第10話 アルメイダ、豊後へ帰る
アルメイダは、フロイスに頼まれ洛中周辺の状況を布教長のトルレス神父に報告するため大和に向かっていた。
翌日、どしゃぶりの雨の中、大和に入り松永弾正の居城である多聞山城を訪れた。
城は高い山を切り開いた険しい山頂部にあった。山の斜面には家臣たちの屋敷が鱗のごとく築かれ、石垣で築かれた城壁とキリスト教国でも見たことがないような白く輝く塀、また屋根には黒く覆われた瓦で覆われていた。城下には町があり、街路は地上の楽園に踏み入ったと思わんばかりに清らかで白く輝いていた。
宮殿を見るように即され中に入ったアルメイダはさらに目を奪われた。
すべて白木の杉材でできており、室内はほのかに漂う樹木の香りで満たされていた。
広い廊下には一面に板が張られており、その壁には金や様々な色で古い歴史絵巻が書かれていた。柱という柱には金銀の飾り金具が取り付けられていて彫刻が施されているところもあった。天井も一枚の板でできているのかと思うくらい継ぎ目も見ることができなかった。また、宮殿内には庭園があり樹木が丁寧に選定されひとつの芸術をなしていた。はなはだ美しく珍しいものに言葉を奪われた。
多聞山城を後にしたアルメイダは、そのまま興福寺に向かった。
興福寺は、南洛中七大寺に数えられる古代寺院である。藤原鎌足が婦人鏡女王のために発眼し、その息不比等が造営したと伝える大寺院である。奈良時代以降たびたび戦火に会い再建が重ねられアルメイダが訪れた頃は最も大規模な伽藍を有していた。
目にしたものは、はなはだ見事に造られた美しい石の階段、手に笏を持ったおどろくべき大きな巨人。四面廊下で囲まれた石敷きの廊下と中庭などであった。
さらにそこから春日大社へと向かった。ここの祭神は女神で現世における長寿、健康、富、名誉を得られるのだという。神社に向かう参道の両側には石柱が等間隔に建てられており、夜になると点灯されるということであった。道路の一方には小川が流れ趣を作っていた。さらに森の中を抜けていき東大寺というひときわ大きな寺院にたどり着いた。ここには大いなる仏という意味の大仏が安置されていた。
奈良見物を終えたアルメイダは、三十日に五里ほど離れた十市城に向かった。
城主の石橋殿は信長の家臣であり、義昭の従兄弟である。
そこでおおくの質問を受け説教をした。
四月六日まで滞在したのち、さらに六里離れた沢城へ向かった。沢城に向かう途中、アルメイダが向かっていることを聞きつけた高山ジェスと右近とその父高山ダリオ友照が派遣した二頭の馬と弓を携えた十五名ばかりの兵に出会った。
沢城は高い山の上にあり、まるで中空に浮かんでいるように見える。周囲を美しい樹木が取り囲み、非常に快適であった。眺望はとても美しく、家屋や村落一つも見えず遠くまで開けていた。そこでも大いなる歓待を受け愛情を以て受け入れられた。
十一日まで沢城の教会に滞在した。
十三日に境に戻りデイオゴの家に泊まり。十六日までそこに滞在し、堺を出航し、デイオゴは洛中に戻ることなく、四月二十九日に豊後に帰ることになった。
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