第12話 共同編集
少し長かった私の走馬灯、過去の振り返りもここで終わる。
目の前には怒りのためか、荒々しい魔力を私にぶつけてくる真魔の男の子。
その子は魔力に似て形も歪んでしまった魔法陣を展開して、ブツブツと何かを呟いてその矛先を私に向けた。
魔力が濃度を増し、今にも私にそれだけの魔力を消費した威力の攻撃魔法が放たれるはずだ。
身体は魔法で固定されてしまった。
避けることも出来ない。
「……ごめんね、兄さん、ミミ、お父様、お母様。私、自分の夢も……守れなかった」
私は諦めてそう呟いた。
「ふざけるな!」
聞き覚えのある声が私の鼓膜を刺激した。
私を庇って飛んで行ってしまった、生死も確認できなかった、私が勝手に希望を抱いた男の子の声だ。
右側を見ると彼は息を切らした様子であった。
肩で息をしており、相当急いだのだろうということが簡単に予測できた。
「忘れたか!? お前は今、【ピンチで力を発揮する主人公タイプのヒロイン】だ! 諦めて投げ出して……俺が考えたお前は! そんなことでくじけたりしないだろうが!!」
言いたいことを早口で言った彼は、右手に握っていた白く輝く何かを私に向かって投げて再び叫んだ。
「これを使え! お前の【
私はその言葉に返事を返すことが出来なかった。
でも、私はその言葉に、危機的状況で見せるものではない彼の痛ましくも確かな笑顔に人生で二度目の感銘を受けた。
「……うん!!」
少年の真魔はその様子に気が付いて魔法の発動を速めて何かをする前に私のことを消そうとした。
ピンチに駆け付けて確信を持って笑う彼の指示を信じて、私はただ魔法よりも早くつかめるようにとその白い物体に手を伸ばした。
**
ソウマはひたすらに走っていた。
足場の悪い中、身体中に【抜刀】の反動と光の矢の攻撃によって出来た傷から走る痛みが彼の速度を更に落としている。
「くっそ…………いや、『主人公』は間に合うはずだ。『ヒロイン』のピンチが終わっていないなら、間に合うはずだ……俺が、『作者』がそう信じれば間に合うはずだっ!」
諦めることなくソウマは走り続けた。
木の根を飛び越え、草をかき分け、ソウマはルルの姿を捉えることが出来る位置までたどり着いた。
少し離れたこの場所からでも見ても分かる、とどめを刺される直前のルル。
身体は固定されていて、彼女には真魔だと思われる少年が距離を詰めようとしていた。
「着いてから用意する暇ないぞ、コレ…………移動しながら創るしかない」
まだ残っていた最後の打開策を実行するためにソウマは警鐘をならず頭の痛みを無視して【
「【
ズキンッと頭に鈍い痛みが走るが唇を噛んで耐える。
血が流れてくるが、知ったことではない。
複数の文字がフラッと浮かび上がることでソウマに特殊魔術が発動したことを伝えた。
「【
彼女が大体何に悩んでいるのか、何が突破口として有効なのか、『作者』であるソウマはその内容が大まかであるがよくできていた。
故にソウマがイメージするのはルルの思考を補助するための魔力の鍵。
彼女の思考をほぐし、特殊魔術の一時【
ソウマが走りながらイメージを固めると同時にジジッと空間にずれが生じ、新たな物質がその場に呼び出された。
「よし、間に合った! これで――」
「――自分の夢も……守れなかった」
ソウマがその場に到着するのと真っ白な魔力の鍵を創り終えたのと、ルルがそう呟いたのは同時だった。
ソウマはその言葉を聞いて、自分がルルに込めた想い。
その一文が頭をよぎった。
『それでも、夢を諦めない』
心が弱くても、弱音を吐いても、それでも決して夢を諦めない。
それが自分の考えた『ヒロイン』であり一人の『人間』としてそうあってほしいと願った想いだったはずではないか。
「ふざけるな!」
考えるよりも口が先に動いていた。
「忘れたか!? お前は今、【ピンチで力を発揮する主人公タイプのヒロイン】だ! 諦めて投げ出して……俺が考えたお前は! そんなことでくじけたりしないだろうが!!」
『主人公』として、『作者』として、これだけは譲れなかった。
弱気なのは良い、ただ諦めるな。
これはソウマが『ヒロイン』、そして、自分自身に求める責務だった。
「これを使え! お前の【
あるいはそれは、『主人公』だからこそそう言ったのかもしれない。
でも、紛れもなくソウマの本心だった。
諦めるくらいなら、足掻ききってから終わる。
痛みを悟られぬように、諦めようとしているルルを動かすために、そして、自分の内から湧いてくる生命の危機から来る恐れを追い出すように。
ソウマは痛みを耐えながら笑顔を作った。
「……うん!!」
その笑顔に触発されたのか、ルルは諦めていた表情から一気に目に光を取り戻して傷など気にする様子もなく手を白く輝く
少年の姿をした真魔は予想外の出来事に慌てて用意していた攻撃魔法を放とうと魔力を解放した。
少年の姿をした真魔の魔法が発動する直前。
ルルは白色の
【
特殊魔術そのものを対象にして一時的な特殊魔術の変更を可能にする。
イメージをしにくいその現象を〝鍵〟と〝扉〟の形でイメージしたルルは自分ではできなかった〝鍵〟の生成をソウマにしてもらうことでその条件をクリアしていた。
「【
ルルは手にした白色に輝く鍵を手に目の前に現れた同じく白色の魔法陣の鍵穴に鍵を挿しこんだ。
そして、鍵のついた扉を開錠するように鍵を回して
「――【
ルルがそう宣言すると同時にソウマはタイミングを合わせて
ブワッとルルとソウマを中心にして球を生成していくように世界が動きを止めていく。
空気の流れ、木の葉の揺れ、そしてルルに向かって放たれた攻撃魔法も全てが順に停止していく。
二人の精神を除いて。
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