第2話 美少年ファッション、小鳥先輩を早速魅了する
俺が、美少女達のオタサー「ライトノベル研究会」に入部を表明してから最初にやったことは、彼女たちとの会話……
――ではなく、買い物だった。
俺が注目したのは、この世界のファッションだ。
元の世界でも、女の子というのはファッションに対して一般に非常に熱心であり、実際可愛い恰好の女の子、特にエロ可愛い格好の女の子というのは、例え容姿がそこそこレベルだったとしても、それだけで男が惹きつけられてしまうような魔力のようなものを持っていたと思う。
元の世界ではカッコいいというよりは可愛い系の、冴えないオタクだった俺だが、どうやらこの世界では「美少年」に分類される扱いを受けられる容姿らしい。
美少年というのは、主にオタク系の女の子たちがこよなく愛する概念であり、冴えない女の子がたくさんの美少年たちに囲まれる「美少年ラブコメ」や「美少年ゲーム」なんかが、この世界のオタク界では人気ジャンルであるようだ。
であるなら、俺がより「美少年」としてオタク美少女たちを夢中にさせるには、この世界の「美少年」のファッションを研究するのがいいだろうと思った。
そうして俺は、この世界の「美少年イラスト」や「美少年マンガ」「美少年アニメ」なんかのファッションをネットで研究し、一つの気づきを得た。
それは、この世界の美少年たちは、やたら丈の短いぴったりとしたシャツを着ているという事だ。
これはこの世界では「美少年」しか着る事が許されない「美少年専用ファッション」とでもいうべきものらしく、魅力的な少年がこのファッションに身を包んだ時のエロさは、オタク少女たちにとって筆舌に尽くしがたい凄まじさであるらしい。
いざこの恰好をするとなると、元の世界の感覚が残っている俺は結構複雑だったが、まあもう世界すら変わっているわけだし、今更恥ずかしがっていても仕方ないだろうという結論にやがて至った。
実際、試しにこの「美少年ファッション」の服を一着買って街で着てみたときの反応は劇的だった。
もう露骨に、道行く女性の目が俺に釘付けで、俺の露出した腹部の筋肉や、丈の浅いズボンから覗くボクサーブリーフなんかに、すっかり魅了されて発情した眼差しを向けてくるのだ。我慢できずナンパなんかをしてくる女の子たちにもたくさん出くわした。
俺は、元の世界で女の子たちが「男のエロい目線は分かる」と言っていた意味をまざまざと理解した。
若い女に見られていても怖さを感じるそのエロ目線は、年を取ったおばさんなんかにも向けてこられる事になるので、それは正直いってかなり気持ち悪かった。
これが元の世界でおっさんにじろじろ見られる美少女の気持ちか、と今更になって俺は彼女たちが日常の中で受けていた搾取に思いを馳せたが、今となっては元の世界に帰る事もできないので、すぐにその事は考えないようにした。
この世界では俺は美少年であり、俺は少女たちを弄ぶ悪い美少年になる予定なので、この美少年ファッションはそのための強い武器になる。
道端や大学での気持ちの悪い視線に慣れる事は、俺の目的からすると必要な犠牲であると言えるだろう。俺だって前世でエロい格好をした美少女がいたら思わずガン見してしまった事はあるし、それが因果応報で返ってきたのだと割り切る事にした。
さて、俺の預金口座には、前世と同じく大学入学までのお年玉貯金が数十万円程度貯まっていたので、俺はその一部を使い、最先端のオタク少女に受ける美少年ファッションを3セット購入した。ひとまずはこれらを着回しつつ、もっと服が欲しくなったら、その時は、あのオタサーの美少女達を買い物デートに誘って――
「ふひひ……」
その時の事を想像すると、俺は暗い笑みを浮かべる事を止める事ができなかった。
前世、不満と苦しみを感じながら呉羽日鳴という美少女に散々貢いできた事で溜まった大量の鬱憤。
それを「貢がせる」という形で晴らす事ができるというだけで、俺の期待感は高まる一方だった。
さて、それらの服を自宅に運んだところで、俺は早速その「美少年ファッション」に身を包み、大学に戻って「ライトノベル研究会」の部室に顔を出す事にした。
サークル勧誘のブースで入部を表明してから、まだ部室には顔を出していなかったので、これが俺にとっての「ライトノベル研究会」デビューとなる。
俺はちょっとした緊張を感じながら部室棟に入り、棟内の地図を見て「ライトノベル研究会」の部室を探す。
「あった……」
その部室は、3階建ての部室棟の3階奥、目立たないエリアにひっそりと存在していた。
部室のドアには、美少年たちのイラストが描かれたポスターなんかがペタペタと貼られており、この世界で真っ当な感性を持った男性なんかは近寄りがたいだろうなと推察される雰囲気が漂っていた。
コンコン、とノックすると、やがて部室のドアが開く。
「……キミは! こないだの美少年じゃないですか!」
ドアを開けたのは、こないだのサークル勧誘の時にブースに座っていた美少女の一人だった。
確か、名前は
さらさらした黒髪をストレートロングにした、小さな顔にくりくりした瞳をした美少女だが、その上半身は美少年のイラストが描かれたいわゆる「オタT」に包まれており、下半身は野暮ったい灰色のロングスカートを着た、この世界では典型的なオタク少女であると言えるビジュアルをしていた。
その雰囲気は、この世界において強者であるはずの女性としては弱弱しげで頼りない。
俺はその少女と目が合って、少女が顔を赤く染めながら視線をきょろきょろと逸らし股をもじもじとさせたその瞬間、一つの確信があった。
――この少女は、カモだ。
男に免疫がなく、そのくせ美少年が大好きで、鬱屈とした性欲を満たせないまま抱え続けている、典型的な弱者女性。
「こんにちは! 早速遊びに来させてもらいました! お邪魔でしたか……?」
俺はこの世界で受けのいい、けなげで可愛い美少年を装い、小首をかしげてみせる。
「い、い、いや、全然邪魔なんかじゃないですよ……? 歓迎、そう、もう大歓迎です……! たしか、名前は
後輩にですます調で喋る挙動不審な態度に、一度見ただけの俺のフルネームを全力で記憶しているあたり、このオタク少女が俺に深い関心を持っている事は間違いなさそうだ。
「はい、碧風っていいます! アオカゼくんとか気軽に呼んでください!」
「あ、あ、あ、アオカゼくん……よ、よ、よ、よろしくです……!」
先輩は、顔を真っ赤にして俯きながら、必死に命からがらといった様子で挨拶する。その視線は、チラチラと俺の美少年ファッションに包まれた露出した腹部や胸元に吸い寄せられており、その際の目つきはエロく凝視するようなもので、これだけでも強く発情している様子がうかがえる。
「先輩は、高岡小鳥さん、ですよね? 小鳥先輩、って呼んでもいいですか?」
「こ、こ、小鳥先輩なんて美少年に呼んでもらえるなんて……も、萌える……萌えすぎ……」
突然現れた美少年にすっかり正気を失っている様子の小鳥先輩に満足しつつ、俺は部室の中の様子を伺う。
「今は、他の方々はいないんですか?」
部室の中はがらんとしていて、机の上に置かれた携帯ゲーム機「トゥウィッチ」の画面が点いている事から、小鳥先輩が一人で退屈しのぎにゲームをしていた事が伺える。
「そ、そう、そうなんです……い、今は4限目が始まったところだから、他のみんなは講義とか、あとはバイトなんかに行ってるんですよ……」
「ふぅん……それじゃあ……」
そこで俺は、小鳥先輩に敢えて迫るように近づき、その左手を、きゅっと取って両手で握る。
「――二人っきりですね、センパイ♪」
「……っ!!!!!」
その突然のボディタッチとともに繰り出された、前世俺が美少女の後輩に言われたら一瞬で恋をしていたであろうセリフは、完璧なまでに小鳥先輩の心を、魂を、撃ち抜いていた。
先輩は、ドキドキしすぎて頭がおかしくなりそう、という心理を全力で表現した表情で俺の顔面を見つめ続けて、美少年の顔面を見つめた事で、さらにドキドキが止まらなくなる、というループにハマって、顔をこれ以上ないほど真っ赤にしていた。
「俺、センパイといろいろおしゃべりしたいです。そこのソファーに座って、二人でお話しましょうよ!」
俺はそんな小鳥先輩の手を引いて、部室の一辺を占める3人用のソファーに誘導すると、先輩の手を俺の太ももの上に置くようにしながら、腕や太ももを密着させてソファーに座る。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
興奮しすぎて息が荒くなっている小鳥先輩をニコニコと見つめながら、俺はこの可愛いセンパイをどう調理してやろうかと、暗い算段を立てはじめるのだった――
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