第4話 俺はギガロボティクス1号
夢山チルドレン。
俺や結美乃のように機関に拾われた孤児たちのことだ。
捨て子であったらしい俺は赤子の頃から機関によって育てられた。
そして結美乃は俺が研究所にいた頃の数少ない、というか唯一の遊び相手だった。
……まぁ、懐かしい思い出だ。
さて昼休みになった。
各々グループに分かれて行動を始める。
─―あぁ、いや俺にはもちろんグループなど存在しないのだが。
「麗ちゃん、結美乃ちゃん、おっひるごはんだよーっ」
横から月見の明るい声。
もう俺のことはとりあえず割り切っているらしい
うむ、やはり彼女の笑みを曇らせないためにも謝罪と呼び出しの撤回をしなければ。
……とは思うのだがメイリーさんからの連絡がなく動きづらい。
いや、流石に月見はもうないだろうが……。
「はぁー、まじ授業なが。てか花さっきの授業中にめっちゃお腹鳴ってたよねー」
「うっ……」
「私も聞こえていたわよ、ぐーぎゅるぎゅるぎゅるー……って」
「そこまでじゃないもんっ」
「あれ?じゃあそれ結美乃だったりしてぇ」
「は?」
「こっわー。助けて花ぁ」
今日も楽しそうだ。
俺もそんな青春が送りたかった……。
いやまだまだこれからか……。
そんなことを思いつつ、俺はカバンから弁当──否、ゼリー飲料を取り出した。
……突然だが、俺には毎月機関から生活費が支給されている。
その額なんと……5千円。
機関の支出管理はやはり至高の領域にあるということだ。
ゆえに俺の部屋には機関提供の真っ白な机と布団セット、自身で買った小さなソファー、その他食器などの小物ぐらいしかない。
そして色々と事情もありアルバイトという選択肢も取りづらい。
ではそんな状況でどう生き延びているかの答えが、この無地のゼリー飲料だ。
通称、夢山ゼリー。
毎月90個、機関から現物がまとめて送られてくる。
味はマスカットのみ。
だがしかしこれには機関のテクノロジーが詰め込まれており、たったひとつで身体を至高の状態へと導いてくれる。
俺はキャップを開けゼリーを吸い出し始めた。
ちなみに結美乃は毎日弁当だ。
アルバイトとかではなく単純に支給額が違うのだろう。
結美乃は恐らく俺を監視するような側に……む?
――――彼女らの声が遠ざかる。
「はぁ。麗があまりに不適切なことを言ったから遅れてしまったわね」
「はいはい。てか花がお弁当作るの忘れるなんてねー、まぁ理由は察するけどぉ?」
「り、理由って?わたし全然わかりませんっ」
「え〜?械之助のアレに決まってるじゃん、あんなの笑えて夜も眠れないでしょ」
「わ、笑わないもんっ」
「うっそ〜、内心爆笑して――――」
可聴範囲から出たようだ。
確か彼女ら姉妹は日替わりで1人が2人分の弁当を作っている。
だが今日は作るのを忘れてしまったようだ。食堂へ向かうのだろう。
――あぁ、無意識に可聴範囲を拡大していたようだ。
狭め――
「毎日単語テストはダルいってぇ……はぁ……てか夢山ロボ、今日もゼリーじゃん」
「ハハ、あれだろ、ギガロボティクス1号の燃料補給のじか──」
…………。
――む?
──脳内直通回線が反応している。
俺はゼリーを片付け姿勢を正した。
『……こんにちわぁ、100号ぉ……』
『メイリーさん、こんにちは!』
『うん……それでねぇ……ワックス、持ってるぅ……?』
『ハッ、所持しております!』
何があろうとこの髪型を維持するため、整髪料は携行するよう指示を受けている。
『よかったぁ……かしこいねぇー……100号ぉ……』
『ハッ、ありがとうございます!俺の心は今この瞬間、幸福の限界値に到達いたしました!』
『うん……よかったねぇ……じゃあ、お手洗い行こうかぁ……』
『ハッ』
俺は整髪料を手に即座に席を立ち、便所へ向かった。
すでにあの3人の姿は見えない。
そういえば、機関は俺に発言の制限を一切設けていない。
サイボーグ機能を視認されないように、とだけ伝達を受けた。
その点からも機関の圧倒的余裕が窺えるというものだ。
まあ、光栄なことに俺が信頼されているということでもあるだろう。
そしてその言動の自由は入学当初の未熟な俺に多大なる影響力を持った。
1年前、うららかな春の日、初めての学校で初めてのクラスメイトたち、俺に自己紹介の順番が回ってきたとき、俺は堂々と名乗った。
『俺はギガロボティクス1号、街を襲う悪党からみんなを守りたいと思う。よろしく頼む』
俺が考えた自身のヒーロー名だった。
というか、同じクラスの結美乃のこともみんなを守るギガロボティクス2号だと紹介した。
俺は便所に到着した。
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