第18話 織田信長の登場
フロイス一行に、これまでの形勢が一変するような出来事が起こったのはその直後のことであった。
それが、義昭と信長の上洛である。
(これまでの布教の中で、その国の最も権力を持つ支配者から、布教の許可を得ることを目的にし、布教を続けてきた歴代の神父たちがいまだに允許を得られない状況は、この国の支配者たちが目まぐるしく入れ替わっていくことにある)
フロイスは船中でのことを思い出していた。
(有馬氏や大友氏、大内氏が国王だと誤解していた宣教師たちは、当初から戦略を見誤っていた)
フロイスはここに来たあらためて地方統治者をさらに統率する将軍という職、さらにはその上に君臨する帝という世界まで遠いと感じていた。
(洛中に居を定めて行動することが大切である)
自問自答を始める。
(やっとの思いで洛中に居を構え教会を建てることに成功はしたものの、頼りにしていた足利義輝は三好一族に殺害され、その三好一族に洛中を追放され、次期将軍と思っていた義栄を押しのけるようにして、今度は、織田信長という武士が義昭という将軍を引きつれて上洛してきた。彗星のごとく。彼はどうだ。頼りに信なるか)
しかし、一方でフロイスは、また同じことを繰り返すのではないかという不安が心をよぎっていた。
「何と目まぐるしいことか。我々の努力はどこに行こうとしているのか」、フロイスはアルメイダに向かって言った。
「このままではとても、内裏のひざ元までにもたどり着けはしなない」
「この信長という男はいかほどの者か、頼ることはできるのか。三好一族と同じように、また我々を悪魔呼ばわりするのではないか」と、たて続けてフロイスは言った。
「巷では、信長のことをいろいろと噂しております」アルメイダは返した。
「信長か。まだ見ぬ為政者はどのような者か。会ってみたい」と、フロイス。
「生まれは尾張那古野とか。代々守護の代わりをする家柄にして、二子でありながら、父信秀からは跡取りとして信を得ている人物とか。小さき頃から気が強く奇行ばかりを繰り返し、世間ではおおうつけ者と呼ばれているようにございます」
「おおうつけとは。愚か者ということか。そのような人物が天下を取ろうとしているというのか」
「いかがでございましょう。会って見るまではわかりません。おろか者なのか。この時代の枠組みにはまらない者とはどういう者なのか」
「どりような風貌か」
「髪は少なく、背丈はさほど高くないとのことです。華奢な体つきで、はなはだ声が大きく。酒は飲まず、食を摂し、極めて清潔であるとも。何よりも極度に戦を好み名誉心に富み正義に厳格で屈辱を嫌うとか。また貪欲でもあり老練でもあるとも。性急で決断力があるいう者ます」
「わたしにはいずれの大名も同じように見えるが」と、フロイス
「また、偶像を崇拝することが嫌いで、茶を嗜み、刀を集め能などさまざまな芸に通じているとも。信長を恐れる者が多い反面、人情深く、慈悲深く、よき理性と明晰な頭脳をもっているという者もすくなからずいるようで、嫌う反面、慕う者も多くいるようです。実際のところはよくわかりません」
「人の価値は難しい。接する側の者の価値もある。一概には判断ではないということか。いずれにしても会ってみないとわからないということ。話せば人の真意を確かめることはできる」と、フロイスは最後に結論めいたことを言った。
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