第17話 外

 そのまま梟に従って洞窟を出ると「あれ?」となる。

 森林ではなく、視界が開けた山のふもとだったからだ。


「ここは魔物の森ではなかったの?」


「魔物の森は無くなりました」


「は?」


 虚をかれるセレス。

 そんな彼女へ追い打ちをかけるように、その者はやって来た。


「よお。もう行くのか?」


 何処からズンズンとこちらへ向かって巨体が近づいてくる。

 それに気づいた途端、セレスは剣の柄を握って身構えた。


「その角。その外観。お前は、魔人!?」


 セレスの前に現れたのは、屈強な肉体を纏った赤き魔人。

 三メートルはあろうからだと猛々しく光る赤眼からは、あらゆる生物を押し潰すかのようなとてつもない圧力が滲み出ている。 


「おお。こうやって見ると本当にアイツに似てんだなぁ。エルの言ってたとおりだぜ」


 魔人はセレスの顔をじっと見やってから、親しげにエルフォレスへ話しかけた。

 セレスが二人に疑念の眼差しを向ける。

 エルフォレスは穏やかに微笑むと、彼女へ魔人について説明した。


「暴虐の魔人レオルド?しかも古の四天王?」


 もはやセレスは驚きよりも呆れていた。


「しかし、こんな可愛いお嬢ちゃんが勇者なんて、時代も変わったもんだぜ」


 魔人は愉快に笑いながら、改めてセレスへじろりと視線を落とす。


「だが、嬢ちゃんがあの魔王のバカを倒したんだもんな」


「バカって......とんだ言いようね」


「バカはバカだ。で、嬢ちゃん」


 魔人が急に真顔になる。

 転瞬、魔人の全身から発せられた暴力的なまでの殺気が一帯を抉るように震わせた。


「貴様!」


 すでにセレスは距離を空けて剣を抜いて構えていた。

 魔人の赤眼がギラリと危険に光る。


「オレも殺すか?魔王と同じように」


「それは貴様次第だ」


「いいねぇ。イイ眼だ。可愛らしい見た目でも勇者は勇者なんだなぁ!」


 魔人の全身が赤く光り出すと同時に、岩のような拳が赤黒い禍々まがまがしき炎に燃えさかり出した。


「ルミナスワード」


 今度はセレスの全身が白光の膜を纏ったかと思うと、剣からは眩いばかりの聖なる光が迸った。

 空気が叫び、大地が踊る。

 一触即発で向かい合う魔人と勇者は、間もなく飛び出した。


「オラァァァァァ!!」


「ハァァァァァッ!!」


 凄まじい烈風を撒き散らしながら炎と光が衝突した。

 と思いきや。


 ズゥゥゥゥゥッ


 突如、魔人と勇者を遮るように、炎と光の間に深き闇が現れた。

 闇は炎と光を滅失させるように呑み込んでいく。

 即座に魔人と勇者は跳び退がった。

 

「あ、貴方は!」


 闇の中にセレスが見出したものは、黒髪の若い青年だった。

 魔人は口の端にニヤリと笑みを浮かべた。


「よおレード。良いタイミングだったぜ」


 レードは赤黒き炎と聖なる光のすべてを暗黒の中へ葬ると、闇の魔力を解いた。

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