第7話 大丈夫じゃなさそう

 5日連続での月見の呼び出し、というよりきっぱり振られた上での呼び出し。


 さすがにメイリーさんへ方針転換の説得を開始した。


 しかし、それももう授業時間にまで突入している。


 メイリーさん、全然譲ってくれない。


『諦めなかったら、何でも大丈夫ぅ…………』


 この言葉だけでも彼女の不断の努力が窺えるというものだ。


 さすが機関の研究者……ではあるが、これに関しては大丈夫ではない。


 俺は黒板の文字をただノートに書き写しながら応答する。


 あまりメイリーさんの提案を否定したくはないが……。


『メイリーさん、月見は迷惑しています』


『……めいわくぅ?』


 やはりそこから分かっていなかったらしい。


『はい、俺に使う時間、抱えるリスク、それらはすでに月見に不利益しかもたらさないものです』


『そうなのぉ?……そっかぁ、じゃあ他の子にしないとぉ……』


『それがよいかと』


『わかったぁ……じゃあ、うーん……』


『俺は助言だけさせて頂きます。あとはメイリーさんの御心のままに』


『はぁーい……』


 俺はメイリーさんの要望に全力で応えるつもりだ。


 だが、恐らく来週の月曜日、俺はこの席に座ってはいないだろう。






 ・・・・・・・・・・






 1時間目、英語の授業、わたしは夢山くんのほうを見る。


 昨日の今日だから、さすがに様子が気になる。


 まあ率直に言えば変なことをしないか心配している。


 教室の真ん中の席からは夢山くんがよく見えた。彼は今ノートをとっている。


 ただ、視線はずっと黒板に向いている。


 そう、ペンを動かしながらもずっと前を見てる。


 あれだ、キーボードのブラインドタッチ的な感じ。その筆記バージョンに挑んでいるらしい。


 全く淀みなくペンを動かすのが逆に心配だ、適当に書いてるんじゃないだろうか。


 端っこだから周りの人は気付いてないみたいだけど……。


 でも昨日までは普通だったはず。


 やっぱり放課後のことが影響してる……?


 何はともあれ、彼のノート、きっと落書きみたいになってる。


 ……代わりにノートとってあげたほうがいい、かな?


 それか印刷……。


 でも昨日のことがあるし……。


 そもそも夢山くん、英語はかなりできる。


 というか掲載される定期テストの総合結果ではだいたい学年上位で、理系科目は毎回100点だ。文系科目も段々と満点に近づいている。


 あぁ、これはわたしが全部を確認していたんじゃなくて周りから聞いた話も含んでる。


 彼は何かと目立つため自然と話題になりやすい。


 まぁ気にしなくても大丈夫かな……。


 授業に集中しよう。


 ────黒板に字を書いていた先生が振り向いた。


 英語はこのクラス2-A担任の山名先生が授業している。茶髪のショートカットでスラリとした明るい大人の女性だ。


「じゃあこの英文の場合、どんな訳になる?んー、夢山くん」


 ドキッとした。


 まさか彼が当てられるなんて、大丈夫かな……。


 いや、前を向いて固まっている、大丈夫じゃなさそう。


「…………」


「夢山くん?どうしたの?ヒントは現在完了だよー」


「む?いえ、恐らく違うかと」


「え?いや違くないし」


 教室で軽く笑いが起こる。


 ……こういうとき笑って流せる陽気な人の多いクラスでよかった。


 わたしは顔が強ばってうまく笑えなかったけど。


 ふつうにびっくりした。


「この英文の訳ね?もー、目開けながら寝てたー?」


「申し訳ございません、精進致します」


「硬ー、相変わらずだね〜」


 はあ、ほんとに変わった人……。





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