第14話 反撃
ソウマは戻ってからすぐに活動を再開した。
どれだけの時間をルルが編集に費やしたのかは分からなかったが、時間停止を観測できないソウマにとっては一瞬だった。
痛みが走らず、傷跡も消えていた。
ルルがしっかりと傷を【削除】してくれたことを確認してソウマは素早く立ち上がり、ルルとの距離を詰めようとした。
「僕の魔法が……!? 何をした、ニンゲン……」
突然消えた攻撃魔法と拘束魔法に少年の真魔が困惑している今が、素人であるソウマにとってルルとの距離を詰めてルルとの共闘をしやすくする最後のチャンスだった。
少女の真魔は怯えているだけで動く様子が無いので無視する。
「【
ソウマはルルの元へと移動して、少年の姿をした真魔に向けてジジッと空間を歪ませて出現した刀を手にして構えた。
ルルの隣に立つソウマはずっしりと重い真剣を手にして『主人公』としての自分が如何に弱小なのかを思い知らされる。
【主人公:人並み程度の戦闘能力】という一文はまだ有効なようで刀は自然と様になるように構えられるが、それだけだ。
「ルル、何をしたのかは知らないが、とりあえず、あいつは一度大人しくさせる方向でいいんだよな? 魔力の扱い初心者でも分かるような殺気ある魔力を感じるし……」
「その方針に間違いはないわ。でも、貴方はそこでサポートをしてほしい」
戻ってきた緊張感の中、ルルはソウマの前に歩み出て大剣を構えた。
「サポートって言ったって……俺には……」
「お願い。私だけにやらせて。これは、私の進む道だから」
「…………おう」
ルルの提案にソウマは有無を言わせないというわけではないが、妙に強制力を持つその発言に従う。
一歩後ろに引き、扱えるのかと疑問に思うほどに立派で大きな大剣を手にしたルルの背中を見て、どことなくカッコよさを感じた。
ソウマが一歩後ろへと下がるとソウマの周囲には結界が張られてソウマの身を守った。
(完全に『主人公』だな……あいつ)
あまりにも立派に見えて、あまりにもカッコよく見えるその背中と、自分が守られていると実感できる状況にソウマはそう思った。
「【
「うっ……」
結界が張られると同時に傍で倒れている少女の真魔に拘束魔法が発動されてその動きを完全に封じた。
それが少年の真魔とルルとの戦いの幕開けだった。
「姉さんを……返してもらう」
少年の真魔がそう呟いて、ソウマを飛ばした光の矢をルルへと向かって放った。
光速とまではいかないが、見てから回避するのでは間に合わないその光の矢をルルは気にすることなく真正面から突っ込んで行く。
「諦めたか?」
光の矢に自ら進んで当たりに行っているようにさえ見えるルルに少年の真魔は嘲笑した口調でルルに冷たい目を向けた。
「いいえ。信じてみたの」
対してルルはそこそこ開いていた少年の真魔との距離を詰めつつ、清々しいほどにまで明るく、そして、不敵な笑みを浮かべた。
「【
【光速とまではいかないが、見てから回避するのでは間に合わない光の矢】
⇩
⇩
⇩
【 】
(俺がやらなかったらどうするつもりだったんだよッ!? くっそ、これ、【
ソウマが呟き、文章が消去されていく。
それに伴って光の矢はその効力を失うどころか、ルルへと命中する前にその存在を消されてしまった。
ルルからソウマへの信頼を明らかにするその行動にソウマはちゃっかり『ヒロイン』らしいところをルルに垣間見た。
「……なるほど。複数でも対処できるか?」
少年の真魔はその現象に驚きながらも冷静に、同じ光の矢を今度は複数本生成して自分へと迫って来るルルへと向けて放った。
「頼んだわよ!」
「ああ、もう! どうにでもなれッ!!」
ソウマは自分の中の不安など二の次にしてもはや邪魔ですらある刀を自身の横に置いて両手を無数の光の矢へと向けた。
「【
【ルルへと向かい、その命を狩ろうとする無数の光の矢】
⇩
⇩
⇩
【 】
ルルへと向かっていた無数の光の矢が全てその場から消え去った。
だが、全ては削除しきることが出来ず、数本の光の矢がルルを襲う。
「すまん! 全部は無理だった!」
「問題ないわ」
大剣を持ったまま、ルルは数本の光の矢を軽やかにかわした。
最小限の動きで全ての光の矢がルルの肌を掠めるが命中することは無い。
大剣を持ったままとは思えないルルの身のこなしにソウマは息をのむ。
「大剣を持ったまま出来る動きじゃねえだろ……」
「…………チッ……」
感嘆するソウマとは対照的に少年の真魔は大剣を持ったままに軽やかなステップで光の矢をかわしたルルに厳しい顔をする。
しかし、その程度で諦められるほどこの少年の真魔は少女の真魔を軽く見ていない。
真魔とはいえ、姉弟の絆は存在する。
「【
一発の光の矢で致命傷に見える傷を与えられただけに少年の真魔はルルのことを低く見積もっていた。
認識を改めた少年の真魔は巨大な火の塊を召喚してルルへと放った。
確実なとどめの一撃とは違って、荒く、抜け道もある即席の攻撃魔法だったが、少年の真魔に現在放てる最強の一撃だった。
「っ!?」
「焼けろッ……」
至近距離で放たれた巨大な火にルルは大剣を前にして盾のようにする。
ソウマが火を消そうとするが間に合わない。
ルルが火に包まれて完全に見えなくなった。
「ルル!? おい、大丈夫か!?」
魔法の反動か、息を荒くしている少年の真魔は動くことが出来ない。
ソウマは身を乗り出して結界を出てルルの元へと向かおうとするが、ガンッと音を立てて勢いよく結界にぶつかり、頭を痛める。
効力が続いている結界がソウマにルルはまだ生きていることを教えてくれた。
「ルルは……まだ生きているのか……?」
ソウマが呟いたその瞬間。
ルルに纏わりついていた火から何かが飛び出した。
くるくると回るそれはルルが手にしていた大剣。
遅れて火の海から脱出し、跳躍したのは短めになっている髪や、焼けた肌を回復魔法で少しずつ再生させているルルだ。
身体に火を纏った状態でルルは空中の大剣を手に取る。
「ちょっと、痛むよ」
重力に従って落下していくルルはクルリと空中で一回転して大剣の威力を増幅させる。
「らああああ!!」
少年の真魔は反動で動かない身体を根性で動かしてルルが着地する直前にバク転をしてかわす。
ドゴンッと人間の着地音とは思えない音が周囲に響くと同時に砂埃が舞う。
「どこへ行った……」
少年の真魔は振り返って腕を構えて魔法の照準を右往左往させてルルを探すがいない。
ゾクッと視線を感じた真魔は振り返って魔法を放った。
少年の真魔の勘は当たっていた。
背後には大剣を持って物凄い速さで向かってくる爛れた服を着た少女がいた。
「当たらない……」
少年の真魔の勘は当たっていたが、彼が放った攻撃魔法はすべて当たる直前に回避されてしまう。
ゴブリンを操る際に多くの魔力と労力を消費しているとはいえ、勝てると思っていただけに少年の真魔の焦りは大きい。
結局、少女の真魔と少年の真魔は姉弟であるからか、同じように相手を舐めて焦ることとなった。
「武器を扱う者ならこれは無理だろう?」
少年の真魔は姉と違ってそれでも一瞬で冷静に戻って魔法を使って大剣を凍り付かせた。
地面から生やすように発動された魔法は大剣と地面を完全に一体化させており、加速していたルルは一気に減速する。
「私のことを知らないみたいね」
ルルはあっさりと大剣を諦めて素手のまま木の傍へと走った。
「装備も無しで僕たち真魔から逃れられるとでも?」
少年の真魔は逃走ともとれるその行動に容赦なく追い打ちをかける。
多種多様な攻撃魔法を複数発動してルルへと放っていく。
ルルはその攻撃魔法を避けながら二本の木の枝を拾った。
その二本を、それぞれ剣を持つように手にしてルルは進行方向を変えて少年の真魔へと向かっていく。
「小枝で何が出来る? 子供だからと舐めるな、ニンゲン」
少年の真魔は冷徹な目をルルへと向けて小枝で十分だと言わんばかりに傲慢な行動にブーメランになりかねない言葉と攻撃魔法を放つ。
ルルは小枝を二刀流剣士のように構えて攻撃魔法を回避しながら言い放った。
「【
クルリとゲームの手持ちを変更するようにルルの手にあった二本の木の枝が反転する。
現れたのは二本の剣。
それぞれが綺麗なそれで鋭利な輝きを放っており上級品であることが分かった。
少年の真魔に初見殺しを強制させたルルは二振りの剣を手に少年の真魔へと迫った。
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