第9話 本当に嫌なのだけれど――

 2時限目が終了した。


『れっつごぉー……』


『ハッ、仰せのままに』


 席を立ち移動を開始する。


 頼むとは言ったが流石にもう月見の協力は得られないだろう。


 というか前回ついて来てくれたことにも内心驚いていた。


 教室から出て階段に向かう。


 1年生の教室は一つ下の階だ。


 そして階段を降りきった時────


「待ちなさい」


「む?」


 振り返ると、結美乃が立っていた。


 階段の踊り場から降りてくる。


「なんだ?」


「あなた、どこに行くつもり?」


「1年生の教室だ」


「なぜ?」


「覗くためだ」


「止めなさい」


「ダメだ」


 結美乃は少し上で立ち止まる。


「…………はぁ、何のためにそんなことをするのか教えてもらえる?」


「明るくて優しい女子を探している」


「それはもう聞いているの、その理由は?」


 聞いている、ということは月見が話したのかもしれない。


「デートに誘うためだ」


「……あなた、花に声を掛けていたと思うのだけれど」


「月見には断られてしまった」


「当然よ。というよりそれですぐ別の女子を探そうとするなんて、汚らわしい人ね。自覚はあるの?」


「ふむ……」


 どうやら結美乃は俺への任務を知らないようだ。


 彼女になら話しても問題無いだろう。


「実は──」


『極秘ぃ』


「──女子とデートがしたくてな」


 …………。


「……は?何が実は、なのか全く分からないのだけれど」


「……時間が無い、俺は行かせてもらう」


 休み時間は10分だ、余裕は無い──が。


「待って」


 鋭い声音。


「まだ何かあるのか?」


「私は花からあなたのことを頼まれた。本当に嫌なのだけれど、話しかけられたら私が話すから黙っていて」


「ほう、了解した。よろしく頼む」


「……まぁいいわ。行くわよ」


 呆れたような顔をされたが共に移動を開始する。


 しかし、彼女とこれほど話したのはいつ以来だろうか……。


 そして1-Aにはすぐ着いた。


 中から女子の声が聞こえる。


 だが後ろのドアは閉まっており、そして前も閉まっているのが見えた。


 考えられる状況に体育授業がある。


 体育は2クラス合同の授業であり男女別で各教室にて着替えを行う。


 もしそうなら勝手に開けるのは問題だ。


 隣のクラスを見に行くか、いや────


 コンコンコンッ。


 俺はドアをノックした。





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