イタチ

第1話

清水の流れる溶岩石の間

それは、実に奇妙な話だ

水など、直ぐに吸い込んでしまう、その隙間の空いた地層の上を、水がさらなる水量をもって

流れるその姿は、実に奇妙に映る

私は、それを、一人、眺め、疑問に思う、これは、実に奇妙な場所だ

探せば、幾らでもあるだろう、人間が言っていない場所は、少なくとも、それを理解している人間は一人も居ない

それは深い話であり、浅い話ではない

それを、多方面にわたらせれば、学者など、使い道はない

私は、その水を、ビーカーに、入れながら、頭を、ひねる

水温は、やけに生暖かい

私は一人、栓をすると、あてどもなく、首をひねらせていた



家に帰り、電気をつけると、埃の詰まった、書類が、床を、歪ませている

私は、その上を、目的の書類の上に、さらなる、コピー用紙を、重ねながら

歪んだ明かりの下、標本を、サンプルとして、データーを重ねていく

私のゆっくりとした静かな歩みは、所狭しとされた、書棚の中を、海藻のゆるみの中を、泳ぐように

どうしようもなく、私の震撼を揺るがしていく

どうしようもない、私の考えは、切れたような電球を、一人、意味もなく、揺らすように、時折、意味もなく、ショートして、明かりを、あたりに、飛び散らしながら

私の視野を、壊しては、無駄なような資料を、積み重ねていく

文字が文字を呼び磁石のように、引っ付いて行く

それは、水滴のように、私の脳内を、ぐるぐると、巨大な、大海原のように、広げ、そこに無意味な意味を、広げていく

目の前の電球は、良く光る太陽のように、燃えることもなく、揺れていく

私の視界は、壊れたように、揺らぎ、意味もなく、私の息の根を、細切れにし、掠れた息を、無意味に、吐き出しては、枯れ木をゆするように、吸い込んだ


無意味無意味無意味だ

声はかすれ、辞書の中に、吸い込まれていく

言葉の詰まった用紙に、それは、潜んでいく

私の意味は、文字には、伝わらない

私はただ、無意味に、夜の中、意味のない明りを、頼りに、文字に、身をゆだね、寝そべる

そこに意味などない、それに、意志などない

だだ、文字の呼吸に任せ、私は、無意味な、思考を、くゆらしていく

目を閉じ、電気を消せば、声が聞こえる

言葉なき、声が、本の中より、ひそひそ声を、呻きを、笑い声を、あげている

ただ、それに、意味はない

文字は、ただ、いみもなく笑い続ける

私は、明かりをつけ、電気の下、わずかな温度変化を、本の中で、見るように

眼鏡の奥の眼球を、揺らすように、見続ける

私の視線は、黒いインクを、紙の中より、選ぶことなく読み取る

もじもじもじもじもじもじ文字

文字のインクの海の森の水の宇宙の空気の無意味の中

私の無意識な無意味な存在は、ただ、文字の中を、考える

選んだ、その文字は、絵を連ね

その中に存在する

爬虫類の解剖図の下の文字を、追うが、それに、意味はない、通り過去の間違い

存在しないはずのその生物が、本当に存在しないのかさえ、分からない

なぜなら、それは、存在していなかったかさえ分からない

空想なのかさえ分からないのだ

私は、一人、文字を追う

そんな馬鹿な話はない

私の存在は、揺れる水槽の中の歪みのように

私の存在は、コドクな意味を、無意味に、彩り、水葬を、彩る花の山のように

遠くの鷺山で、人が、海の上で、ばらばらに、されるように、私は、一人、無意味な死を、悟る

私は、どうすれば、答えの山から、逃げる事が出来るのであろうか

私の存在は、本当に、私なのであろうか、私は、私なのであろうか

この水槽の中にいる、私の心臓のように動く、ただのグッピーは、ハリセンボンのように、その体格を変え

無意味な心音を、私のこの場所まで、エアーレーションのブクブク音を、越えるように、振動させている

紛れ込んだ、毒を、うのみにせず、ただ、明かりの下、毒が、漂白され、表をどす黒く、汚している

窓の外からは、三重の明かり窓が、空気を遮り

外の壁一面に、張り巡らされた空気洗浄機が、無意味は、正常性を、このログハウス風の部屋に、送り込む

黒いキーボードは、血にまみれ、さらなる、黒さを、控目にも、増やし黒々と光らす

私の心音は、針を刺され、冷凍されたように、ゆっくりと、静かに、鼓動を、落としている

私の思想は、本に、挟まれ、黒い血液が、本に落ち潰された

圧で、本の間から、本の山のてっぺんから、チョコレートを、垂らすように、隙間から、流れだす

黒いインクは、地面で、木目を、網目を、あみだくじのように、流れていく

私の死相だ、誰かの占いの本の間からも、漏れ出し

黒い顔を、地面に、示していく

私の死相を、歌うように、そこにいるのは、私の影法師だ

私自身ではない

そこにいるのは、私自身ではない

だからこそ、私の明かりのない部屋の下にいる

この私は、私の陰ではない

私自身でもない

しかし、そこには、私がいる

黒いインクの中

私とは相いれない、それが、私であり

私が腐らせた、ミイラになった皿の上の、目玉焼きを、食べている

私は、もう死んでいる

黒いインクの中

溺死したように、皮膚から、黒い毒が、しみこみ

私はもう死んでいる

誰にも発見できない

この黒い山の中

この書物を、見るものは居ない



死人の書物を、草の中から見つけ、私の以外は、人知れ芦の根元に転がり

その周りだけ、数年は、葦の育ちが良く

私の屍は、野鼠の躯を助け、虫の住まいを豊かにし

ゴミのような薬剤が、その環境を、破壊する死神となるだろう

なることであろう

人間の屍のうえに、成り立つ、私の操り人形の担い手は、壊れた機械であることは、誰もが知って居る事実であり

私の屍の値踏みを、野鼠の証人が、数銭で、取引を繰り返す

頭上の鳥は、鼠の算段を、如何に、引き算に、持ち込むかを、雲の行方を、話し合いながら、計算を、その奥に見る、遺骨の宝石性は、人間の残忍性に対する呪詛としてよく売れる

私の呪いを、果たしていくらで、彼らは、呪いとして買うのであろうか

土の中の弔いは、除草剤と殺虫剤のカクテルにより

人間の返しきれない借金は、確定され

毎年、総理大臣は、自分の一族を、針で、ついばむ死刑を、楽しむ

確定王は、死人の躯の中、食いどころのない人間を、あざけ笑い

煉獄と言う

この世とは隔離された天国にも、地獄にも、この世のサイクルから、隔離された無間地獄の中

永遠の苦痛を、楽しむ事になる

それを知る一部の学者は、みずから、首をくくり

無知は、叫びながら、地獄の間を、無意味に生きる

ただ、死のなぞかけを、無意味に、解きながら

風呂で、氷のみずから、顔を出す女は、体中の毛穴から、宝石や、化粧品を、あふれださせ

無価値な、匂いは、消臭剤に、溺れている

明かりは無意味だ、私の人生を、燃やしながら、家の導火線を、爆発へと導く

私の死相は、いつも笑ってい

黒い鏡の中で、黒い顔で、私の前に立ち、私の意味を、無意味に変える

本の山の中で、私は笑っている

それは、本当に、私なのか、かりんとうを、食べながら

口から、シデムシを、吐きながら、目から、かたつむりを、這わせ、見る洞窟は、私の人生を、ロシアンルーレットのように、確定させる

選ばれた嘘は、逃げようもなく、逃げたさきにも、救いはなく、ただ無意味達が、騒めき、自滅していく

其れさえも、全ては、無意味だ

ただ、墨汁のやみの中に、泳ぐだけだ

その栓は、閉められ

窒息しているしかない

その外で、宇宙人は、笑うだろう

実に、無意味だと



殺せ

虫の王が、叫ぶ

意志を持たない王が、叫ぶとき

人類の偽善は、殺された

人類の悪意は、食い尽くされた

人類の生物は、侵された

ただ、そこに、あるのは、何もない

ただ、砂嵐の中のように

全ては、小さく、そして無意味に、並べていく

人類の価値は、無に帰した

ただ、存在だけが、無意味に並べられ

そこには、初めから、ルール違反など、存在した痕跡はない

昆虫の死など無意味だ、人間は、それ以下だ

ただ、積み重なる無意味は、言葉は無くとも有意義であるが

人間の死は、無意味だ

ただ、二酸化炭素を、吐き出す塵である

ただ、一人の死は、感情的に

されど、それは、無価値などうでもいいゴミである

ゴミにゴミを重ねた、花嫁は、ただ、ゴミの中に夢を見る

ゴミの雨に、ゴミの思想

ただごみごみと、ゴミがごみを吐きながらごみを呼ぶ呪文を喋る

ただ、空は、灰色に、無意味な息を、吐息を吐くのです

虫の羽ばたきは、無縁を、吐き出す

ただ、本能は、ゆっくりと溶ける





扉を開けると、そこには、ピエロがいた

そのピエロは、どうしようもない、邪悪な笑みを浮かべ、私の財布を抜き取りこういう

あなたの寿命と、その金を、交換しました

あなたはこれで晴れて、自由の身です、ハッピーエンド

私は一人、財布の中の十円玉が、やけに瑠璃色に輝いているのを見て、愕然とするのです







ゆっくりと油が溶け出すように、私の体内は、善意と言う名の強制力により、溶けだしていく

光り輝く明かりの中で、私と言う存在は、果たして何をもって、光と言うのだろうか




冷えた冷たいトイレ

タイルが均等に、並び、その中の一つの個室に

私は居た

だれのこえもきこえず

誰も私の答えを聞かず

換気扇は、何処までも続く地獄の穴のように

意味を見出さない

私は生きているのだろうか

汚れ一つ見つからないトイレ

悪臭はなく、何処からかさわやかで落ち着きのある芳香剤の香りが

私の周りを漂う

ただ、どうしようもない、焦りが、涼し気な、この適温のトイレの中

私の体から、絞りだすように、汗が垂れ、はがゆい苛立ちを募らす

スーツからは、白いシャツが顔をのぞかせ腕の時計を見え隠れさせる

この空間にきて何日目だろうか

時計の電池は止まって居る

長い蛍光灯は

揃えられた軍隊のように、規則正しく二つ揃いで

そこに並び、私の不確定的になってきた精神をさかなでる

灰色の皮膚に、入り込むような白と黒色の壁

黒い靴は、耳障りに、タイルを歩く

一人黒い目線が、この均等の等しいトイレの中

溶けるように、そこにいた

腹が減らないのはなんでだろう

腕をつねっても居たくないのは皮膚病だろうか

白い陶器の洗面台から

清水のように、彫像のように、流れだす水は

砂時計のように体内を通り過ぎ

不思議なほど、この場所にきて、使用していない本来のこの場所の意味を浮き彫りにする

時間が分からない

私はここにいる

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イタチ @zzed9

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