第12話  フロイスの落胆

フロイス神父たちは、詳細を聞き嘆き悲しんだ。


ひとつは、これまで苦労して、ヴィエラ神父たちが、将軍や三好殿から得て来た「允許状」が無に帰したことである。また、ひとつは、これらの政変により、洛中をはじめとする世の中に災いが巻き散らかされたことであった。


「この国の人々はすぐに腹を切る。腹切りは悪魔によって導入された日本の一般的な非常に古い習慣である。殿たちは敵に抗し得ない場合には、自ら短い刃を抜いて自殺するのである。不思議な国である」と、フロイスは傍らにいたアルメイダに話しかける。


司祭たちは、キリシタンたちからの警告を受けて聖堂に引きこもって祈祷を行い主デウスに自分たちの庇護を求めつづけていた。


キリシタンたちは、自分たちの国主とその一族がいとも不当に殺害されるという戦慄すべき恐ろしい事件に遭遇したことに驚いていた。


そうこうしているところに、松永の家臣結城山城守という者が来た。


「あの連中は自分たちの将軍であり主君である方に対してあのような叛逆を行った。彼らはいとも容易にあらゆる悪行を行うことが十分に考えられる。それゆえ伴天連様方も身の安全を図られねばなりますまい。彼らはデウスの教えの敵であり、デウスの教えを破壊しようとしている輩である」と。


司祭は街路に面する扉を閉じ、戸を叩くものがあるたびに災いを予期していた。かれもそのような者の一人に如かずぎない。


同じ日曜日の夜、結城殿は一書を甥の結城ジョルジョ弥平次に携えさせて司祭たちの許に届けさせた。弥平次は善良なキリシタンで、ヴィエラはこの警告について山城殿に誠意を伝えさせるとともに、能く月曜日の朝、相談したいといった。


市街は騒然としており、司祭らは市中に多くの敵を有していた。

彼らはデウスに万事をゆだねることにした。


翌日、早朝ミサ聖祭りを行い聖霊に乞うた。そこでフロイスはこう言った。


「異教徒たちは皆仏僧からに煽動されわたしどもに悪意を抱いている。松永らがわたしたちを殺そうと決意すれば、わたしたちには、ここにいても堺においても彼らから逃れることはできない。すべての道路は兵士たちよって占拠され、他の地方に行くことはできない。このようなおりにわたしたちが、この家から出れば自身の隣人たちは、いずれも異教徒だからわたしたちを殺すでしょう。わたしたちが立ち去るならば、彼らはただちに教会を奪うでしょう。そうすれば、ふたたび洛中に戻ってくることなどは困難になることは明らか。わたしたちがデウスの教えを説くために死ぬならば、それはわたしたちにとって大いなる名誉であり喜びである。だからここから離れるわけにはいかない」


決意は示したものの、フロイスの落胆はとても大きなものであった。

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