ダイナマイトマン

「ダイナマイトガール対戦しようぜ」

「じゃあ俺ボマーやるからお前ブロッカーな」


 定期的に良太のクラスの男子達はゲームのトレンドが変わっており、現在は爆弾を投げ合って戦うダイナマイトマンの女性版、ダイナマイトガールが流行していた。最大8人対戦ということで休憩時間中に携帯ゲーム機をゾロゾロと取り出して盛り上がる、良太含む男子達に対しうるさいとクレームを入れる女子達と、寝たフリをしながらそういえば昔やったダイナマイトガールのアクションゲームは難しくてクリアできなかったわね……と悔しい思い出を振り返る塔子。


「俺は1はクリアしたよ、2はダメだったけど」

「凄いわね。まぁ、今の私にはメダルゲームがあるから、別に今更リベンジなんて考えて無いけど」

「そういえば友達が、瀬賀さんの誘いを断ったり他の女子と遊ぶと爆弾が爆発して周りに悪い噂を流すぞなんて言うんだけど、そんなことしないよね?」

「ふふ、どうかしらね」


 ダイナマイトマンや、別の爆弾女が出て来るゲームの話をしながら放課後にゲームセンターに向かう二人であったが、良太はメダルゲームのコーナーがある上の階では無く、アーケードゲームのコーナーがある下の階を指差す。


「実はダイナマイトガールって、元々ゲーセンのゲームらしくてさ。一度大きな画面でやってみたかったんだよ」

「私は別に構わないわよ、最近のダイナマイトマンがどんなものか興味はあったし」


 ダイナマイトガールにハマり、携帯ゲーム機で友人達と遊ぶだけでは満足出来なくなった良太はウキウキしながら下の階に向かい、携帯ゲーム機に比べると画面の大きさも画質も格段と違うアーケード版に硬貨を入れて遊び始める。塔子は良太の後ろで遊ぶ光景を眺めていたのだが、


「……何でこの子達、段々と服が破けてるの?」

「……」


 かつて遊んでいたシリーズとの違いよりも、キャラクターが被弾する度に衣服が破れて行くカットインが差し込まれたり、勝利するとセクシーなポーズを決める演出が気になってしまい、冷たい目と共に良太に理由を問いかけるも、良太は試合に集中してますとアピールしながらそれを無視する。その後もしばらく対戦が繰り広げられるモニターを眺めていた塔子であったが、被弾の回数に伴いどんどん際どい衣装になっていくキャラクターを眺めているうちに顔が赤くなってしまう。


「……最低! セクハラ! こんなものを見せるために私を誘ったの?」

「違うんだよ瀬賀さん確かに最初はそういう目的でハマった男子が広めたんだけど段々とチームで戦うゲーム性だとか登場人物の純粋なキャラクター性だとかそっち方面に皆惹かれていったんだよ俺がよく使うのはキウイちゃんって言って発明家キャラなんだけどいつも実験に失敗してて」

「黙れ」

「はい」


 ついに塔子はキレてしまい、目を逸らしながら早口で弁明をする良太を無理矢理筐体から引きはがし、メダルゲームのコーナーへと連れて行く。まだプレイ中の筐体を置いて向かった先は、ダイナマイトマンのメダルゲームであった。


「ゲーム性が好きならあんな卑猥なゲームじゃなくて、もっと硬派なゲームを遊びなさい」

「あれ、ダイナマイトマンのメダルゲームってこんなんだっけ? 俺も昔ショッピングセンターで遊んだ気がするんだけど、確かしおボンになって外から爆弾を投げる感じだったような」

「私はそれ知らないわ。相当古いキッズメダルなんじゃ無いの? これは割と新しいわよ」


 昔遊んだことのあるゲームを思い返しながらも、フィールド上をうろつく敵キャラクターを、メダルを消費して爆弾を置いて爆発に巻き込み倒すことでメダルを獲得するというシンプルながら原作のゲーム性にマッチしたルールに面白そうだねと席に座りメダルを投入する良太。手堅く弱い敵を狙うか、強い敵を狙うかで悩んでいた良太であったが、突如まだ何も爆弾を置いていない良太の傍で爆弾が爆発し、良太の操るキャラはスタンしてしまう。困惑する良太の真正面の席には、不敵に笑う塔子の姿。


「え、え? 攻撃された?」

「くくく……このゲームは他プレイヤーを爆弾で攻撃してスタンさせる事が出来る……メダルは増えないけどね。友達同士で遊ばせて、自然と争わせてメダルを消費させる、あのゲーム会社の考えそうな事ね……」

「酷い、さっきから俺のキャラ、ほとんど動けもしないじゃないか、ハメ技だよそれ」


 これがこのメダルゲームの正しい遊び方だ、と言わんばかりに一番消費メダルの少ない爆弾を良太の操るキャラクターの周辺に置き続けてプレイを妨害する塔子。楽しむより稼げるプレイをという日頃の塔子のモットーから完全に外れている事にも気づかないまま、高笑いをしながらメダルを消費し続けていたのだが、適当に置いた爆弾により倒した敵によりボスステージへと移動すると、真剣な表情になって良太を見つめる。


「一時休戦よ。このボス、一人で倒すの難易度高いのよ。協力しましょう」

「……」


 良太が呆れた様子になっている事に気づかないまま、ターゲットを良太からボスへと変える塔子。ボスの攻撃を避けながら爆弾を置いて行く塔子であるが、突如近くから飛んできた爆風に巻き込まれてダウンしてしまう。


「やってくれるじゃないの」

「俺だってボスを攻撃してるんだから。俺の攻撃範囲に入った瀬賀さんが悪い」


 塔子が爆風の原因を睨みつけるも、良太はわざとじゃないアピールをしながら鼻歌を歌いながら、塔子を無視してボスに攻撃をし続ける。こうしてお互いボスへの攻撃に集中せず、妨害し合いながら戦った結果、制限時間以内にボスを倒すことは出来ずボーナスメダルは虚無と消えた。


「アンタのせいで負けたじゃないの。一時休戦って言ったはずよ。このボス、私が倒した敵から発生したんだけど?」

「一時休戦も何も、瀬賀さんが一方的に俺を攻撃してたじゃないか。ほら、子供も増えて来たんだから、大人げない事はもう辞めようね」


 負けた腹いせに不戦の約定は解かれたと言わんばかりに良太のキャラクターを再び攻撃しようとする塔子であるが、気付けば小学生が近くの席に座って遊んでいることに気づき、仕方なく普通に敵を倒して遊び出す。しばらくすると、ステージが変わり画面にはバトルモードの文字が。


「ふふふ、これはガチの対人戦よ。上位の人ほど貰えるメダルが多いから、遠慮無く倒させて貰うわ。……お嬢ちゃん達、あの男の人は悪い人なの、だから優先的に攻撃しましょうね。勝ったら特別にお小遣い(メダル)をあげるわ」

「買収は良くないよ」


 このモードなら大手を振って良太を倒す事が出来ると、近くの子供達を味方につけようとする塔子。十分後、ゲームセンターの外で塔子は悔しさから地団駄を踏む。


「まさか3対1で負けるなんて……良太が子供相手にも容赦しない鬼畜だったなんて……」

「そりゃ最近ずっと友達とダイナマイトガールで遊んでるし……そもそも瀬賀さん、子供より下手だったよ」

「ぐぬぬ……」


 子供二人を買収して良太を数の暴力で倒そうとした塔子であったが、友達がいないため原作のゲームも対人戦で遊んだ経験が無く一人用モードで敵キャラクター相手に無双していた程度であり、ここ最近友達と遊び続けていた良太が本気を出せば敵わないのは当たり前であった。良太と解散し、自宅に帰った塔子は携帯ゲーム機を手に取るとダイナマイトガールを購入し、こっそりと練習していつの日か良太を打ち倒すために遊び始める。


「4対4のチーム戦……?」


 そしてダイナマイトガールのゲーム性はかつて塔子が遊んでいた単純にプレイヤー同士が爆弾を置き合い戦うものではなく、見知らぬ誰かと協力して戦う、塔子には致命的に向いていないチーム戦であることを知り絶望するのだった。





※ あとがき


元ネタ……コナミ『ボンバーマン・ザ・メダル』


ハドソン時代にもみそぼんルーレットと言う、

みそぼんとなって外から爆弾を投げて敵を倒すシステムのメダルゲームは存在したが、

今回はコナミから発売されたスーパーボンバーマンRをベースにした機種。

メダルを消費して爆弾を爆発させ敵を巻き込むという非常にわかりやすいシステムと、

PK可能、対戦モードもありというリアルファイトになりかねないシステムが特徴。

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