でっかいトランポリンの使い方

藤泉都理

でっかいトランポリンの使い方




 でっかいトランポリンの使い方を考えてみよう。


 学校の夏休みの宿題を見ていた大学生の家庭教師の青年、殻斗かくとが、教え子の少女、弥奈みなと少年、崇哉たかやの二人に夏休みの息抜き問題を出した。

 時々、殻斗は宿題や予習復習を見ている時、弥奈と崇哉に自分で思いついた息抜き問題を出していたのだ。

 二人の為でもあり、殻斗自身の為でも


「でっかいトランポリンがあったら、すんごく高く飛び跳ねて、実際に丸い地球を見てみたい!宇宙に行かなくても、地球の中で見られるんでしょ!テレビでやってた!カメラを設置した風船を飛ばして丸い地球を録画できてたもん!」

「ふむ。対流圏、成層圏、中間圏、熱圏、外気圏に高さでわけられる大気圏は、高度五百キロメートルで、学術的には高度四百キロメートルがまだ大気圏内と考えられているらしいが、一般的には大気がほとんどなくなる高度百キロメートルを宇宙としていて、丸い地球を見る為には、その宇宙から見下ろすしかないので、百キロメートルまで飛び跳ねなければいけないから、だとすると、トランポリンの大きさはどれほど必要なのか考えて………あ~。ごめんごめん。いかんいかん。ほら。家庭教師もプレッシャーがあるわけよ。生徒の思考力、読解力、判断力、ディベート力、分析力、知識力などなどを引き上げなくちゃってな」

「給料に直結するからね」

「親たちの信頼に直結するからね」

「「私/俺たちの将来がかかっているからね」」

「そうなんだよ~」

「「でも今は、息抜き問題だから、現実的知識及び答えはなしの空想時間です」」

「はい。すみません」


 三人でちゃぶ台を囲む中、殻斗は弥奈と崇哉に小さく頭を下げた。

 うむゆるそう。

 弥奈と崇哉は声を揃えて言った。

 ありがたきしあわせ~。

 殻斗は仰々しく言って頭を上げた。


「そうか。弥奈は丸い地球を見てみたいんだな。じゃあ、崇哉は、でっかいトランポリンの使って何がしたい?」

「太陽光が届かないとか、月の引力とか、衛星の電波とか、地球に影響がないってのを前提にして、地球を全部覆って、隕石とか宇宙人の襲来とか、ぽんぽんぽーんって、弾き飛ばしたい!トランポリンで地球を救うんだ!」

「却下」

「あ?却下って何だよ?」


 崇哉は弥奈を睨みつけた。

 弥奈は得意満面で崇哉の睨みを撥ね返した。


「だって、隕石とか宇宙人とかを弾き飛ばしたら、他の星にぶつかって、なくなっちゃうかもしれないじゃない。却下却下」

「それがその星の運命だったんだろうよ」

「地球を守る為に他の星を危険に晒すなんて最低。却下」

「おまえに却下する権利はねえ!」

「ある!私、あんたより頭いいもん!」

「でもおまえ、俺より字書きはへたっくそじゃん!」

「却下却下却下!」

「却下じゃねえ却下じゃねえ却下じゃねえ!」

「「師匠はどう思う?」」


 ギュンギンッ。

 弥奈と崇哉に睨みつけられた殻斗は、まあまあまあ、と二人を宥めた。


「ほら。弾き飛ばしても他の星にぶつからないって前提なら、いいんじゃないか?それと。宇宙人が襲来した時に、トランポリンで弾き返されるだろ?弾き返された時の感覚が面白くて、宇宙人は地球は楽しいところだ地球を侵略してはいけないってこの素晴らしい感覚を残しておこうって、他の宇宙人にも知らせようってなって、地球の平和が守られるかもしれないだろ」

「却下却下却下!」

「却下じゃねえ却下じゃねえ却下じゃねえ!」

「………ふふ。全然聞いてねえ」


 弥奈と崇哉はとっつかみ合いの喧嘩をしていた。

 殻斗は瞼を下ろして、二人の喧嘩が自然に鎮火するのを見守っていた。

 いつものように。


「「で。師匠はでっかいトランポリンを使って何するん?」」

「世界中を覆うでっかいトランポリンに、地球上の全種類の生物が乗って、一斉に飛び跳ねる」

「時差があるから無理」

「水生生物は陸に上がれないから無理」


 無事に喧嘩を鎮火した二人に向かって、殻斗は自信満々に言えば、間髪入れずにそう言われたが、そこはほら空想あるあるでどうにかなる方向でと答えつつ、時計を見ればもう一時間も経っていた。


「お。結構時間が経ったな。じゃあ。夏休みの宿題再開だ!」

「「おお!」」











(2024.8.17)



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