第19話 高台へ
日曜は何事もなく――ということもなく色々と対処しつつ過ぎていった。
というかもう布団に寝転がっている。
寝て起きたら普通に登校だ。
……花に何と言えばいいのか。
海外に行くという壮大な嘘を吐いて告白を断った男にならないだろうか……。
まぁ、嘘ではあるんだが。
とりあえず往復ビンタは覚悟しておいたほうがいいな……。
・・・・・・・・・・
――んん?なんだ……?
頭の中で何か響いている。
いつも脳内目覚ましは使わずスマホのアラームを使っているんだが……。
『械之助、そんなだと社会になじめないよっ?にんげんらしく、ね?わかった?』
――あぁ、分かってるよ……。
――おやすみ、結美乃……。
『ひゃくっ、ごおっ!』
「――おおうっ、なんだっ?」
いきなりの大音量に飛び起きた。
『……メイリー、です』
です?
『あぁ、こんばんは、メイリーさん』
『うん……こんばんは』
2日ぶりのメイリーさんは何かいつもと違う気がした。
というか、あのゆったりした話し方でなくなると美しい声質が際立つな。
メイリーさんはとても耳心地のいい声をしている。
だが――――
『……どうかされましたか?』
『……ごめんね、寝てたよね……』
『いえ、それは構いませんが……少し緊張されているような気がしたので』
『あ…………外、出られる?』
スマホで時刻を確認するとまだ5時だった。
とはいえ補導を気にする時間でもない。
『ええ、問題ありません』
服も今着ている襟シャツでいいだろう。
――――俺は扉へ一歩踏み出した。
・・・・・・・・・・
メイリーさんは景色のよい場所に行きたいとのことだ。
俺は歩いて15分ほどの高台を目指すことにした。
今も薄暗い道を歩いている。
今日の気温は暖かく、昼は少し暑いかもしれない。
『…………』
『…………』
メイリーさんはけっこう物静かだ。
今週の学校生活でも基本的に俺が話しかけなければメイリーさんはずっと静かにしていた。
――今日も俺から切り出すとしよう。
『メイリーさん』
『なに……?』
やはり緊張しているような気がする。
『俺は課題を達成できなかったにも関わらず、どうやらそのままの生活を許されるようです』
『……うん』
『――知っていたんですか?』
『……うん』
『ちなみに、いつからでしょう』
『……最初から知ってた……秘密にするよう指示、受けてたから……』
『……そうですか』
つまりこれは最初から失敗による罰則などない任務だったということ。
というか俺はメイリーさんから失敗時のことをろくに聞かず、推理して決めつけていたな。
反省だ……。
『つまり、この任務は俺の学校生活を支援するためのものだったと?』
『それは……』
『……この任務はまだ続きますか?』
『…………』
メイリーさんは言葉に詰まっている。
――――何か嫌な感じがする。
俺の拙い人生経験がメイリーさんの言葉の節々から何か嫌なものを感じ取っている。
……少し待ってもメイリーさんは言葉を返さなかった。
『メイリーさん、個人的に気になっていたことを聞いてもいいですか?』
『……うん』
正直、俺自身が嫌な何かから話を逸らそうとしている部分も少しはある。
だがもし任務が終了でメイリーさんとの会話がこれで最後なら、彼女のことをもっと知っておきたかった。
俺はメイリーさんの純粋な人柄がなかなかに好きなのだ。
『――メイリーさん、あなたは学生のときどんな風に過ごしていましたか?』
『ぁ……』
『そして、何を思い機関への道を進みましたか?』
メイリーさんのような人柄の形成には穏やかな環境は必要不可欠だろう。
そしてなぜその環境から楽ではない機関の職員になろうと思ったのか。
俺はそれを聞いてみたかった。
『……わからない』
分からない……?
『……というと?』
再びの間が生まれ――――
『――記憶喪失……だから』
『…………それは……』
どうやら俺は、踏み込み過ぎたのかもしれなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます