メダルのシューティングスター
「……私、ひょっとしてクラスメイトと仲良くなった?」
二次会が終わり、良太に家まで連れて行かれ、まだ飲み足りないのか勝手に両親のビールを部屋で飲み散らかし、頭痛と共に目が覚めた翌日。記憶な曖昧な塔子であったが、何となく覚えているのは良太以外のクラスメイトと遊んだ事。所詮は大半が酔っぱらった状態の出来事であり周囲もあまり覚えておらず、クラスメイトと文化祭の打ち上げで一緒に遊んだくらいで仲良くなったとは到底言えないのだが、経験値の少ない塔子にとってみればレベルアップ確定レベルの出来事。
「おはよー」
「おは……よ」
文化祭の翌週。塔子が扉の近くの席で眠たそうにしていると、扉が開いてクラスの女子がやってきて全体に向けて挨拶をする。文化祭の準備でそこそこ会話をしていたことと、打ち上げの際に一緒の席で遊んだ記憶があることとで、塔子は小声で挨拶を返し、相手はそれに気づく事無く自分の席に向かうも塔子は満足気。文化祭がきっかけで塔子に新しい友人が出来た訳では無いが、それでも塔子とクラスメイトの間の溝が若干埋まった事は間違いないし、お酒の力を借りたとは言えクラスメイトと遊べた塔子には自信もついていた。
「帰りゲーセン行こうぜー、ほら、打ち上げの時にさ、すげー遊びたいと思ったやつがあるんだけど、結局遊べなくてさー、ガンシューってやつ?」
「あ、アタシもやりたいそれ! 西部劇のやつでしょ?」
放課後に良太の友人グループはゲームセンターでガンシューティングを遊ぼうという話になり、何人かの女子もそれに参加することに。いつもなら邪魔が入ったと不機嫌そうに直帰したり、もしくはこっそり物陰から良太が他のクラスメイトと遊ぶ様子を眺めているだけの塔子であるが、この日は無言でその集団について行く。今まで無かった展開に良太は驚くも、他のクラスメイトは良太が誘ったのだろうと特に疑問に思うことなくゲームセンターへ。とはいえ特に誰かと会話をすることなく、良太がクラスメイトと遊ぶのをあまり邪魔するべきでは無いと良太とも会話をせず、クラスメイト達がガンシューティングで遊ぶのをずっと眺める、レベルアップの結果場所が物陰から近くへと変化した塔子。皆が交代に遊びながらエンディングに到達し解散となり、翌日の放課後に塔子は私ともならず者を殲滅しましょうと良太を誘う。
「昨日遊んだ時に塔子さんも混ざれば良かったのに」
「ギャラリーになるのが一番コスパがいいのよ。なんたってお金を使わずに楽しめるもの」
「それで満足出来なくなって結局遊んじゃうと。昨日は皆で遊んだから結果的に投資少なかったけど、二人でエンディングまでやったらかなりお金かかっちゃうよ?」
「まぁ見てなさい。皆のプレイを観察しているうちに攻略法は把握したから、私の華麗な銃捌きを魅せてあげるわ」
この日は化学の実験の授業で同じ班になったクラスメイトと軽く雑談もした、学校でもゲームセンターでも自信に満ち溢れている塔子。意気揚々と二人分のガンコントローラーを手にして二丁拳銃よとカッコつけた後、片方を良太に渡して硬貨を投入する。こうして二人で協力してならず者と戦う事になったのだが、塔子は他人のプレイを見ているうちに敵の出現する位置等を把握しているものの、エイム力が伴っておらず銃弾は空を切る。敵がどこに出て来るかは把握していないものの、何度かプレイをしているため安定したエイム力で出て来た敵を着実に打ち抜いていく良太の足を引っ張る形になり、敵は下手なプレイヤーにも上手なプレイヤーにも平等に攻撃をしてくるため、塔子が打ち損じた敵に何度も良太は攻撃を受けてしまい二人のコンティニュー回数は増えて行く。
「……今日はあんまりお金使う予定無かったのに。このゲーム、一人プレイに比べて二人プレイだとその分敵が増えるから、片方が下手だと難易度が跳ね上がるんだよね」
「うっ……わ、わかったわよ、アイスを奢るわ。けれど覚えておきなさい、私は! か弱い女の子だから! 敵と戦えないの! 私が輝くのはメダルゲーム!」
「そういえば、こないだデパート巡りしてた時に、メダルゲームとシューティングゲームが混ざったようなゲームを見た気がするよ。それなら塔子さんでも上手に出来るんじゃない?」
「ぐぬぬ……言ってくれるわね、次はそれで勝負よ」
お互いの命中率やランクが表示されたリザルト画面で、Bランクの良太はEランクの塔子に今日は自分の完勝だねと言わんばかりに笑みを浮かべながら、デパートにあったゲームセンターにシューティングゲームのようなメダルゲームがあった事を思い出し、煽られたと感じた塔子はそれでリベンジを誓う。数日後、放課後にデパートに向かった二人は良太が見つけたというメダルのシューティングスターに着席する。
「1メダル1発で、画面に出て来る敵を撃ってポイントを貯めたりメダルを獲得したりするのね。よし、頑張りましょう」
「……あれ? 塔子さん、勝負よって言ってなかった? どうして同じ席に座るのさ」
「こ、このゲーム、席と席の間が結構離れてるからお互いの状況が把握しづらいでしょう? コントローラーだって2つ用意してあるんだし、きっと2人プレイ前提なのよ。ほら、お互いメダルを持ってないんだから借りて遊びましょう」
「何だか塔子さんが連射しまくって共通のメダルを消費しまくる未来が見えるよ……」
思ったよりも本格的なシューティングゲーム要素があったため早々に勝負を捨て、良太の隣に座りコントローラーを持つ塔子。画面の右側を良太が、左側を塔子が担当する事になり、良太は出て来る敵を軽快に撃ち抜いて行く。
「へへ、10コンボボーナスだって。メダルゲームのシステムは詳しくないけれど、こういう上手な人が得するシステムはいいね。塔子さんはさっきから敵を逃がしてばかりだけど、撃たないの?」
「うるさいわね、女は黙ってヘッドショットを狙うのよ。別に敵がこっちを襲って来てメダルが無くなる訳じゃないんだからいいでしょ」
一方の塔子は先日の下手なプレイの思い出と、先程良太に連射しまくってメダルを消費すると言われた事が影響し、慎重に敵に狙いを定めてなかなか遊ぼうとしない。ほとんど良太のプレイを眺めているだけという塔子的にはコスパの良い遊び方をしている事しばらく、ポイントが溜まりボス戦に突入する。
「ボス戦はメダル使いたい放題だってさ。これなら塔子さんでも安心して連射出来るね」
「さっきから人をトリガーハッピーみたいに言わないでくれる?」
良太に馬鹿にされてムッとしながらも、メダルの消費を気にすること無く撃てるということで遠慮無く適当なエイム力で連射をし始める塔子。それでもこのゲームは二人で遊べばボスの体力が増えるという仕様では無く、純粋に一人より二人で戦う方が有利ということで、良太のそこそこ上手なプレイに塔子がほんのちょっと貢献するという形でボスを撃破。その後も早撃ちのイベントでフライングをしたり、連続でターゲットを撃破するというイベントでは疲れたから任せるわと良太に丸投げしたりと、シューティングゲームを塔子なりに楽しんで行く。
「あー遊んだ遊んだ。どうしよっか、結構メダル余っちゃったけど。預ける?」
「ここにあるメダルゲームの大半は他でも遊べるし、もう来ないかもしれないし……使い切りましょう」
「やっぱりトリガーハッピーなのでは……」
お互いたっぷりと遊び、そろそろ帰ろうという時になって余ったメダルをどうするか店内を見渡しながら悩む良太。そんな良太の悩みを解決すべく、塔子はコントローラーを二つ持ってがむしゃらに連射してメダルを消費し始める。普段はメダルを増やす事ばかり考えている塔子であったが、たまにはメダルを無駄に消費するのもいいものねと新たな楽しみを見つけるのであった。
※あとがき
元ネタ……セガ『メダルのガンマン』
おばけの射的屋よりもかなり前から実装されていたメダルシューティングゲーム。
セガらしくガチガチの技術介入要素があり、ボス戦や早撃ちは割と大変。
技術介入要素が強い台は玄人が負けにくいので短命になりがち。
セガってそういうもんだよ。
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