ハイスクールラブロマンス

 バレンタインに現物では無いが塔子からチョコレートを受け取った良太。しかし塔子がこっそりと渡したこともあり、学級閉鎖が終わり復学するようになっても特にその話はすることなく、たまに教室で喋り、たまに放課後にメダルゲームで遊ぶような、お互いに意識はしているものの言い出せない関係を続けているうちに気づけば3月上旬。


「うーん……ホワイトデーは3倍返しって言うけれど、そもそもあのチョコレートの価値はいくらなんだろう……?」


 コンビニのアルバイトの途中、棚にホワイトデー向けの少しお高いチョコレートを並べながら悩む良太。レジに立ちながら客が来ない事を良い事に店員特権で明日発売予定の週刊誌のラブコメ漫画を読んでいると、そこでは毎年同じ学年を繰り返している男女達がホワイトデーで盛り上がっていた。しかし現実のホワイトデーは直後に終業式、そしてクラス替えや卒業というイベントが控えており、とてもじゃないが楽しい気分で待てるようなイベントでは無い。


「結局俺は理系で塔子さんは文系で分かれるの確定しちゃったし……塔子さん可愛いからなぁ」


 溜め息をつきながら別のラブコメ漫画を読む良太。そこでは見た目は可愛いが性格が捻じ曲がっており友達の全くいないヒロインが、主人公としかコミュニケーションが取れないとべったりと依存していた。出会った頃の塔子のままならばそんな展開も有り得たかもしれないが、良太との出会いや文化祭の手伝いを通じて塔子も変わってきており、少なくとも中学時代を知る人達が言っていたような、周囲に煙たがられるような存在では無くなって来ていた。進級して自然と疎遠になってしまう事を恐れた、塔子の事を可愛いと口に出してしまうくらいには好意を寄せている事を自覚した良太はホワイトデーでチョコレートを渡すと同時に告白をしようと考えるも、経験が無いためどんなプランにすればいいのか全くわからない。そんな中、両親の好きな芸能人がイベントをやっているということで、休日に家族で少し遠くの、良太の地元と大差無いような郊外のショッピングモールに出かけることになった良太。


「少し遠出すれば、全然知らないゲームとかあるんだなぁ……」


 自由行動になり、自然と足取りがゲームセンターへと向かって行く良太。20年前から変わらず置いていそうな古いUFOキャッチャーで遊んだり、都会に置いてあるモノよりもバージョンが数個遅れている音楽ゲームで遊んだりしながらメダルゲームのコーナーに向かい、遊んだ事のないゲームを探す。


「……!」


 その中の1つのゲームを見た良太に、ある作戦が思い浮かぶ。そしてあまり残っていない自由時間の間に出来る限りの予習をするべく、良太は急いでメダル貸出機へと向かうのだった。その数日後、放課後に塔子とメダルゲームで遊び、ゲームセンターの前で別れるとなった時に良太が少し深呼吸をした後に塔子にチケットを渡そうとする。


「……日曜さ。映画見に行かない? やってる映画館が少ないから、結構遠くのショッピングモールになるんだけどさ」

「……しょうがないわね」


 表情を悟られないように俯きながら、チケットを奪い取って逃げるように去って行く塔子。ダッシュで家へと戻って行く塔子の表情は、にやけだったり焦りだったり不安だったり様々な要素が入り乱れていた。日曜日というのはホワイトデー当日であり、そんな日にチョコレートを送った相手がデートに誘って来る事が何を意味するかなんて、学力が良いとは言えない塔子にでも簡単にわかるからだ。


「「……」」


 そしてホワイトデー当日。ショッピングモールの映画館を出た二人は、近くの喫茶店で無言でお茶をする。良太にとってみれば一緒に映画を見ようなんてのはここへ連れて来るための口実であり、都会ではやっていない映画を選ぶ必要があったため興味も無いよくわからない映画をチョイスしており内容を語ることは出来ず、塔子も自分は今日チョコレートを貰って告白されるんだという気持ちで頭が一杯であり、同様に映画の内容なんて全く頭に入っていなかったのである。


「折角だからさ、ゲームセンター行こうよ」

「そうね」


 相手は自分の作戦なんて知らないのだから映画のチョイスも考えるべきだったなと落ち込みながらも、良太は本命であるゲームセンターへと塔子を誘う。良太が前回来た時のように、少し古いゲームで遊びながら店内を回り、やがて二人が向かった先は1つのメダルゲーム。


「何だかこの子、塔子さんに似てるね」

「そうね。こんなゲームがあったのね。……いつのまにメダル借りてたの?」


 ハイスクールラブロマンスと書かれたそのメダルゲームは、主人公がすごろくを進みながら学園生活を送り、ヒロインである少女と仲良くなっていくという恋愛シミュレーションゲームを模した内容であった。そして奇しくも画面に表示されたそのヒロインの容姿は、塔子にそっくりであった。勢いを大事にしたい良太はメダル貸出機に向かう事無く、前回に来た時のメダルをカバンに入れて持っておくという禁じ手を使いながら塔子の目の前で塔子に似たヒロインを攻略し始める。


「デートは水族館とゲームセンターどっちにしようかな。ゲームセンターにしよう……やった、大当たりになって好感度が3上がった」

「遊んでるメダルゲームの元ネタは会社的にアレかしら、それとも……」


 良太のプレイを塔子が眺めるという展開が続く中、画面の中では主人公とヒロインがまるで良太と塔子のように学園生活を謳歌して行く。勿論簡単にエンディングまで辿り着ける訳では無い。途中ですごろくを振るためのサイコロが枯渇してしまいゲームオーバーになってしまうし、結局はメダルゲームであるためシステムの機嫌に左右される。それでも最善は尽くしたかったからこそ、良太は前回入念に予習をしていたのだ。


「あ、これでゴールだね。どうなるんだろ」

「告白するんじゃないかしら」


 何度もチャレンジをしながら、やがてゲーム内で一年間が過ぎてエンディングに到達する。そして伝説っぽい木の下にヒロインを呼び出す主人公。良太はカバンの中に潜ませていたチョコレートをチラッと見ながら息を飲む。ゲーム内で主人公がヒロインに告白して結ばれ、ムードが高まると同時に、良太も塔子に告白をする、それが良太の作戦だった。


『俺……君の事が好きなんだ』


 ヒロインに告白をする主人公を見守る良太と、良太の作戦に気づき始め自分もこの後告白されるのかと胸の鼓動が速くなる塔子。良太が以前来た時に遊んだ時の展開では、ヒロインも主人公の事が好きだと言って二人は結ばれるはずだった。しかし、


『私も君の事は親友だと思ってるよ』


 画面の中のヒロインはラブでは無くライクだと主人公に伝え、無情にも二人は結ばれる事無くそのままスタッフロールが流れて行き二人の間に気まずい空気が流れる。良太はこの時知らなかったが、ゲーム中に獲得できる好感度は終了時のメダルの獲得枚数に影響するだけで無くエンディングの分岐にも影響しており、良太が前回遊んだ時は十分に好感度があったため二人は結ばれたが、今回は焦る気持ちがあったからか駆け足で進んでおり、好感度が足りないままエンディングに到達してしまったのだ。


「あ、あはは……フラれちゃったね。もういい時間だし、そろそろ帰ろうか」

「!?」


 ゲームでの告白成功の勢いに任せて告白するつもりだった良太はこんな気まずいムードで告白をする勇気が湧かず、もう来ないだろうし適当にメダルは使い切ろうかなと苦笑いしながら適当なメダルゲームにメダルを投入して行く。それを黙って見ていた塔子であったが、すっかり今から告白されるんだと舞い上がっていただけに、このままで引き下がる訳には行かなかった。


「……まだよ! メダル貸しなさい!」


 良太の持っていたメダルカップを奪い取り、先程撃沈したヒロインを再攻略するべく今度は自らゲームを遊び始め、熟練のメダルゲーマーとしての技量を武器に学園生活をハイペースで進めて行く塔子。


「大体良太は女心が全くわかってないのよ。ここの選択肢はこう! ほら見なさい、好感度が5も上がったわ」


 先程とは逆に良太が見守る中、自分に似たヒロインの考えている事なんてお見通しだと言わんばかりに最適解を選んでは好感度を上げて行く。しばらくして、良太に同様にエンディングに到達しヒロインに告白する主人公。内部的に好感度がどの程度あれば結ばれるかなんて塔子も知らなかったが、それでも最善を尽くした塔子の願いは叶ったようで、


『……嬉しい! 私も君の事が大好き!』


 告白を受け入れて主人公に抱き着くヒロインと、学園生活の思い出と共に流れるスタッフロール。その勢いに任せた塔子は良太のカバンを勝手にまさぐってチョコレートの包みを奪い取り、包みを開けて中身をムシャムシャと食べ始め、更にはチョコレートで甘くなった唇で呆気に取られていた良太の唇を強引に奪いながら抱きしめる。


「馬鹿良太! メダルゲームのヒロインすら攻略できない、告白すらまともに出来ないダメ男! 良太には、私がついていないと駄目みたいだから、付き合ってあげるわ!」

「……ははは、やっぱり塔子さんは凄いね。メダルじゃ敵わないや」

「他のジャンルでも敵わないってところを、これからたっぷり教えてあげるんだから。……だから、良太も私に、楽しい事とか、色々教えなさい」


 自分一人で告白を成功させようなんて考えが馬鹿だったのだな、と理解して塔子を抱きしめ返す良太。ガラガラのゲームセンターで二人を祝福する人はいなかったが、代わりにゲームの画面が主人公とヒロインを祝福しており、ジャラジャラと配当メダルを吐き出すのだった。



 ◆ ◆ ◆


「数学が全然わからない……安易に理系を選ぶべきじゃ無かったかも」

「私も文系だけど経済学部志望だから結局数学も履修しないといけないのよ……」

「メダルゲームの計算とかは簡単に出来るのにね……」


 高校二年生になってしばらく経ったある日。良太と塔子は放課後のゲームセンターで、メダルゲームで遊びながら互いの学園生活について語り合う。クラスは分かれたし、互いに新しい交友関係も出来た。しかし二人の関係は、メダルのように硬かったという。





※あとがき


元ネタ……ナムコ『ハイスクールぱらDICE』


すごろくをしながらヒロインを攻略するという、

ラブプラスのメダルゲームよりも遥かに古い、かなり時代を先取りした感のある作品。

制作チームはアイマス関連の人達なのか、

ヒロインの名前がライバルCPUとして使われていたり、

ゲームシステム自体がアイマスのミニゲームに流用されていたりする。

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放課後バトルメダルゲーマーズ 中高下零郎 @zerorow

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