ダリオパーティ
「……」
ある日の放課後。一人で学校を出てゲームセンターの方向へと歩いていく良太を、少し後ろから尾行するス塔カー子。先日のジャンケンメンの件でテレビで聞きかじったコツを達人を名乗りながら良太に教えた結果、それをクラスの男子にバラされてしまい、挙句の果てには『塔子は良太が好きだからそんな事を言って気を引こうとしている』というあらぬ? 噂をされてしまう始末。恥ずかしくなって良太をゲームセンターに誘う事が出来なくなり、噂が消えるのを待ちながら良太がゲームセンターに一人で行くチャンスを窺っていたのだ。アイスクリームショップだったり別のお店だったりには向かわず、塔子の望み通りゲームセンターの中にへと入っていく良太。入ってしまえばこっちのもんだと、嬉々としながらゲームセンターに入りメダルゲームのコーナーで良太を探す塔子であるが、普段遊んでいる階にもキッズメダルのコーナーにも見当たらない。トイレに行ったのだろうかとトイレの前でうろうろと出待ち行為をするという不審者っぷりを発揮していると、
「うっしゃあ! 獲れた!」
下の階から良太の喜ぶ声が聞こえ、エスカレーター越しに下の階を覗くとそこにはUFOキャッチャーに興じる良太の姿。塔子はズカズカとエスカレーターを降り、別の景品を狙って硬貨を投入しようとする良太の手をがしっと掴んで妨害をする。
「そんなものはお金の無駄よ。今獲った金属の球体開けてみなさい。お菓子なんてほとんど入っていないわよ」
「……うわ! 本当だ、何これ、詐欺じゃん……」
「ご愁傷様♪ 狙う前に、景品の裏側とかを見るの。大抵グラム数だったり容量が載ってるわ。私がやるならそうね、あそこにあるチンアナゴの機種よ。一発で狙う事は出来ないけれど、地道にやれば落とせるから適当に遊んだ客の後を狙うの。ちなみに機種の名前はチンアナゴだけど、あれはニシキアナゴよ」
最近増えつつある、お菓子等が入った金属製の丸や卵型のボールを転がして落とすタイプの機種に数百円をつぎ込んで景品を獲得した良太。損得をあまり気にしない性格ではあるが、塔子に言われて中身を取り出すと、想像以上に入っているお菓子が少なかったらしく珍しくがっかりとした表情になる。負けや損を何より嫌う塔子としては良太が自分の仲間になったかのように感じて上機嫌になり、UFOキャッチャーの知識も一通りは心得ているらしく解説をしながらお気に入りの機種に硬貨を数枚投入し、数百円で大きなお菓子の袋を手に入れる。
「まぁ、コンビニで買うよりはお得だけど、スーパーで買った方が安いから勝ったか負けたかで言えば微妙なところね……って、こんなことをしに来たんじゃない! UFOキャッチャーなら、メダルゲームでも出来るわ! ついてきなさい!」
ベンチに座って二人で獲得したお菓子を食べながら、値段をネットで調べて勝ったか負けたか評価する塔子であったが、自分の本領が発揮できるのはメダルゲームのコーナーだと、良太を連れて上の階に向かい、中央に大量のボールが転がっており、上部にはクレーンのアームが装着されている機種の下へ。
「あ、ダリパだ。懐かしい」
「でしょう? 私も結構ダリパはやったのよ」
「俺は72持ってた友達の家でよく遊んだなぁ。休みの日なんかは集まってとことんやろうぜ! ってなるんだけど、結局誰かが残り5ターンになるアイテム使うんだよ。ピザを食べるミニゲームが特に好きで」
「……ストーリーモードも楽しいわよ! 蜂の巣を落とさないようにフルーツを取るミニゲームではCPUと人間の知性の差を見せつける事が出来るわ!」
ダリオパーティーという人気ゲームシリーズを原作としたメダルゲームを前に色々と思い出を語る二人ではあったが、友達と遊んだ思い出を語り続ける良太に対し、塔子は一人用モードで遊んだ思い出を語り続けるしか出来ない。段々と悲しくなってきたので思い出話を切り上げ、原作通り双六を進んでゴールを目指す、その途中でUFOキャッチャーが出来てその腕前が重要なのだと解説する塔子。引き続き友達と遊んだ思い出を語り続けて塔子の精神にダメージを与えながらプレイをする良太に、メインとなるUFOキャッチャーの時間がやってくる。
「中が回るから狙いが定めづらいな……ああ、引っかかった……」
グルグル回るフィールドに散らばったお菓子をショベルで掬って落とすタイプに似たゲーム性ではあるが、お菓子が大量にある場所をざっくりと狙えば多少は掬える機種とは違い、アームでしっかりとボールを掴まなければいけない状況に困惑する良太。ボールが密集している場所を狙うが、ボタンを押してからアームが下に移動する時間がわからなかったこともあり、アームの爪は一番下に届かずにボールの頂点で止まってしまう。
「コツとしてはアームの位置はもう固定するの。私だったらこの位置ね。で、サテライトとサテライトの間にある柱の辺りを通過したところでボタンを押せば……ほらこの通り、うまい具合に爪の間にボールが入るの。爪を開いた長さはボール2つ分より少し長いくらいだから、うまいことやれば4つ獲得出来るわ。そしてこの機種を遊ぶ上で一番気を付けないといけないのはアームの強度ね。この機種、なんだかんだ言ってもう10年くらい経ってるし修理サポートももう終わっているから、サテライトによってはもうボロボロでまともに遊べないのよ。多分来年頃には無くなってるでしょうね……」
そんな良太に見せつけるように、お気に入りの位置でアームを固定させて、じっとボールの流れを見つめながらボタンを押してボールを複数個獲得する塔子。塔子に教わったアドバイスを活かしつつプレイを続ける良太であったが、大量にあるボールの中に僅かに金色の玉が存在することに気づく。
「……ところでこのき……らきらしてるボールは落とすとどうなるの?」
「ああ金玉? それは落とすと6分の1でジャックポットチャンスに突入するんだけど、ジャックポットの数値は赤青黄色の数値の合計なの。三色みたいにたくさん落とせばポイントが貯まってジャックポットチャンスに突入するわけじゃないからイライラするし私はあまり狙わないけどね。まぁ期待値的な話で言えば優先して狙うのは全然アリよ、ほらそこに金玉が2つ並んでるから狙ったら?」
「……いや、なんか狙いたく無くなったからやめとく」
「私が狙うならキノコねキノコ、ミニゲームかメダルが貰えるんだけど、内部的にはもうどっちが貰えるか決まってるの。でも面白いのはミニゲームが選ばれていた場合、目押しすることで好きなミニゲームが狙えるの。特に野球のミニゲームが報酬が豪華でいい感じよ。あ、ごめん、さっき言ってた金玉が2つ並んでるとこ、キノコもまとめて獲れそうだから私が狙うわね。……どうして顔を赤くしてるの?」
田舎出身とは言えど最低限のデリカシーは持っている良太であったが、孤独がデリカシーを失わせてしまったのか、センシティブなワードを続けて良太を萎えさせたり赤面させてしまう無自覚なセクハラ犯、塔子。その後も塔子は金玉とキノコというワードを使い続け、良太は色々と意識してしまって口数が少なくなり、全く盛り上がらなくなってしまう。
「……そうだ、クラスの男子と話してるのを聞いたんだけど、ウイッチ持ってるのよね?」
「高校入学祝いに買って貰ったけど、まだあまりソフト無いんだよね」
「もうすぐダリパの最新作が発売されるのよ。今ならネット対戦とかで、わざわざ友達の家に行かなくても遊べるの。私も買おうかどうか迷ってたんだけど、一緒に買って遊ばない?」
「……いいねそれ。久々にダリパしたくなって来たし」
困った塔子が話題をどうにか変えようと、もうすぐ発売されるダリオパーティーの最新作を一緒に遊ぼうと提案し、ハードは持っているがソフトをほとんど持っておらず何を買おうか迷っていた良太はそれに乗っかる。数日後、発売日に自室でゲーム機を持ちながら、ベッドの上で正座をして良太とのマッチングを試みる塔子。
「は、初めての他人とのダリオパーティー、緊張するわ……ま、まぁ私過去作結構やり込んでるし、あまり大差をつけたら印象悪いだろうし、程々に接待して……あ、あれ? なんで6人もマッチングしてるの?」
ドキドキしながら良太との二人きりのダリオパーティーに臨もうとする塔子であったが、マッチング画面には良太のID以外に塔子の知らないIDが何人か表示されている。混乱した塔子がスマートフォンで良太にSNSを送ると、
『>瀬賀さん 折角なら最大人数で遊んだほうが楽しいかと思って。地元の友達も誘ったんだ』
『よろしくー』
『いやー、いつも俺の家で良太達とダリパばかりしてたのが懐かしいぜ。今日は俺の家に誰もいないけどな』
そんな返事がゲームのチャット画面に返ってきて、そのまま良太と友人達が仲良く談笑をし始める。良太はこれでも塔子に気を遣って塔子の悪評等を知っているクラスの友人は誘わなかったのだが、それでも塔子は良太と地元の友人が仲良く会話をしている中に混ざることが出来ない。こうして塔子の良太との二人きりのパーティーという目論見は外れ、良太達がチャットで盛り上がる中、一人蚊帳の外でチャットでも現実でも無言で遊び続けるという地獄絵図が繰り広げられるのだった。
※あとがき
元ネタ……カプコン『マリオパーティ ふしぎのコロコロキャッチャー2』
UFOキャッチャーの腕前が収支に直結する極めて技術介入要素の高い台。
ジャックポットのダブルアップ機能も搭載しており、一撃性能も高い。
本文中はミニゲームはキノコボールと記載してあるが、
実際にはM(マリオ)ボールであり、キノコボールはスロットチャッカーを増やすだけなので注意。
ミニゲームは野球が一番美味しく、ボールを落とした時点でメダルが貰えるかミニゲームになるかは
既に決まっているが、どのミニゲームになるかは自分で目押しが出来る。
大体ボタンを押して半周したところになるのでタイミングを合わせる事。
ちなみに良太は地元に同学年がいないという設定なので、友人は先輩か後輩。
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