クリーチャーハンター

「おい聞いたか!? ここから500m先の公園でドンブラゴ大量発生だってよ!」

「マジかよ、放課後皆で行こうぜ」


 良太含むクラスの男子達が休憩時間中にスマートフォンを開いて最近リリースされたゲームの話題で盛り上がっているのを、クラスの女子達は男子って本当に子供よねえと呆れた表情で眺めている。そんな中塔子だけは、ようやく良太も一通り街を探索してうまく誘導すればゲームセンターに行かせることができると思っていたのも束の間、スマホゲームにハマってしまったということで怒りの表情で良太を睨みつけていた。その翌日は放課後に友人達と狩りをする約束をせずに一人で教室を出ていこうとする良太。勘違いとは言え一緒に行こうと先日誘ったこともあり、誘うことに対する抵抗が若干無くなった塔子は良太の後を追い、校門を出て最寄りの駅へと向かおうとする良太の前に立ちはだかる。


「今日は男子達と遊ばないの? だったら一緒にゲームセンターで遊びましょう?」

「ごめん、こないだ狩りに行った時に俺だけ足手まといでさ……地元じゃ原作のゲームあんまり流行って無かったから、ほとんど知識が無いんだ。だから今日は家で自主練するんだ」

「……そのゲームなら、メダルゲームにもあるわ。私は原作を遊んだ事が無いけれど、そのおかげで知識ならあるわよ。クリーチャーの弱点とかわかるんじゃない?」

「それなら遊ぼうかな……な、何か凄く怒ってない……? あ、そうだ、途中でアイス食べようよ。実は父さんが仕事でチケット貰ったんだけど、地元じゃ使いようが無いから貰ったんだ。だから奢るよ」


 クラスの女子に一緒に遊ぼうと誘われても、友人達の狩りの邪魔をしないように部屋で一人で特訓をしようとする男の友情優先の良太。プライドをズタズタに引き裂かれた塔子は良太が遊んでいるゲームをモチーフにしたメダルゲームがあるからそれで遊ぼうと怒りの表情で提案し、何が彼女を怒らせたのか理解できないながらも本能的に機嫌を取る必要があると財布から先日二人で食べたアイスクリームショップのチケットを取り出す良太。甘い物を食べて機嫌が直った塔子と共にゲームセンターに向かい、良太達が今ハマっているクリーチャーハンターのメダルゲームに今回も隣のサテライト同士で座る。


「これもボールを落とせばいいのかな……って瀬賀さん、何でメダルをそんなに積み重ねているの?」

「いずれわかるわ」


 筐体に付属していた説明書を軽く読んで遊び方を確認する良太であったが、隣のサテライトで塔子が10枚程度のメダルの束をいくつも用意しているのを見て不思議に思う。塔子は理由を教えてくれなかったため自分は別にしなくていいやとメダルの束を用意することなく、前回のラウンドクロスのようにメダルを入れてスロットを回したりボールを落としたりしながら遊んでいく。すると突然良太のサテライトからけたたましい叫び声が聞こえ、液晶画面にはビビルジョー襲来の文字が表示されていた。


「え、撃退したらジャックポットチャンス!? ラッキー、絶対倒すぞ……え、20秒でチャッカーに3枚!? あわわ……」


 大チャンスに張り切る良太であったが、撃退するためには短時間でメダルを大量に入れる必要がある事に気づき、急いでメダルをかき集めて揃えて投入しようとする。しかし慌てていたからか、指が滑ってしまい良太のメダルはバラバラと床へと投げ出されてしまった。


「あー! ごめんなさいごめんなさい自分で拾うから!」

「あはは! こうも予想通りのムーブかましてくれると愉快だわ! ビビルジョーはこうやって倒すのよ!」


 恥ずかしそうに床に散らばったメダルを拾い集める良太を見下ろしながら高笑いをし、待ってましたと言わんばかりに用意していた既に整えられているメダルの束を持ってそれをスムーズに投入し、良太の代わりに見事にビビルジョーを撃退する塔子。


「これが経験の差よ!(決まった……格好いいところ見せちゃったわね)……もしもーし?」

「あー……筐体の下に何枚かメダル入ってる……これは諦めるか」


 ライバルである良太のピンチに颯爽と駆けつけて手助けをする……そんな塔子の勇姿であったが、良太はメダルを拾うことに夢中で一切それを見ていなかった。


「あ、あれ? 俺結局メダル入れてないのに倒してたの? 瀬賀さん、何があったの?」

「……ふん」


 メダルを拾い終えた良太が席に戻ると、液晶画面にはジャックポットチャンスと表示されており、隣のサテライトの塔子は非常にすねた表情。何が起きたのか理解できないながらも、とりあえず目の前のジャックポットチャンスを楽しもうと説明文を読む良太。


「一撃と狩猟が選べるのか……一撃の方が枚数が多いし一撃かな」

「落とし穴を持ってるから狩猟の方が……いや、何でも無いわ(折角この私が自腹を切って助けてあげたのに見てもないような奴にどうしてアドバイスしなくちゃいけないの。50枚で終われ50枚で終われ50枚で終われ)」


 そんな良太に枚数は確かに一撃の方が多いが、狩猟の方がジャックポットの確率は高いからそちらを選んだ方がいい、とアドバイスをしようとするも、先ほどの恨みもあり取りやめて代わりに良太のジャックポットチャンスが酷い結果で終わるように祈る塔子。


「当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ」

「当たるといいわね(外れろ外れろ外れろ外れろ外れろ)」


 抽選用のボールが筐体の中央で動く様子を眺めながら、ジャックポットに入るように祈る良太と、それを応援するフリをして呪う塔子。幸運の女神様に呪われているのは塔子の方らしく、彼女の願い空しくジャックポットが当たるという最悪の形で呪いが跳ね返ってくる。


「やったあああああ当たったああああああ! すげー、滅茶苦茶メダルが出てくる」

「ああああああああ私がビビルジョー倒したのにいいいいいいい!」


 液晶に表示される祝福の文字に夢中になっている良太の横で、塔子は狂乱しながら自分のサテライトをガンガンと殴りつける。その結果、用意していたメダルの束はガラガラと崩れ落ち床に散らばってしまい、良太が大量のメダルを獲得する中、塔子は泣きながらメダルを拾い集めるのだった。


「いやー、ジャックポットっていいもんだね……え、何か悲しいことがあったの?」

「敗者に情けは無用よ……敵に塩を送った結果だとか、言い訳をする気にもならないわ」

「はぁ……あ、そうだ。瀬賀さんはクリハンGOやってるの?」

「私はやらないわよ、そんなアホな男子がやってそうなゲーム……しょうがないわね、登録してあげるわ。ほら、フレンドIDと、ついでにアドレス教えなさい」


 大量に増えたメダルを重たそうに持つ良太は塔子の目元が腫れている理由が理解できないながらも、渦中のゲームをやっているかどうかを尋ねる。そんなゲームやるつもりは無いと答える塔子であったが、少し考えた後すぐにゲームをインストールし、その場で良太とフレンド交換をして更にアドレスも交換する。その日の夜、塔子は良太に連絡をする事無く、自室でそのゲームを一人で黙々とプレイしていた。


「恥ずかしいけど、なかなか面白いわね……彼のレベルは30……メダルゲームじゃなくても、私が負ける訳には行かないわ。彼のレベルを超えてから誘いましょう」


 良太よりもレベルを高くした状態で一緒に遊び、そこからSNS等のやりとりも自然にする……そんな展開を想像していた塔子はその日からひたすら自室でやり込み続け、数日後には良太のレベルを追い抜くも、


「え、クリハン? もうやってないよ、結局クリーチャーと戦うだけだからさ、飽きるよね。身体動かすならスポーツの方がいいし。……ど、どうしてそんなに怒ってるの? えーと、アイスのチケットはもう無いけど……とにかくアイス食べに行こう、奢るよ」


 その頃には良太は既にゲームに飽きており、塔子は怒りを積極性に変えてこの日から良太とSNSでやり取りをするようになるのだった。




※あとがき


元ネタ……カプコン『モンスターハンターメダルハンティング』


一撃JP、狩猟JP、SJP、更に一撃と狩猟を合算させた大連続JPが存在。

特に狩猟JPは最初にジンオウガを弱らせる必要があるが、弱らせれば2/15という高確率でJPを獲得できる。

他にも通常スロットの当選率が高めで頻繁に配当が出たり、

イビルジョーの撃退により直接JPCが獲得出来たりと、ストレスフリーで遊べる。

ただし一撃JPCのドスランポス50枚は絶対に許さない。

ちなみに作者は原作を全く知らない。

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