第14話 再びモニカの事
モニカの父親デイオゴが進めていた、異教徒の叔父との婚姻を、フロイスの進言により思いとどまっていた。
その後、モニカはそれまでと同様に徳を磨き続け、一段と香り良い感覚を身に着けた人物として育っていた。
その名前と評判は、堺中でも話題となっており、叔父以上に高貴で富欲な身から数多くの求婚を受けるようになっていた。
なかでも、奈良屋宗井という商人の息宗札という廿二歳の若者が、熱烈に、そしてしつこくモニカに求婚していた。しかし、デイオゴはこれを取り合わなかった。それを押して奈良屋は力ずくで彼女を誘惑しようとしていた。
デイオゴは、このことが争いごとにつながらないようにと、娘が日曜や祝日に教会で行われるミサに出向く時に宗礼の家を通らなくようにし、目立たないように行動させていた。
ところが数か月後のある祝日の日、彼らは護衛をつけずに出かけたモニカを見逃さず拉致したのである。
堺にいたフロイスは、その事件を耳にした。
市中では、イエズス会をよく思わない者たちが噂していた。モニカがこのような目に遭ったのは、恐ろしい宗教を信じているからだと。
「なんと恐ろしいことだ。あのモニカが。あれほどの敬虔なモニカになぜこのようなことになるのか。悪魔がこの地でうごめいている。デウスよ。この出来事を平安に沈めたまえ」と、フロイスは祈った。
平素は思慮深く冷静で、慎重で沈着なデイオゴですら、その動揺は大きく、武力をもっても娘を取り戻そうとしていた。
司祭たちは、それを押しとどめデイオゴを力ずくで家に連れ帰った。同時に相手方の父宗井を連れ出し、それを監禁して娘が解放されない限り放免しないことを伝えさせた。
そうこうしているうちに七日がたった。
モニカは、閉じ込められた部屋で座ったまま、その場所から身を起こすことなく、ロザリオを手にしたまま祈り続けていた。
「わたしは罪深く、そのため司祭様やご両親様や周りの方々に、こんなにも多くの悲しみを与えていることに心を痛めています。我らの主なるデウス様。その恩恵と御慈悲によりお力にすがりたい。私の喉元に突き付けられた刀はわたしに与えられた大きな苦しみであります。デウス様への大きな冒涜となっても、この屈辱よりも死を選ぶことが正しいと決心しています」と。
進展のないままさらに十日の日が経った。
宗礼は、無理矢理にモニカを奪うならば、まず彼女を殺し、ついで自らも死のうと決心していることを伝えてきた。
宗礼を改宗させキリシタンとなして、モニカと結婚させることが最も良い解決策ではないかと司祭たちも考えを変えるようになってきた。
宗礼は、それを受け入れ受洗しルカスと名乗ることを認め、キリシタンとなってモニカを娶ることにした。
司祭たちは、大いにこれを喜んだ。そして彼らの生活をみんなで支えることとした。そして、そののち、二人の間には一女一男が生まれた。
しかし、幸せは長く続かなかった。モニカはその後すぐに大きな病に見舞われた。彼女の母は、自らの命と交換してでも娘の命を救ってほしいとデウスに懇願したが。その祈りは神に届かなかった。
祈りもかなわずモニカは神へ求めた祈りを満たすようにその命を召されてしまったのである。
良いことと、よくないことは、こうして繰り返し起こる。
すべてのことが、うまくいということはない。
この世は、不条理なことが多すぎる。
フロイスはあらためて自らの行動と信仰に強い意識を感じ取った。
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