやってみようかな?

でも流石に大剣に魔法使いは、合わないかな〜…アハハ」


「何したっていいんだぜ。

本当の顔が見えないゲームだからこそできることだし、それに楽しみを見出す人は結構多いよ。

ココなら、もっと自分の顔でやってる人の方が少ない方だし、絶対バレないって、


プレイ、例えば、タ、例えば……ネカマとか…」


「ん?今なんか言った」


「いいや何も!」


俺にもあった高校時代、

ヒサは部活をやって、順風満帆の明るい学生時代の良い思い出かもしれないが、俺からすれば、俺の高校時代は暗黒期そのものだ。


ゲーム三昧で狂った時にやってしまった黒歴史を話すところだった。



冷や汗ダラダラで自分がスライムになってる感触まで感じてきた。

だんだんと目線が痛くなって、喋れなくなって、もっと注目される。

昔の黒歴史を掘り起こされる恐怖、怯え。


それを吹き飛ばすように、大声で自分を鼓舞する。


「もっと狩るぞ、今度は真剣勝負だ!」

「?…おーー!」


困惑したような、顔で、ヒロシ流されてか

自分もやりたかった事だからか、

ヒサは武器を高く掲げた。


「周回クエスト・リスタート」

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