第2話 河川敷の影
入り口で合流した俺らは、他クラスの実行委員との会議のため、普段先生しか使わなという会議室へと向かっていた。
会話がなく少し気まずさを覚えていると、陽川さんの方から会話を始めてくれた。
「陰山と2人で話すのって初めてだよね。この一ヶ月だけかもだけどよろしく。」
「うん。よろしくね。」
互いに軽く挨拶をしてから、陽川さんが続ける。
「あたし、会議室行くの初めてなんだよね〜。行ったことない所に行くのってワクワクせん?」
「わかる。俺も初めてなんだ。冒険に行くみたいで楽しいよね。」
「それな。イ◯ディー・ジョーンズ的な?」
そう言いながら、陽川さんはカウボーイの真似をして腕を高く上げて回す。
こんな調子で談笑しながら歩いていると、すぐに会議室に着いた。
「おっはようございまーーーーーーーーす!!!」
一瞬、間を置いてから陽川さんは大きな声で会議室の扉を開く。
すると、ピリピリしていた部屋の雰囲気が一気に和やかなものになる。
「もうおやつの時間だよ」「チナッちゃん今日も元気だねー」「はあはあ、ぼくの千奈津たん」「遅刻だぞー」
一部気持ちの悪いセリフが聞こえたが、教師を含めた全員が歓迎の言葉をかける。これがギャルの力か…。
その日は誰がどの係をするか、そして体育祭のプログラムの構成について話し合った。
その時も陽川さんは持ち前の明るさと発言力で、話し合いをどんどん進めていった。
しかし、そんな彼女がいても学校全体の行事となると時間がかかるわけで———
「つ゛か゛れ゛た゛ー…。」
プログラム決めが終わったのは初会議から2日が経った金曜日だった。
机に萎れた風船のように突っ伏している陽川さんの首筋に自販機で買ってきたアイスラテを当てる。
「お疲れ、陽川さん。」
「ひあっ?!びっくりしたー。ありがと。てかこれあたしが好きなやつじゃん。」
「この前たまたま買ってるところ見かけてさ、好きなのかなーって。」
そういうと、ふーんとだけ返ってきた。あれ、なんか嫌がるようなことしたっけ。
「あ、来週から係の仕事だけどだいじょぶそ?力弱そうだし、運搬できそう?」
「大丈夫だよ。普段鍛えてるから安心して。」
と言いながら力こぶをつくろうとすると、
「あははっ、鍛えてるのに力こぶできてないじゃん!」
「あれっ?!」
どうやらできてなかったみたいだ。
ちなみに陽川さんは用具の点検、俺は陽川さんが言った通り用具の運搬を担当する。陽川さんは自ら立候補してなったが、俺は、まあ、いつも通り押し付けられました。いいもん!筋トレになるし!いいもん!
「来週の月曜から早速だね、係の仕事も頑張るぞ!ってことで、また来週〜♪」
そう言って陽川さんは部屋を出ていった。週末で俺も疲れているはずなのに、なぜか元気が出てきた。
これがギャルの力か…。(二回目)
◇◇◇
「あぶねぇー、週刊ハッスルあと一冊だった。」
プログラムが決定してから数日後、次の日の予行演習のための用具出しを急いで終わらせた俺は、毎週の楽しみである週間ハッスルを無事購入し帰路に着いていた。
いつも通りの河川敷の風景を眺めながら土手の上を歩いていると、最近見慣れた人の姿が目に入った。
陽川さんだ。しかし、様子がいつもと全く違う。土手に体操座りで腰かけ、腕と膝で顔は見えない。さらにオーラもどんよりとしている。
———失恋でもしたのかな。ここは関わらずに———
「きっと陰山に嫌われてるんだぁー。」
—————今関わる用事ができました。
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