第7話 バーンアウト
翌日金曜日、教室。
俺はいつもより少し遅めに登校、今は自席へと着座していた。
今日の髪はありのままにした。メイリーさんも何も言わなかった。
窓の外、グラウンドを眺める。野球部が景気の良い掛け声を上げつつランニングをしている。
『授業の準備はいいのぉ……?』
『そうでしたね』
昨日の月見との会話、メイリーさんの要望に応え、かなり真剣に取り組ませてもらった。
冷静に考えれば所々で見当違いな発言はあったものの、指示を受けた壁ドン、その中での事前にメイリーさんと考えていたセリフの淀みない発声、よくやったと思う。
だからこそか、逆にもう満足している自分がいる。これが燃え尽き症候群というやつか…………。
すぐ使う教材を机に入れ終え暇になったため、スマホでパズルゲームを始める。
…………完全にハマっている。
『諦めようとしてる?』
「………………」
ゲームを中断し、スマホを机に置く。
メイリーさんが言っているのは、もちろんパズルゲームの話ではないだろう。
………気付かれるとは思っていなかった。正直かなり驚いている。
俺はすでに彼女のことを社会経験がほぼ0に等しいと分析していたためだ。
それに、普段より声音が固い。
『ダメだよ、そんなの』
「………………」
俺は実験体だ。与えられた仕事をこなせなかったからといって廃棄するような無駄はしないだろう。俺は研究所に戻ることになる。
彼女には、どこまで気付かれているだろうか。
俺が今はもう任務に失敗し研究所へ戻ることになってもよいと考えていること。
そして、俺がこの第一段階のデートの課題、ひいては任務に対しても内心最初から乗り気でなかったことにまで気付いてしまったか。
『俺が研究所へ戻ることは誰にとっても不利益になりません』
『交流の、データが取れない……』
『いいえ、それも問題無い筈です』
『…………』
俺はかなり貴重な実験体だったろう。ただ、いつの間にかそれも過去の話になっていたらしい。メイリーさんとの会話で気付いたことだ。
俺には代わりがいる、わざわざ会話の下手な俺でデータを取らずとも良いだろう。
『実験で消耗されることが、今の俺にできる精一杯でしょう』
『ダメ……諦めるのは、ダメ、だから……』
研究者として諦めの姿勢が許せないということだろうか。
ただ、まあ、機関の方がここまで言うのだ。もう少し頑張ってみるか……。
『また……月見、花にぃ、声かけるぅ……放課後、呼び出しぃ……』
おうふ…………、メイリーさん…………。
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