メダウィンク
「ほおこはんははべないの?」
「別に私はガム好きじゃないし(ガムって捨てる時口から出さないといけないから人前で食べたく無いのよね……)」
ある日の放課後。ガムボールマシンを探してデパート巡りを続けた二人はついにデパートのおもちゃ屋でレーンを転がるガムボールマシンを見つけ、嬉しくなって何個も購入して口の中をガムだらけにする良太。それを祝福しながらも、良太と二人で放課後に色んな場所に出歩くという紛れも無いデートの日々もひとまずはこれで終わってしまうのかとどこか寂しがる塔子。
「私は先にゲームセンターに行って品定めしておくわ。ガムを吐き出したら来なさい」
とりあえず今を楽しもうと良太を置いてデパートに併設されてある、今まで来た事が無かったゲームセンターに向かい、遊んだ事のあるメダルゲームや初めて見るメダルゲームを眺める塔子。しばらくして良太がメダルゲームのコーナーに向かうと、塔子は小さ目のプッシャーゲームが数台並んでいるコーナーに立っていた。
「同じような機種だけど……よく見たら全部名前が違うね」
「聞いたことがあるわ。メダウィンクってシリーズね。ゲーム性は全部バラバラなんだけど、ネットワークで繋がってるからパーティーゲームとかが発生するの。私はこのお茶兎で遊ぶわ」
「じゃあ俺はページワンにしようっと」
塔子は一昔前に流行ったお茶をモチーフにした兎のキャラクターが題材のお茶兎のゲームを、良太はトランプゲームであるページワンのゲームを遊ぶ事に。基本的なルールは共通しており、メダルを投入すると上部にあるガラス板の上を転がって行き、奥にあるチェッカーに入る事でイベントが発生すると共に、下部にあるフィールドにへとメダルが追加されて行くというものだ。
「投入したメダルがほとんどチェッカーに入るのはいいね」
「私のはガタが来てるのかしら。メダルを入れる部分が揺れまくってスピードが出ずに途中で止まるわ……それにしても、元ネタに特にストーリーとかが無いから違和感が凄いわ。お茶兎って別にお茶が主食じゃ無い気がするけど……見た事無い色のお茶兎もたくさんいるし、ゲーム化するにあたって数が足りないから無理矢理増やしたのかしら」
設計上、適当にメダルを投入してもどこかのチェッカーに入るためストレスを感じずに遊べる良太。一方の塔子は古い機種だからか部品が壊れかけており、勢いを失ったメダルは奥のチェッカーに入る事無くガラス板の上で止まってしまう。そのストレスをお茶兎で癒そうとするも、餌としてお茶ばかりを与えてポイントを貯めるという虐待にも近いゲームシステムに困惑する。
「よし、ここで7を出せ……! な、何で出さないんだよ……」
「パスしても手札が増えないだけ有情じゃない?」
一方の良太も現実のページワンならば自分で出す手札を決める事が出来るが、良太に出来る事はメダルを入れてチェッカーに入れて抽選をする事のみであり、なかなか減らない手札にもやもやする。現実の題材をメダルゲームにする事の難しさについて考えながらしばらく遊んだ後、メダウィンクの別のゲームで遊ぼうと良太はメダルを積んだ機関車がテーマのゲームを、塔子はブロック崩しがテーマのゲームを遊ぶことに。
「……何かこのゲーム、見覚え有るんだよね。数年前にどこかのゲームセンターで見たような」
「確か同じ会社が昔こんな感じのを出してたはずよ。私も宇宙鉄道888のバージョンで遊んだ記憶があるわ。それじゃない? なんかルーレットを何周もして、ゴールしたら列車がメダルを吐き出すやつ」
「そうそうそれそれ。あれはもう遊べないのかなぁ」
「かなり古い機種だし難しいでしょうね。このメダウィンクもかなり古いから、多分この辺りだとここでしか遊べないと思うわ」
ゲーム画面を見ながらデジャヴを感じる良太に、熟練メダルゲーマーとして知識を披露する、昔のようにマウントを取るような感じでは無くなっている塔子。昔を懐かしみながら遊ぶ良太を横目に、塔子はブロック崩しのメダルゲームを遊びながら顔を赤らめる。
「どうしたの? トイレ?」
「いや……ほら、ブロック崩しって、昔男子の間で流行ったじゃない」
「……? そうなの?」
「ああ、中学が違うんだった……何でもないわ」
塔子が通っていた中学校では一時期男子生徒の間で脱衣ブロック崩しが流行しており、それを聞いて検索してしまった塔子もその印象が強いからか、健全なブロック崩しのメダルゲームを見てもそれを連想してしまう。そうして両者共に幼い頃の思い出に浸りながらも定期的に機種を変更しながらメダウィンクを堪能して行く二人。そして最後に二人でメダウィンクの1つである、パズルゲームのぶよぶよをモチーフにしたメダルゲームを遊ぶ事に。
「俺結構ぶよぶよ上手いよ。地元じゃ2番目に強い」
「私の方が強いわよ。痛モードノーコンしたことあるし。自力で7連鎖も出来るわ」
知名度のある題材だからか、思い出話を弾ませながらゲームを進めて行く二人。やがてボーナスゲームに突入し、見慣れたパズルゲームの画面が表示されるも、二人は違和感を覚えて顔を見合わせる。
「……? ねえ、ぶよぶよってこんな形だっけ?」
「おかしいわね、3つとか4つとか無かったはずよ。それに何? カーニバルモードって。このメダルゲーム、結構古いやつのはずだけど……」
2つずつ落ちて来るはずのぶよが3つ4つ落ちて来たり、突然カーニバルモードという知らない状態になったり、二人が昔遊んだぶよぶよとはかけ離れている様子に困惑する二人。やがてスマートフォンでぶよぶよについて調べていた塔子が驚きの声を出す。
「た、大変よ! ぶよぶよの会社、倒産してるわ! それで新シリーズになったみたい!」
「何だって!? あんなに流行ってたのに……」
二人がハマっていた直後にぶよぶよの制作会社は倒産しており、版権を受け継いだ会社が新シリーズとして発売したぶよぶよは初心者でも遊べるようにルールが変更されていたのだ。カルチャーショックに打ちひしがれながらも、昔のぶよぶよの方が良かったと新シリーズを認めない方針で意見が一致する二人。
「キャラデザインも昔の方が良かったわね」
「わかる。そもそも主人公も別人になってるじゃないか。昔の会社にリスペクトは無いのかな?」
「私は原作のRPGも遊んだことがあるから、主人公すら違うのは色々とショックだわ……」
メダルゲームをしながら題材に文句をつける、痛々しい古参と化した二人はその後も昔のシリーズについて語り合い、ロクに画面も見ずに遊んでいたせいかそれなりにあったはずのメダルもハイペースで無くなってしまう。素寒貧になりデパートを出た後もぶよぶよ談義は続き、久々に遊びたくなったので携帯ゲーム機でぶよぶよを購入して対戦しようという話になる。お互い帰宅し、携帯ゲーム機をインターネットに繋ぎ購入のためにぶよぶよを検索した二人であったが、会話こそしていないものの部屋でお互いに驚きの声をあげる。
「「ぶよぶよVSコラムズ……?」」
検索結果として表示されたぶよぶよは更にシリーズが新しくなっており、別のパズルゲームであるコラムズとの異種格闘技戦となっていたからであった。
※あとがき
元ネタ……セガ『メダリンクシリーズ』
同じ形の筐体が複数並んでおり、題材となっているゲームは別々だが、
店内でネットワークは共通しており全体のミニゲームが発生したりする。
ちなみに『コラムズ』の元ネタはセガの落ちゲーであるコラムス。
3つ縦に並んだ宝石の順番を入れ替えて縦横斜めに同じ色を揃えて削除。
ぷよぷよよりも先に連鎖の概念を取り入れており、テトリスよりも異種格闘技にふさわしいのでは?
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