第4話 ライトノベル研究会の日常とその中心

 あれから1週間ほどが経った。


 その間、俺は部室に何度か顔を出し、「ライトノベル研究会」の主だったメンバーと、一通りなった。


 今、ちょうど部室には、ライトノベル研究会の先輩が1名と、この間出会った小鳥先輩、それにライトノベル研究会の会長がいる。


「――みたいな事があってぇ、マジ受けるんすよ~! アオカゼたんも、そう思わないっすかぁ?」


 いま喋っている小鳥先輩と同学年の2年生の先輩、西園寺さいおんじ星歌せいかは、現実世界でいうとイキりオタクとかチー牛なんて分類されてしまうような種類のオタク少女だった。

 正直言って話していて気分のいいタイプではないが、だからこそ躊躇なく誘惑してそのままボロ雑巾のように捨てられると、俺は前向きに捉えている。


 星歌はオタク少女にしては珍しく髪色を茶色に染めていて、パーマをかけたミディアムヘアをしている。顔は美少女ではあるが、どこか性格の悪さが滲み出ているところがある。


 この星歌は、短い付き合いの中で既に俺にガッツリ惚れており、ことあるごとにめんどくさい形でアプローチを仕掛けてくる、調子に乗った困った美少女だ。


 俺はこの星歌にいかにして自分の立場を分からせるか、という暗い妄想をしながら、その時を楽しみに彼女との会話に耐えているのだった。


「ボクはそういう悪口みたいな話はあんまり好きじゃないなぁ! 前向きにキラキラキラーって感じの話をしてほしいな☆」


 このボクっ子が、我らが「ライトノベル研究会」会長の、二階堂にかいどう火鞠ひまりだった。


 この火鞠ちゃんは、正直言ってこのサークルの良心といっていい、聖女のような性格をした明るい美少女であり、このサークルの主だった先輩の中では一番気になる存在だ。


 この子は道端で捨てられた子犬を見つけたらそのまま拾って育ててしまうくらいの聖女っぷりを誇っており、性格も可愛らしい明るさをしていて、正直いって前世に出会っていたら恋をしていたかもしれないくらい俺のタイプだった。


 容姿も、黒髪をポニーテールにしている小動物系の可愛いビジュアルをした美少女で、なのに胸は大きく、ポニテから覗くうなじがセクシーで、実に魅力的である。


「俺も、火鞠会長の意見に賛成です。なんか明るい話してほしいです、星歌先輩♪」


 俺も美少年の後輩キャラとして、部室での会話には積極的に参加する。


 俺が話すだけで、部室の空気は不思議と明るくなる。この世界では、美少年の言葉には、それだけで自然と振りまかれる華があるのだ。俺の声を聴いたイキり先輩は、魅力にやられたように興奮した様子を見せ、


「あ、アオカゼたんがそういうなら、仕方ないっすねー! それじゃ、次はアオカゼたんが好きそうな明るい話を、小鳥っちにしてもらいましょっかー!」


「え、え、え、わたしですか? そんな、いきなり言われても困るよ、星歌」


 小鳥先輩は、初日に会った時の印象通り、この世界では強者側である女性としてはかなり気弱でおとなしい性格をしており、なんとも儚げかつ地味な雰囲気を漂わせたオタク美少女だ。


「もー、ノリ悪いっすねー小鳥っちはー」


 そんな、表面上はそれなりに明るく回っている、このサークル「ライトノベル研究会」であるが――


 だが俺は知っている。


 既に、このサークルの中心は、会長の火鞠先輩ですらなく――


 美少年のサークルクラッシャー、佐野碧風である事を――





 俺は、スマホを弄りながら話しているイキり先輩、星歌の様子を見ながら、自分もスマホの画面を見る。


 そこには、必死に俺にアプローチの文面を連ねる、西園寺星歌の裏の姿があった。


星歌>絶対に楽しいデートにするから! だから今度、一緒に二人っきりで遊びに行こ!


星歌>もうアオカゼたんの事を考えるだけで、心臓がどきどきしすぎてヤバいっすわ~


星歌>アオカゼたんが笑ってくれるだけで、なんか心が幸せになっちゃうんすよ!


 その、現実世界のイキり男のアプローチ文面に変換するとあまりにキモ過ぎる文面の数々は、見ているだけで共感性羞恥にかられて赤面しそうになるくらい痛々しい。


 こいつは徹底的に堕として、どこまでも残酷な末路を辿らせてやろうと心に決めながら、俺はこんな返信を時間をおいて返す。


碧風>星歌ちゃんとデートかぁ。まあいってもいいけど……他のみんなには内緒にしてね?


星歌>本当!? うん、絶対秘密にするから! やったっす!


 即レスが帰ってくるあたり、部室で会話をしながらも、星歌の頭の中は既に俺の事だけでいっぱいのようだ。


 それから、俺は画面を切り替えて、小鳥先輩との画面に移る。


 小鳥先輩も、会話しながらチラチラスマホを見る素振りは見せており、俺へ送った文面の返信が来ないかそわそわしているのが丸分かりだった。


小鳥>そ、その、この前話してた、買い物デートだけど……ちゃんとアオカゼくんにお洋服をプレゼントできるよう、お金下ろしてあるから……よかったら今度の土曜日、一緒に行かないかな?


 俺はその小鳥先輩らしい控えめなテンションのお誘いに、イキり先輩に比べれば好感が持てるなと思う。プレゼントも確定しているし、先にデートするのは小鳥先輩でもいいな、なんて思うが――


星歌>いやぁアオカゼたんとデート、マジ楽しみすぎるっす! 最高に楽しいデートになる事は確定してるんで、マジで期待しててほしいっすわ!


 星歌のその相変わらず調子に乗った身の程をわきまえないメッセージにイラつきが抑えられなくなってきた俺は、まずこの女を徹底的に潰すと心に決めた。


 俺は心の清涼剤である、火鞠会長とのメッセージを最後に見つめる。


火鞠>見て見て、こんなに綺麗に咲いてる藤の花、すごくない!?


 火鞠先輩は、恋愛的なアプローチをしようと思っているのかも読ませない感じで、普通に日常の楽しかった事、良かった事を画像なんかを添えて送ってきて、自然と仲を深めてくる。


 サークルの会長らしい好感の持てるコミュニケーションに、俺はやっぱり真面目に付き合うとしたら火鞠先輩しかいないな、と火鞠先輩がこのサークルではベストガールである事を認める。


碧風>火鞠先輩の笑顔みたいに素敵な藤の花ですね!


 俺はそんな火鞠先輩に少しでも俺への恋愛感情を強めてもらうべく、好意を意識させるようなメッセージを送って、小悪魔的に感情を弄ぼうとする。


 そこに再び星歌から連投メッセージが送られてきて――


星歌>デートは、今週の土曜日でいいっすか? もう他の女じゃ思いつかない楽しさMAXのデートプランを考えていくんで、マジ楽しみにしててほしいっす!


 お前には何も期待してないよ、なんてどす黒い感情が出てくるのが抑えられなくなりながらも、俺はそんなイキりオタク、星歌をどん底まで堕落させるイメージを思い浮かべて、一人暗い笑みを浮かべるのだった――

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