エナガロッタ
「あ、瀬賀さーん、家庭科室からミシン借りて来てくれない? こっち手が離せなくて」
「……わかったわ」
文化祭の準備期間は続き、高校生になってから良太以外とまともに会話をしてこなかった塔子も少しだけでは、準備に関係したコミュニケーションではあるがクラスメイトと交流するように。
「良太、今日メダルゲームで遊ばない?」
「ごめん塔子さん、今日はもうくたくたで」
「そう……仕方ないわね」
一時期疎遠になってしまい気まずかった良太との仲も、一緒に準備をするにつれて元に戻りつつあったのだが、準備が本格的になるにつれ力仕事も増えるようになった良太は下校時間になる頃には疲れ果ててしまい、塔子の誘いを断り真っすぐ帰ってしまう。放課後に準備をせずに遊ぼう、と言う事も出来ず、別の女と遊んでいる訳では無いならいいかと考えながら真面目に準備に参加し続ける塔子。文化祭当日が近づくにつれ、塔子も下校時間になった後にゲームセンターには行かずに直帰し、部屋のベッドでぶつぶつと悩むように。
「ねぇ南無子……恋人でも無いのに文化祭一緒に回ろうっておかしいかしら。人によってはそれってもう告白と捉える可能性もあるんじゃない? 夏祭りの時と違って、文化祭って確実に学生に見られる訳だし、それを二人で回るってなったら恋人くらいの関係じゃないと無理だと思うの。聞いてる? ……そう、もう役目を終えてしまったのね」
文化祭当日にどうやって良太を誘うかについてイマジナリーフレンドに助言を求めるも、クラスメイトとも交流するようになってしまった塔子には既に自分の孤独の象徴である南無子を創造する力は残っておらず、実際には最初からそうだったのだが自分で考えるしか無いのねと頭を抱える。一方その頃、良太も自分の部屋で頭を抱えていた。
「……誘われるよね? 一時期避けられてたけど、最近ずっと一緒に準備してるし……塔子さんは俺の事好きなんだよね? ああでも、塔子さん友達が全然いないんだっけ。だから俺と仲良くしてるだけで、別に好きとかそういうんじゃないって可能性も……どうしよう、もし一人で文化祭回ることになったら、友達に笑われちゃうよ」
良太も健全な男子高校生らしく見栄っ張りな一面と、塔子は自分の事を好きに違い無いという自信家な一面を持っており、その結果文化祭一緒に回ろうと誘って来た友人達に『俺はもう先約があるから』と誘われてもいないうちから啖呵を切ってしまっていた。自分から誘う勇気を出せずに文化祭の前日までもつれ込んでしまう塔子であったが、良太の方が事情は深刻な事もあり、
「塔子さん、良かったら、明日一緒に回らない?」
「……!? べ、別に、いいけど……」
夏祭りの時と同様に、良太の方から塔子を誘う形になる。そして文化祭当日になり、自由時間に二人は一緒に学校を回ることになるのだが、お互い一緒にいるところを周囲にあまり見られたくないと考えているからか、一緒に移動しているはずなのにやたらと距離が空いていたり、食べ物を買ったら人気の無い場所に隠れて食べたりと、あまりデートらしい空気になる事は無かった。あまり思い出を作る事無く文化祭は終わり、二人はクラスの打ち上げへと参加する。
「小波は生でいい?」
「あ、俺はノンアルコールで……」
当然のようにお酒を注文するクラスメイト達であるが、良太は色々と緩い田舎出身という事もあり飲酒経験は周囲よりも多いものの、それだけにお酒に弱い事も知っているのでノンアルコールを飲みながら適当に周囲に合わせる。ふと良太が少し離れた場所に座っている塔子の方を見ると、
「……」
「瀬賀さん飲むねー、ほら、もう一杯」
塔子にとって今日のデートとも言い難い文化祭は不本意な結果に終わったと感じていることもあり、今までは付き合いの悪さから飲酒経験は全く無いにもかかわらずハイペースで飲み続けていた。打ち上げ会場を出て二次会をしようとなる頃には、ずっと無言であるものの明らかに出来上がってしまっている、二次会にも参加する気まんまんの塔子の姿。これ以上飲ませたら危険だと考えた良太は、二次会のメンバーをうまく誘導して、飲酒が出来ないような場所、つまりはゲームセンターに向かわせる。
「なにこれー、ちょいきもの新作?」
「……エナガ、ひくっ、ロッタ。絶対誰かがジャックポットを獲得できる」
「じゃあ皆で対戦しようぜー、クラスの豪運王はこの俺だ!」
メダルゲームコーナーに向かった一行は、エナガロッタというカルマロッタシリーズの機種に次々と座る。定期的に全員参加可能なジャックポットチャンスが発生し、誰かが当選するという仕組みに絶対に自分が当ててやると意気込むクラスメイト達。各々メダルを借りて遊び始め、塔子も参加するために預けメダルを引き出そうとするも、酔っぱらっているためか暗証番号の入力で躓き続ける。
「……ぱすわーどなんだっけ?」
「俺に聞かれても困るよ……ほら、俺のメダル代わりに使っていいから」
メダルバンクの前で適当に数字を連打し続ける塔子を引き剥がし、自分の預けメダルを引き出していくらか与え席に戻らせる良太。二次会メンバーの中では数少ない酔っていない人間ということもあり、塔子含むクラスメイトの介抱をしたりと、メダルゲームで遊ぶことはせずに観客兼介護に徹することに。
「8! 8来い! あああああああああああ!」
「……」
「あー……ほら、他のお客さんもいるしね? あまり騒がない方がいいと思うよ?」
男子の一人がボールが抽選される度にオーバーなリアクションを取り、近くで無言で遊び続ける塔子は不機嫌そうな表情になって行く。ただでさえ塔子はクラスに馴染めていないのに、ここで塔子がキレてしまったら悪化してしまうと考えた良太は、塔子が機嫌を損なわずに遊べるように騒ぐクラスメイトを宥めたり、無理矢理配置替えをしたりと奮闘する。
「残り100枚全部賭けまーす」
「お前そのゲームのルールわかってんのかよー」
しかし邪魔されずに遊びたいという塔子の欲求を満たしてやっても、知識でマウントを取りたい、いい加減なプレイに注意をしたいという塔子の性根はどうにもならない。特に騒ぐ事も無く無言で遊び続けていたので良太も安心していたのだが、適当な遊び方でメダルを減らし続けるもジャックポットに当選して騒ぐクラスメイトを見ているうちに、とうとう塔子は覚醒してしまう。
「ふざけるなあああああエナガロッタは確かに定期的にジャックポットチャンスが来るし誰かが当選するけど、当選した際の枚数はその周期のプレイによって決まる! 適当なプレイをしたら折角当選しても最低枚数なのに何が楽しいの!? 私はずっと獲得枚数を増やすために効率的なプレイを続けてお前よりも10倍以上の枚数があったのに私のジャックポットを返せ! 大体お前ら〇×△□……」
自分の高額ジャックポットを低額ジャックポットに潰された悔しさからか、クラスメイトに絡みに行ってしまう塔子。あちゃー、と頭を抱える良太であったが、
「ウケるー、瀬賀さん凄い早口じゃん」
「メダルゲームのプロなの?」
クラスメイトの大半は酔っぱらっていることもあり、塔子のテンションは意外にも受け入れられてしまう。そのままクラスメイト達と一緒にメダルゲームで遊ぶ(本人は指南しているつもり)塔子を見ながら、何がきっかけで打ち解けるか分からないもんだなとその輪の中に混ざる良太であった。
※あとがき
元ネタ……コナミ『ツナガロッタ』
アニマロッタと似たようなシステムだが、一定期間毎にジャックポットチャンスが発生し、
その際にステップ(りんご)を集めていれば参加できる。
ジャックポットチャンスはCPU含めた全国のユーザと競って誰かが獲得するという形式。
作者の住んでいる地方には既に撤去され尽くして1台も無く、
全国的にもアニマロッタ、カラコロッタと比べて非常に設置数が少ない。
オンラインのコナステでなら遊べる。
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