フィッシングGO
「週末登山行かね?」
「俺は釣りがしたいな」
「あそこの山なんてどうよ? 川もあるし」
ある日の休憩時間中、週末にキャンプに行こうと盛り上がる男子達。現在放送されているアニメの影響で教室は空前のキャンプブームであり、男子も女子も登山や釣りの話題で盛り上がっており、キャンプに行こう、男女で泊まろうと浮かれた話を繰り返す。
「……ちっ」
そんなクラスメイトを寝たフリをしながら睨みつける塔子。自然と塔子の視線は良太の方へ向かうが、どうにも良太はキャンプの話題にあまり乗り気ではないようで、困惑した表情をしながら輪の外で適当に相槌を打っていた。輪に入れない仲間が出来たように感じて嬉しくなった塔子は、ニコニコしながら手招きをして良太を自分の席の方へと呼び寄せる。
「あなたも『安易に流行には乗っからないぞ』同盟の一員だったのね」
「いや、そんなんじゃなくて……何で今更キャンプが流行ってるの?」
「キャンプアニメやってるのよ」
「だとしても、何でわざわざ週末に人気のキャンプ場とかに行くのか理解できないよ。だって人気って事は、混んでるってことでしょう? この前キャンプ場に大量のテントが設置されてるニュース見たことがあるよ、あれじゃあんまり楽しくないんじゃない? 俺の地元なら空いてるから遊ぼうって誘っても、皆そんな田舎行きたくないって言うし……」
「人間は所詮そんなものよ。キャンプが好きなんじゃなくて、漫画やアニメのようにキャンプをしている自分が好きなの。だから場所だとかに拘るのよ」
良太を同盟員に認定する塔子であるが、良太は自然に囲まれた地元で育っており、山や川で遊ぶだとか釣りをするだとかは当たり前の行為であり、わざわざ人の多い場所でキャンプをするという行為に意義を見出せなかったのだ。理由はどうあれ同志が出来てご満悦な塔子は、放課後に良太を誘ってゲームセンターへと向かう。塔子が座ったフィッシングGOと書かれた筐体の中央には様々な魚が泳いでおり、釣りをモチーフとしたメダルゲームである事は誰の目にも明らかであった。
「あ、ハゲだ。美味しいよね」
「……? そんな魚いたかしら?」
海を泳ぐカワハギを見て通称で呼ぶ良太と、現実の魚の知識が無いため理解できずに困惑する塔子。ウキを模したボールを落とすことで釣りにチャレンジする事が出来るという簡単な解説を塔子から受けた良太は、早速ボールを落として海を泳ぐシイラを狙うが、すぐに糸が切れてしまい失敗する。
「ボール1つじゃシーラカンスは無理よ。ボールを落としてもすぐに釣りをせずにボールを落とし続けることでレベルが上がるから、それで高配当の魚を狙うの。小さい魚をたくさん狙うか、どでかい魚を狙うかの駆け引きが重要なの。そうそう、今ちょっとだけ雷ゲージが貰えたでしょ、あれを使うと釣りが有利になるから、ここだって時に使いなさいよ。たまに使わずに帰る人がいるけど物凄く勿体無いわ。ボールを複数落とせば、ほら、ヒラメだってこの通り」
釣りに失敗した良太を笑いながら、ボールを4つ落として手堅く釣り上げる塔子。しかし画面に表示された魚の名前はカレイであり、ありがちな勘違いをしてしまった塔子を見てくすくすと笑う良太。
「瀬賀さん。左カレイに右ヒラメって知らないの? 一般常識だよ。それにシイラとシーラカンスは違うよ」
「知らないわよ、魚の話なんて。釣りなんてしたことないもの」
「そうなんだ。俺の地元の海だと今の時期は……」
ここ最近の件で良太も塔子に良いところを見せようと思うようになったからか、塔子がメダルゲームの解説をするように釣りや魚の解説をしたり、そこから派生してキャンプの話をし始め、負けじと塔子もメダルゲームの蘊蓄を垂れ流す。こうして二人はメダルゲームで釣りをしながら傍から見ればしょうもないマウントの取り合いを行い、良太はジャックポットチャンスに突入してカジキマグロと格闘し始める。
「カジキかぁ……2年くらい前だったかな、親戚のおじさんの船でトローリングしたんだよ。陸から釣り竿を投げてぼーっとしながら釣るのもいいけれど、海のど真ん中で釣りをするのも最高だったな」
「ふぅん」
釣りの思い出を語りながらメダルゲームを楽しむ良太であったが、反対に塔子の表情はあまり楽しそうでは無く、目の前のメダルゲームにも集中することなくスマートフォンを眺める頻度が増えて行く。自分のプレーに集中していたからかそれに気づかずに語り続け、ついにジャックポットを獲得して筐体の上部の網に入っていたメダルが大量にフィールドに放出されるのを見て大喜びする良太であったが、感動を共有しようと塔子の方を向いて驚いてしまう。
「……うっ、ううっ」
「えっ……ご、ごめん。大当たりして浮かれてたね」
「別に、そんなのどうでもいいわ。ただ、もう釣りとか登山とかの話はやめて」
「……?」
そこにいたのはスマートフォンを眺めながらすすり泣く塔子。良太も何故彼女が泣いているのか理由がわからず、言われるがままに釣りや登山の話題を辞めるのだが、他に話す話題も無く、塔子も席に座っているだけでメダルゲームをせずに黙ってスマートフォンを眺めているだけであり、気まずい沈黙が続いてしまう。
「さっきから何を見てるのさ……漫画?」
どうにかこの空気を変えようと、意を決して塔子の後ろに回り込み、塔子が眺めているスマートフォンの中身を確認する。そこには可愛らしい女の子がキャンプをしている、最近流行りの漫画が映し出されていた。
「……悪い?」
「いや、何が」
「私が、キャンプに憧れてたら悪いの? 本当は私だってこの子達みたいに釣りがしたいし山の頂上から景色を眺めたい! でも今の時期に、皆が集まって楽しんでる時期に一人で行ったりしたら物凄く惨めじゃない……だから色々と封じ込めていたのに、良太が釣りだの登山だのの話をベラベラするから……」
スマートフォンの画面を良太の方に向けながら、本当は自分もキャンプがしたかった、でも友達のいない自分には誰かとキャンプで楽しむなんて事は出来ないし、ソロキャンプをする勇気も無いと落ち込んでいるからか色々と弱音を吐く塔子。彼女の方からこのメダルゲームに誘って来たんだし言いがかりな気もするけど間接的には自分に責任があるみたいだし何とかしてあげたい、そう考えた良太はしばらく悩んだ後、自分のスマートフォンで撮った、地元の自然の画像を塔子に見せる。
「じゃあ俺の地元でキャンプしない? 穴場どころか、外から人が来ることって滅多に無いからさ。まぁ人気のキャンプ場みたいに物凄く景色が綺麗だとかそんなことは無いけれど、登山も釣りも出来るよ」
「……行く」
そしてそのまま休日に地元で登山をしたり釣りをしたりして遊ぼうと提案する良太。良太の方からデートに誘う形になって嬉しかったからか、余程キャンプ欲に駆られているのか、塔子はコクコクと頷きながら素直にそれを受け入れ、その週末には良太の地元の山を登る二人の姿があった。
「本当に何も無いわね、この田舎……この山、標高何メートルなの?」
「600くらいかなぁ……たまに鹿とかがいるよ」
「中途半端な高さね、そりゃあ観光客も来ないわよ。……あ! 鹿! 鹿がいたわ! 近づいたら逃げるかしら?」
田舎としか表現しようのない良太の地元をこき下ろしながらも、塔子の表情は終始嬉しそうであり、登山の途中で見かけた鹿に大はしゃぎしながらスマートフォンを構えるのだった。
※あとがき
元ネタ……セガ『レッ釣りGO→ガッ釣りGO』
筐体中央上部にある網の中にあるメダルがジャックポット獲得により一気に放出されるという、
一度は体験しておくべきジャックポット演出が魅力的。
稲妻ゲージは高いレベルの時に低いレベルの魚を釣った際に損をしないように溜まるのだが、
たまに『課金を促すためにどれだけゲージを使っても確定で失敗する釣り』が発生する。
その場合、ゲージを使った上で課金を拒否すると凄まじくゲージが溜まるため、
ビンゴやビッグサイズ等、課金煽りが来そうな時に全力を出すのがポイント。
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