第17話 遠のく洛中
永禄十年の秋。
フロイスは、洛中を離れ早二年が過ぎようとしていることに苛立ちを覚え始めていた。
「なんとか、今一度洛中に向かわなければならない。そうでなくてはこの先の我々の使命は果たせない」と、ヴィエラ神父に向かって言った。
「義輝さまに、やっとの思いで頂いた允許状が死により、また元に戻る形になっております。あらたな手立てを考えなければなりません」と、ヴィエラが言う。
続けて。
「洛中に戻るには、帝の詔勅が無くては帰ることができません。何はともあれ、いまは洛中で力を持っておられる三好様の力お借りするしかないのでは。三好様にお取次いただきましょう。それ以外には手がなさそうではないでしょうか。二年もの間で世の中も少しは変わりつつあるのではないでしょうか」
「確かにそのとおりかもしれません。堺での布教にも大いなる意味があります。しかし、我々が国の中心である洛中より追放されたままでは意味がありません」と、フロイス。
「では、早々に手はずをととのえましょう」と、ヴィエラ。
この日を機に、フロイスはあらためて精力的に活動することを決め。まずは洛中に帰ることができるようにすることが先決であることを胸に刻んだ。
手始めに三好三人衆に問いかけることにした。しかし、彼らからの色よい返事は返ってこなかった。
さらに、最近勢いを増してきている篠原長房をも頼ることとした。長房の家臣のなかでもキリシタンで宮中に詳しい竹田一太夫を派遣してもらいフロイスたちの声を帝に届けてもらうことを考えた。しかし、これもまた拒絶される。
それを見た長房は直接朝廷に申し出ることにした。そのため正親町の内裏の生母栄子が叔母であり妹の房子が後宮に入っていた公家の万里小路惟房に書状を携え一太夫を遣わすことにした。
「伴天連が追放されたのは不当である。内裏に一言執り成してはもらえないか」
それに対する返事も同じ。これにも返事は返されることはなかった。
再三にわたる書状を遣わし、ようやくのこと得られた返書にはこう書かれてあった。
「いかなることがあうとも伴天連のことを帝に取り次ぐようなことはない。なぜなら、伴天連の教えは悪魔の教えであり、彼らは人肉を食う。彼らが触れたものは、樹木はもとより、生き物でさえ、たちまち枯れその鼓動を止めてしまう。お前たちはやがてはこの国自身を滅亡に追いやるであろう。そのような誤った信心を我々が口にするなどあり得ないからだ」
これを見せられたフロイスたちは落胆を隠せなかった。
「我々の真の姿を見てもらえれば、そのような疑念はいともたやすく消えてなくなるはずである」と、フロイスは嘆いた。
フロイスは、自らの言葉でそのことを伝えるために、公家を始めとする禁裏と宗論することを決意し、無謀なる上洛に向かって進んでいった。
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