第9話 覗くサイボーグ
さて、1時限目が終了した。
途中、メイリーさんへの応答を口に出してしまうミスはあったものの、やることが決まった。
俺は気を引き締める。
『れっつごぉー……』
『ハッ、仰せのままに』
何をするのか、それは他の教室に行って女子を見定めるというものだ。
なんとメイリーさん、明るくて優しい女の子がいいらしい。
恋人になったとき俺が楽しくなければいけないからとのことだ。
少しばかり論理の飛躍が見られるが、とりあえずやってみよう。
俺は席を立ち廊下に向かう。
ああ、ちなみに授業中メイリーさんに何を聞かれたのかというと──明るくて優しい子はみんなクラス委員長なの?──だ。
海外ではクラス委員長はそんなにたくさんいるんだろうか…………。
******
1時間目の授業が終わった。
わたしは次の授業の準備を終えトイレに行くために席を立つ。
実はちょっと前から行きたかった。
後ろの扉に向かうため振り返る寸前────
夢山くんが立ち上がった。
歩き出し、前の扉から出ていく。
とはいえ彼が教室から出ていくのは珍しいことでもない。
というか、授業中に出ていく。
過去最高では1日に6回、授業中にトイレに行った。
『先生、便所です』
というかんじで。
昨日ほとんど動かなかったのが珍しいくらいだ。
でも……うーん、ちょっと気になる。
さっきの授業中明らかにおかしかったし、すこし様子を見ておこうか。何せ夢山くんだ、どんなことをするか分からない。
麗ちゃんと結美乃ちゃんは後ろのほうで他の子たちと話してる。
動きづらくなる前にササッと前の扉から出てしまおう。
そう思って少し後ろを気にしつつ早足で扉をくぐり、一歩踏み出した途端────大きな背中。
「わっ!」
「む?月見か、どうした」
「え、えと……トイレ、行きたくて」
「む?女子便所は反対だぞ」
「あ、そうだったね、まだ慣れなくて……」
「ふむ」
まさか立ち止まっているとは思わなかった…………。
というか普通に女子トイレって言えばいいのになんで便所に変換しちゃうかなぁ、やだなぁ……でも、昨日のことで気まずそうに話されるよりはいいかもしれない。
「ええと、夢山くん、立ち止まって何してたの?」
「Bクラスを覗いていた」
「え?な、なんで?」
「ああ、それは……いや、野暮用だ」
うーん、意味がわからない。
「では、続けさせてもらう」
「い、いやいやちょっと」
Bクラスの扉はすでに開いていて、本当に覗き始めた。
誰かに用事…………?
でも、なんだか少し体を壁に隠している。
いやまあ、彼の体の大きさでは正直中からでも全然見えてるだろうけど。
Aクラスの扉を閉め、少し後ろに下がって様子を見る。
色々あったし彼と一緒にいるところは他の人にあまり見られたくない。
すると────
「あれ、夢山くん、どうしたの?」
この声はBクラスの委員長をやっている女の子だ。明るい子で、たしか後ろの席だったし中から声をかけてきたみたい。
「いや、野暮用でな」
「野暮用?なにそれ?」
「ふむ…….そうだな、明るくて優しい女子を探している」
おぅお?ななな何それ。
「え?どういう……あれ、花ちゃんだ」
うわわわわ、見つかっちゃった……。
「や、やっほー」
「やっほー、それで夢山くん、どうかしたの?」
「え、えと」
いや、わたしにも分からないんだけどな……。
「わたしにもちょっと──」
「1分20秒が経過したため、移動を開始する、さらばだ」
「「え?」」
夢山くんは本当に歩き出した、いやというかもしかしてCクラスへ?
******
その後、彼は2年の他クラスを全部覗いて回った。
そして、放っておけなくてわたしも同行した。
2-Cで。
「あれ、どうしたの?」
「あ、なんか用事みたいな、そんな感じで……」
2-Dで。
「あれ、夢山なにしてんの」
「あ、ごめんね、なんかちょっと用事、というか……」
2-E。
「ん?夢山くん、何かあった?」
「ああ、今明るくて優し────」
「ああいやいやいや、ごめんね、この人ちょっと変なんだ」
2-F。
「ん?夢山、どったの?」
「ごめんね、この人おかしいから」
廊下。
「やっと終わりー?」
「ご苦労だったな、次の休み時間は1年生だ、よろしく頼む」
「………………」
と、いうようなやり取りを行い、やっとクラスまで戻ってきた。
もうすぐ授業だ。
…………あれ?わたし、トイレ行ってないし……。
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