第12話 ぐっすりサイボーグ
放課後になった。
というか結美乃は真後ろの席なので非常に居心地が悪かった。
いやというか、攻撃してくるのだ。
――授業後。
『結美乃、授業中にシャーペンで首を刺すのはやめてくれないか』
『は?なんのこと?』
『……分からないならまぁいいが……』
そんな問答が授業後毎回行われた。
とはいえそれ以外に特筆することもなく……。
――そして迎えた放課後、俺は教室に残っていた。
よい思い出などあまりなかったが、どうやら初めての外で長い時間を過ごした場所というのは特別らしい。
なんとなく名残惜しさを感じつつ、すでに部活動が始まり賑やかなグラウンドをぼんやり眺める。
俺がもしあんな風に人との関わり合いの中で過ごしていれば任務も簡単に──という話ではもはやない。
与えられた任務は最初から、俺をそれなりに体裁よく研究所へ戻すためのものだった。
「械之助〜」
根拠は2つ。
1つ目は課題の不自然さだ。
普通なら最初は友達作りといったものだろう。
デートというのは俺の現状からして難易度が高すぎる。
「おーい、聞こえてるー?」
2つ目はアドバイザー、つまりメイリーさんだ。
単純明快に、彼女は社交能力が低すぎるということ。
メイリーさんにアドバイザー役は流石に無理がある。
意図的な人選だろう。
「夢山くんめっちゃたそがれてる……今日もかっこいいよね……」
「え、なに、もしかして械之助のこと……」
「ち、違うし。というか麗だって──」
正直なところ、この流れは俺にとって意外だった。
俺の学校生活はとある実験の報酬であり、機関にとって反故にしづらいはずのものだった。
義を重んじるなどの話ではない。
では一体なぜか。
それは俺がその実験により機関の強制命令を解除できるようになり、危険だからだ。
俺が処分されていないのは実験体としての貴重さと俺への信頼ゆえだろうが、警戒せざるを得なくなったのは事実のはず。
だが今、慎重とは言いがたい方法で研究所へ戻されようとしている。
それを可能にしたのは────
「俺を上回る個体……か」
「えぇ……何言ってんの、アンタ」
「む?麗か」
いつの間にか傍に月見 麗が立っていた。
その近くに1人の女子、彼女は他クラスの生徒だ。
「ふむ、聞かれてしまったか……麗よ、その命運、いつまで持つかな」
冗談だ。
「はいはい。てかいつ帰んの?アタシたちもう教室出るんだけど」
「ほう。さらばだ、元気に暮らすといい」
「じゃなくて、教室の鍵ちゃんと閉めて帰ってよってこと。アンタふつーにそのまま帰りそうじゃん」
「あぁ、なるほどな。ではケガのないように帰るんだぞ、さらばだ」
彼女とはたまに話すこともあった。
最後に挨拶できたのは喜ばしいことだ。
「……アンタほんとに分かってるんだよね?鍵閉めたら職員室に返す、オッケー?」
「ほう、鍵は職員室に持っていくのか、オッケーだ」
「うわ分かってなかったし……まぁいいや。じゃあね、械之助」
「……ま、またね、夢山くん」
「ああ、さらばだ」
そうして彼女たちは扉のほうへ歩いていく。
「アンタやっぱ械之助の前だけ態度ちがくない?」
「は、はいぃ?全然なんのことか――」
2人の姿が見えなくなり────
「ふぅ…………」
俺は安堵のため息をついていた。
彼女──月見 麗と話すときはいつも緊張してしまう。
ただまぁ、それももう終わりだ。
少しゆっくりするとしよう。
・・・・・・・・・・
「────夢山くん」
む、なんだ……?
「──夢山くん、そろそろ起きないと」
肩が少し揺らされて、なんだかとても可愛らしい声が耳に届いてくる。
「もうすぐ完全下校だよ、起きてー」
肩を揺らす小さな手と、この女の子らしく癒されるような声音は────
俺は伏せていた顔を上げた。
「──月見か」
「あ、やっと起きた……おはよ、夢山くん」
「ああ、いい朝だな」
「うん、いい夕方だね」
「ふむ、よく寝たものだ」
「そうだね、ほっぺたつついても起きなかったもんね」
月見 花が傍に立っていた。
相変わらず抜群の可愛さだ。
どうやら寝ていた俺を起こしてくれたようだが……。
「随分と暗いな、それに肌寒い」
「うん、夢山くんが全然起きないからだね」
教室の時計を見ると、もう6時だ。
にしても春らしくない気温だな。
「起こしてくれて助かった。エネルギー増幅炉や一部のセンサー以外は機能を停止させていたからな。月曜に誰かが来るまで寝ていたかもしれん」
「あはは、意味わかんない。というか見回りの先生とか警備員さんに見つかるんじゃないかな、たぶん」
「ほう、学校にはそんなものもあるのか。感心だな」
ちなみに先ほど言った機能停止は本当のことだ。
気が緩んでかなり迂闊な行動をしていたらしい。
「夢山くんってなんにも知らないよね。やっぱりおバカさんだよ」
……何やらすごく毒を吐かれているような気もするが。
それより────
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