第10話 階下に向かうのは

 2時限目が終了した。


『れっつごぉー……』


『ハッ、仰せのままに』


 席を立ち、移動を開始する。


 横目で教室を見ると、月見は何やら結美乃に話しかけているようだった。流石にもう協力は得られないだろう。というか、前回付いて来てくれたことにも内心驚いていた。


 教室から出て階段に向かう。1年生の教室は一つ下の階だ。


 階段に到着し、1年生の階まで降りきった時────


「待ちなさい」


「む?」


 振り返ると、結美乃が立っていた。階段の踊り場から降りてくる。


「なんだ?」


「あなた、どこに行くつもり?」


「1年生の教室だ」


「なぜ?」


「覗くためだ」


「止めなさい」


「ダメだ」


 結美乃は少し上で立ち止まる。


「…………はぁ、何のためにそんなことをするのか教えてもらえる?」


「明るくて優しい女子を探している」


「それはもう聞いているの、その理由は?」


 聞いている……ということは月見が結美乃に話していたのは俺に関してか。


「デートに誘うためだ」


「……あなた、花に声を掛けていたと思うのだけれど」


「月見には断られてしまった」


「そんなの当たり前よ、というよりそれですぐ別の女子を探そうとするなんて、本当に汚らわしいわ。自覚はあるの?」


「ふむ…………」


 どうやら結美乃は俺への任務を知らないようだ。彼女になら話しても問題無いだろう。


「実は──」


『極秘ぃ』


「──女子とデートがしたくてな」


 ………………。


「…………はい?何が実は、なのか全く分からないのだけれど」


「…………時間が無い、俺は行かせてもらう」


 休み時間は10分だ、余裕は無い────が。


「待って」


 強めの声音。


「まだ何かあるのか?」


「私は花からあなたのことを頼まれた、本当に嫌なんだけれど、話しかけられたら私が話すから黙っていて」


「ほう、了解した、よろしく頼む」


「……まぁいいわ。行くわよ」


 呆れたような顔をされたが、共に移動を開始する。しかし、彼女とこれほど話したのはいつ以来だろうか…………。


 そして、1-Aにはすぐ着いた。


 中から女子の声が聞こえる。だが後ろのドアは閉まっている、そして前も閉まっているのが見えた。


 考えられる状況に体育授業がある。体育は2クラス合同の授業であり男女別で各教室にて着替えを行う。もしそうなら勝手に開けるのは問題だ。


 隣のクラスを見に行くか、いや──────


 コンコンコンッ。


 俺はドアをノックした。




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