アインシュタインファクトリー
「なるほど、ここがこうなって……つまりあの機種のボールの挙動は……」
「塔子さん、実験の組み立て手伝ってよ……」
ある日の物理の授業。重力加速度についての実験をする事になり、良太と塔子は同じ班になったのだが、塔子は本来の実験そっちのけでメダルゲームの多くで採用されているボール抽選の挙動について独自の実験を行っており、良太は溜め息をつきながら別の班員の方を見やる。
「うぇーい、ピタコラスイッチ完成~」
「ただボール転がしてるだけだろ、作り込みが甘い」
別の班員である男子達は人気テレビ番組を真似してボールが転がる装置を作っており、塔子同様に真面目に実験に参加しようとしない。困りながらも男子達が作った装置を眺めているうちに、何かを思い出したようで気になってその遊びに混じり、結果として良太達の班は最低評価を受けてしまうことに。
「良太、今日」
「ごめん、ちょっと今日は用事があるから」
その日の放課後、塔子が良太をメダルゲームに誘うも、良太は断りを入れてすぐに教室を出て行ってしまう。実験に真面目に参加しなかったのがまずかったのだろうかと塔子は反省し、翌日の化学の授業ではきちんと実験を手伝うのだが、その日も良太は放課後になるとすぐに教室を出てどこかへと行ってしまう。そんな日がしばらく続き、気になった塔子はとうとう良太を尾行する事に。
「デパート? ……大抵のデパートにはゲームセンターあるし、ひょっとして他の女とメダルゲームを!?」
放課後に学校を出てどこかへと向かう良太をこっそりと尾けることしばらく、とあるデパートに良太が入って行くのを見届けた塔子は恋人でも無いのに彼女面しながら勝手に嫉妬で怒り、浮気現場? を突き止めようとデパートにあるゲームセンターに向かうも良太の姿はいない。折角なのでと今まで来る事の無かったゲームセンターで遊んでいるうちに機嫌は直り、翌日に思い切って良太に最近何をしているのか聞くことに。
「実はさ、ガムボールマシンを探してるんだよ」
「ガムボールマシン?」
「100円を入れたらガムボールが出て来るんだけどさ、単純に出て来るんじゃなくて、レーンをコロコロ転がったりして出て来るんだよ。子供の頃、それを見るのが楽しくて楽しくて。何度も親におねだりして大量にガムを買ったもんだよ。デパートのおもちゃ屋とかになら置いてあるかなぁと思って色々探してたんだけど見つからないんだ」
スマートフォンを開いてガムボールマシンの画像を塔子に見せながら、もっと幼い頃の思い出に浸る良太。筐体の中に複雑なレーンがありお金を入れるとそのレーンをガムボールが転がって出て来る、そんな今では滅多に見かける事の無くなったマシンをもう一度やりたくて、それっぽい場所をずっと探していたのだと言う。
「……それっぽいやつなら知ってるわ。ほら、学校出て北にしばらく向かったとこのデパート」
「本当!? 俺もこないだそこを探したんだけど見つからなかったんだ、お店のチョイスが悪かったのかな」
見覚えがあるから放課後に行きましょうと言う塔子に感謝しながら、良太は放課後に塔子と共にデパートへ。塔子が向かった先はおもちゃ屋でも駄菓子屋でも無く、デパートに併設されているゲームセンター。
「ああ、確かに盲点だったね。ゲーセンってガチャガチャとか置いてあるよね、お金入れたら飴がランダムに数個出て来るやつとか、最大個数出るまで粘ったりしたよ」
「着いたわ。ほら、ガムボールマシンっぽいでしょ?」
そして塔子がこれがガムボールマシンよと紹介したのは、筐体の中央に巨大なレーンがあり、そこをカラフルなボールが転がっているアインシュタインファクトリーというメダルゲーム。騙した罪悪感が全く見受けられない、ただ遊びたかっただけの塔子は無言で筐体と塔子を交互に見つめる良太を無視して先日遊んだ時に預けておいたメダルを引き出して席に座る。
「……思ったよりもガムボールマシンっぽくて反応に困るよ」
「このゲームはメダルの投入方法も変わっててね、こんな風にぐるぐる回して飛ばすの」
塔子が石臼のような装置にメダルをまとめて投入し、それを回すとフィールドにメダルが次々と発射されて行く。メダルを一枚ずつ投入しなくていいのは楽だねと感心しながら良太もメダルを借りて席に座り、中央のレーンを転がって行くボールを眺めながら遊び始めた。
「上の窪みにボールが挟まってるでしょ? あれがスロットで当たったらこっちに落ちて来るの。で、代わりにレーンを転がってるボールがハマるってわけ」
「なるほど。今俺の台にハマってるのは……赤か。え、レアなボールじゃん……ん? いや、これピンクか」
「微妙に暗いからピンクと赤を間違えてがっかりするのよ、あるあるだわ」
自分の席にセットされているボールの色が、落とすだけで500枚が獲得できる赤色のボールだと思い喜ぶ良太だが、よくよく見ると25枚のピンク色のボールだった事に気づき項垂れる。自分も何度も経験した悲劇だけにうんうんと頷きながら、レーンを回っているボールの列の先頭が確率的には次にセットされやすいから時にはタイミングをずらすことも必要だとか、フィールドがかなり広くてちょっとメダルを投入しただけでは押せないから結構ぐるぐる回して大量に投入する必要があるだとか、しばらく良太とメダルゲームで遊べていなかったためか勝ち負けを気にせず普通にアドバイスをしながら楽しむ塔子。
「……あれ? 今、ガシャのボールみたいなやつの中に、メダルだけじゃなくてボールもあったような」
「たまにボールが入るのよ。100枚以上獲得すればそれがこっちに落ちて来るから、タイミングを合わせれば狙えるわ。ダブルアップで400枚とか800枚とかにしておいて、右隣の席のあたりにお目当てのボールが来たらコレクトを押す、って感じかしら。でもこれをやると、定期的に右隣の人の席を確認する不審者っぽくて嫌なのよね……」
「だからさっきから塔子さん、俺のフィールドを定期的に見に来てたんだね……」
何度も席を離れて良太の方にやってくる、良太の事が気になっているからなのかボールの位置が気になっているからなのか自分でもわからなくなっている塔子と共に遊ぶことしばらく、良太はスロットで当たりを引いてセットされていたピンクのボールをフィールドに払い出そうとするが、ボールはフィールドの手前にあるクルーンで回転した後、外周の穴にすっぽりとハマってしまう。
「あれ、落ちて来ない」
「その外周を全部埋めたらジャックポットチャンスなのよ。外周に入らずに中央の穴に入ったらフィールドに払い出されるの。ジャックポットチャンスになるまでハマったボールはそのままだから、高額なボールがハマるとちょっと損した気分よね。そしてジャックポットチャンスになると、今度は中央の穴にボールを入れないといけないの。もどかしいわよね」
「そういえば、ガムボールマシンも自分で動かしてガムボールを操作して穴に入れるタイプのがあった気がするよ。ああ、これで遊んでたらやっぱりあのガムボールマシンもう一度やりたくなったなぁ……」
「この街、デパートは無駄にたくさんあるから探せばあるでしょうね。私もデパートのゲームセンターってほとんど行った事が無いから、新規開拓がてら付き合うわ」
ボールを穴に入れることが重要だと言う塔子の解説を聞きながら、ガムボールマシンへの未練を捨て切れない良太。良太と一緒に色んなデパートを巡る放課後デートを想像した塔子は少し顔を赤らめながら、新しいゲームセンターを探すついでという名目で良太に協力をすることにするのだった。
※あとがき
元ネタ……セガ『ガリレオファクトリー』
技術介入要素たっぷりの上級者向け台。
横に広くちょっとやそっとじゃ動かないフィールド、
通常配当のダブルアップによる一撃、
赤い星が選ばれると配当が5倍になるというピーキーなボーナス、
大量のボールを操作していかに黄色のコンボを繋げるか等、
セガらしさがたくさん詰まった名作。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます