第4話 2人の夢山
夢山チルドレン。
俺たちはそう呼ばれている。サイボーグへと改造された孤児たちのことだ。俺も赤子の頃に捨てられていたらしい。
そして今も教室後方で淡々と授業を受けているだろう夢山 結美乃も同じく夢山以外に身寄りを持たない。
と、知ったふうに語ったものの俺が出会ったことのある夢山チルドレンは結美乃だけだ。
研究所での管理は徹底され、結美乃が自室に遊びに来たとき以外は研究員の方とたまに話すぐらいだった。
そしてその結美乃は俺とは違って幼い頃から人間社会に出ており、さらにこのクラスの中心人物でもある。
任務を与えられた今の俺にとって、目標とすべきサイボーグ像といえるだろう。
とはいえ結美乃は俺を監視するような側にいるだろうが…………。
『キーンコーンカ――――』
「よーし、んじゃ委員長ー」
「きりーつっ――――」
月見の元気な号令。
彼女はいつも明るい雰囲気を持つ。
昨日は例外だ。
礼を済まし着座。
さて、昼休みになった。
各々グループに分かれて行動を始める。
──――あぁ、いや俺にはもちろんグループなど存在しないのだが。
「麗ちゃん、結美乃ちゃん、おっひるごはんだよーっ」
後方から月見の明るい声。
うむ、やはり彼女の笑みを曇らせないためにも隙を見て謝罪と呼び出しの撤回をしなければ。
というか、状況的に仕方がないとはいえ俺のときとの差がすごいな…………。
とりあえず状況を探るため聞き耳を立てる。
盗み聞きもやむを得まい。
「花ぁー、マジお腹ぺっこぺこー、てかさっきの授業中にお腹鳴っちゃったんだけどぉ、はずすぎぃ」
「ええ、聞こえていたわよ、ぐーぎゅるぎゅるぎゅるー……って」
「いやそこまでじゃないし!」
「ほんとにーっ?あはははっ」
うわ、なんかめちゃくちゃ楽しそうなんだが。
俺もあんな青春が送りたかったー……いや、まだまだこれからか…………。
そんなことを思いつつ、俺はカバンから弁当───否、ゼリー飲料を取り出した。
………突然だが、俺には毎月機関から生活費が支給されている。
その額なんと……5千円。
機関の支出管理はやはり至高の領域にあるということだ。
ゆえに俺の部屋にはちっちゃなテレビとチープなソファー、機関提供の真っ白な机とベッド、その他食器などの小物ぐらいしかない。
ではそんな状況でどう生き永らえているかの答えが、この無地のゼリー飲料だ。
通称、夢山ゼリー。
毎月90個、機関から現物がまとめて送られてくる。
味はマスカットのみ。だがしかしこれには機関のテクノロジーが詰め込まれており、たったひとつで身体を至高の状態へと導いてくれる。
俺はキャップを開け、ゼリーを吸い出し始めた。
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