第6話 燃え尽きたサイボーグ

 翌日金曜日、教室。


 俺はいつもより少し遅めに登校、今は自席へと着座していた。


 今日の髪はありのままにした。


 メイリーさんも何も言わなかった。


 窓の外、グラウンドを眺める。


 野球部が景気のよい掛け声を上げつつランニングに励んでいた。


『授業の準備はいいのぉ……?』


『そうでしたね』


 昨日の月見との会話、メイリーさんの要望に応えかなり真剣に取り組ませてもらった。


 指示を受けた壁ドン、その中での事前に考えていたセリフの淀みない発声、よくやったと思う。


 だからこそか、逆にもう満足している自分がいる。


 これが燃え尽き症候群というやつか……。


 すぐ使う教材を机に入れ終え暇になったため、機関支給のスマホでパズルゲームを始めた。


 ……楽しい。


『――諦めようとしてる?』


「…………」


 ゲームを中断しスマホを机に置く。


 メイリーさんが言っているのはもちろんパズルゲームの話ではないだろう。


 ……気付かれるとは思っていなかった。


 正直かなり驚いている。


 俺はすでに彼女のことを社会経験がほぼ0に等しいと分析していたためだ。


 それに普段より声音が固い。


『ダメだよ、そんなの』


「………………」


 俺は実験体だ、与えられた仕事をこなせなかったからといって廃棄するような無駄はしないだろう。


 俺は研究所に戻ることになる。


 彼女には、どこまで気付かれているだろうか。


 俺がこの第一段階のデートの課題、ひいては任務に対しても内心最初から乗り気でなかったことにまで気付いてしまったか。


『俺が研究所へ戻ることは誰にとっても不利益になりません』


『交流の、データが取れない……』


『いいえ、それも問題無い筈です』


『…………』


 俺はかなり貴重な実験体だったろう。


 ただ、いつの間にかそれも過去の話になっていたらしい。


 メイリーさんとの会話で気付いたことだ。


 俺には代わりがいる。


 これは思考速度と対人能力の相関性データ収集とのことだが、俺は他と違い基礎になる社会経験が少なすぎる。


『実験で消耗されることが、今の俺にできる精一杯でしょう』


『ダメ……諦めるのは、ダメ、だから……』


 研究者として諦めの姿勢が許せないということだろうか。


 ただまぁ、機関の方がここまで言うのだ。


 もう少し頑張ってみるか……。


『また花ちゃんにぃ、声かけてぇ……放課後呼び出しぃ……』


 おぅふ。


 メイリーさん……。





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