波物語
良太達が高校一年生になってある程度が経ち、段々とクラスには恋人持ちが増えてきて、お喋りの話題の比率も恋愛関係が多くなってくる。
「それで、今週末先輩とデートすることになったんだー♪」
「私は1か月付き合ってみたけど相性悪いから別れるつもり」
「えーもったいないよー」
クラスの彼氏持ちの女子達が恋愛話で盛り上がる中、近くの席では塔子が机に突っ伏して寝たフリをしながら、時たま会話に参加できない悔しさからか身体を震わせる。
「(別に悔しくない羨ましくない……そうよ、私はそもそもアイツと定期的に遊んでいるし、聞いた話では私の事が気になってるって言ったらしいし、これはもう間違いなくアイツ私の事好きよね、つまり私はあの女達に比べて別に恋愛経験値が低いわけではないし、むしろ意識しない関係って尊く無い? 私の方が上ね)」
自分を守るために自分は良太に好かれているから実質彼氏持ちでありクラスの一軍達にも負けていないと屁理屈で理論武装をする塔子。一方その頃良太達のグループも好きな子はいるのかどうかという話題になっており、ひそひそ話で好きな子を言い合う男子達の、というよりは良太の声を聞き逃さないために、塔子は常に様々なBGMが流れるゲームセンターで鍛えた聴力を発揮して良太の声に集中する。
「小波は? 好きな子出来たか?」
「まだいないかな。あんまり女子と遊んで無いし。瀬賀さんとはたまに遊ぶけど」
しかし第一印象では明確に見た目とかがタイプだと答えていた良太ではあるが、そこから恋愛感情にまでは発展しておらずまぁまぁ仲の良い友人止まりであると答え、塔子はたまに遊ぶ相手として名前を出された事に対する喜びと、好きな子はいないと言われ当てが外れたショックで机に突っ伏したまま小さくガンガンと机に頭突きをするのだった。その日の放課後、ゲームセンターの方へと向かう良太の後をつけながら、塔子はぶつぶつと良太に対する文句を脳内で独り呟き続ける。
「(そもそも好きでも無いなら女子と頻繁に遊ぶなよこれだから田舎者は他人との距離感がわかってない……はぁ? そもそも彼の方から声をかけて来たのは最初だけで、それ以降は毎回私が誘っているだろって? 調子に乗るなよ南無子……そうよ、きっと本当は私の事が好きだけど言うのが恥ずかしいからいないって答えたのよ。一人でゲームセンターに行くのも、私に高確率で出会えると知っているからだわ! そう思うわよね南無子! え? ゲームセンターに行かずに途中の古本屋で漫画を立ち読みし始めたですって!? くっ……長時間立って漫画を読むのはきついはずよ、30分くらいで出てくると思うからそのタイミングで偶然出会って自然な流れでゲームセンターに行きましょう。わ、私の足腰が弱いだけで彼なら1時間以上余裕で漫画を読めるはずですって!? 私を馬鹿にしないで南無子! いいわ、私も古本屋で近くで立ち読みをするわ! これは決してストーカーではない!)」
脳内でイマジナリーフレンドである南無子と戦っている中、良太は古本屋に向かい友人に勧められた漫画を読み始める。自分も古本屋に入ってしまうと、まるで自分が良太のストーカーであり一緒の場所に入ろうとしているみたいだと現実を認めずに外をうろついて待とうとするが、結局は南無子に煽られて古本屋に入り、少女漫画を読みながら遠巻きに良太を監視し、良太が古本屋を出たタイミングで偶然出会って自然な流れでゲームセンターに誘う。メダルゲームのコーナーで良太が前から遊ぼうと思っていたと向かった先は、波物語というパチンコを原作としたプッシャーゲームであった。
「父さんが週末にはサーフィンに行ってお小遣いを増やして来るって言いながらパチンコに出かけて、しょんぼりして帰って来るんだよ。母さんもそれで毎回怒ってる。何が楽しいんだろうか、っていつも思ってたんだ」
「私の父親も同じようなものよ。田舎の家庭も都会の家庭も悩みは似たようなものね……」
父親がハマっているパチンコを一度やってみたいとは思っていたが、当然高校生なので出来ない。だからメダルゲームで気分を味わおうとする良太に、将来ギャンブル中毒になっても知らないわよとニヤニヤしながら隣のサテライトに座る塔子。
「あ、チャンス目出たわ! 3回連続! 来た! 魚群よ! ナミンちゃんリーチ期待度75%……はぁ? どうして外れるの? 何がショック~よこの阿婆擦れが……」
「瀬賀さん、将来ギャンブル中毒になりそうな気がする」
「え、演出に詳しいだけよ! 私はパチンコとか嫌いなの! だって皆トータルで勝ってるとか言いながら負けてるじゃない! メダルゲームコーナーに置いてあるパチンコだって遊ばないわ! 私はパチンカスじゃない……そう……期待値回収中毒よ! ぐふっ」
原作の事を何一つ知らないため演出の強弱を理解できない良太に対し、メダルゲームとしてやり込んでいるからか実際のパチンコにハマっているかのような解説をした挙句、自分は期待値回収中毒であると身も蓋もない自己分析をしてダメージを受けてしまう塔子。そうしてしばらく二人は波物語で遊び続るが、実際のパチンコに興味が出てきたから近くに置いてあるメダルで遊べるパチンコで遊ぼうという流れになることはなかった。その代わりに良太が気になっていたのは、
「……この7の生き物って何なの?」
パチンコの図柄として表示されている、数字に対応した海の生物達。カニやタコといった一般的な生き物はパッと見で理解できるが、7の数字に対応している生き物を良太は今まで見たことが無かった。
「はぁ? そんなこともわからないの? ジュゴンよジュゴン」
「ジュゴン? え、波物語ってペケモンと関係あったの?」
「そのジュゴンじゃないわ、というよりは元ネタよ。実際にいるのよジュゴンって海の生き物が。アンタの田舎って海近いのに見たこと無いの?」
マウントを取るのが大好きな塔子はここぞとばかりに嬉々としながら解説をし始め、海の近くに住んでいるのに見たことが無いのかと、ジュゴンがその辺の海を泳いでいると思っているのか良太を馬鹿にする。
「別に海の近くに住んでるからって、人魚じゃあるまいしそんなに魚を見ないよ……このアニメみたいに、砂浜にカニとかカメが歩いてるなんてあり得ないから。……あ、そういえば水族館あるんだよね?」
「ええ、ここから電車とか乗り継いで1時間ってとこね。アンタみたいな田舎者、きちんと乗り継いで辿り着けるのか心配ね。週末暇だし、特別に案内してあげるわ。私もイルカショー見たくなったし」
「それじゃ土曜日の駅前10時でどう?」
「寝坊するんじゃないわよ」
馬鹿にされてムッとしながらも、市に水族館がある事を思い出す良太。マウントが取れて気が大きくなっていた塔子は自然な流れで良太をデートに誘い、良太も特に断る理由も無いしと二つ返事で了承し、あっという間にデートの予定が決まってしまう。その日はずっと上機嫌なまま遊んでいた塔子だったが、ゲームセンターを出て良太と別れ一人になると、
「(私何言ってるの!? これじゃまるで私がデートに誘ったみたいじゃない!? 南無子、さては私の身体を乗っ取ったわね!? そうでもないと説明がつかないわ!?)」
冷静になり、自分が良太をデートに誘ったという事実に赤面しながらパニックになり、イマジナリーフレンドに責任転嫁をし始めるのだった。
※ あとがき
元ネタ…ナムコ(三洋)『海物語シリーズ』
大人気パチンコシリーズが原作だけに、遊んでいる人は老人が多い。
複雑なシステムは無く、チャッカーに入れたらパチンコ演出がスタートし、
当たればメダル。きちんと確変システムもあり。
ジャックポットチャンスもボールを落とせばそのうちチャンスというわかりやすいシステム。
ただ、最新作のラッキーマリンツアーズはナムコが作っているからか、
メダルが小さい前提のチャッカーになっており、大きいメダルだと全然入らない。
(ナムコが経営しているナムコランドは基本的にメダルが小さい)
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