第3話 煽り(無自覚)は性質が悪い
自分で設定を創った世界とほとんど同じ世界に来てしまった。
普通の異世界転移よりも遥かに
(いやいやいや、おかしいだろ! なんで俺が自分で設定を練ったのと同じ世界に来るんだよ!? まだ設定だけで話は全く創ってないんですが。自分が行ってみたい世界を創ったり見てみたい物語を創ったりしている全世界のラノベ作家……だけじゃなく、作家全てに謝れよッ!!)
本日何度目になるか分からない現実逃避をしつつ、ソウマは改めてルルを見る。
何度見てもやはり、特徴は自分が思い描いていたものに一致する。
「ね、あなたは?」
笑顔の奥に今度は貴方が自己紹介をしなさいという圧を感じたソウマはその問いにすぐに答えることは出来なかった。
(そういや、ここが俺の設定どおりの世界だとして……俺は、この世界で一体何なんだ? 俺が考えた設定で特に決まってない上にメインキャラクターと関りあるのは……)
が、この疑問はすぐに自分の中で答えが得られた。
ソウマが創った設定の中に、主人公の設定はほとんどないに等しい。
創った設定と言えば『主人公:【想像】:完全なイメージを構築することでそれを実現できる』という物ぐらいで、外見や経歴は一切決めていなかった。
(設定がほとんど決まっていないがゆえに、そこのポジションに俺が当てはまっていると考えられるな……そもそも、ここに来てすぐにヒロインと遭遇している時点で俺の役は『主人公』で確定か……嬉しくねぇー……)
荒唐無稽な仮説の元、ソウマは事実を導き出した。
地頭はいい方なので一度、それを受け入れてしまえばしっかりと事実を導き出すことは出来るのだ。
それでも、信じがたいという感情が先行するが。
「……蒼真だ」
「ソウマね、よろしく」
主人公に特定の名前が無かったので実名を名乗ったが、ヒロインに自然に受け入れられているところを見てやはり自分が主人公枠なのだろうと納得してしまう。
「それで、どうやったのよ? アレは」
興味津々と言った様子で身を乗り出すルル。
非常に目のやりどころに困る姿勢をされるのでソウマは紳士らしくさりげなく目を逸らしながら答えた。
「だから、こっちが聞きたいくらいだっつの」
「どういうことよ? まさか、アレは無意識でやったとでも言いたいの?」
「そうなるな……」
「心当たりとかも無いの?」
「……無いとは言い切れない」
「教えて!」
「やだ」
ベッと舌を出して拒絶の意を表すソウマ。
まさか拒絶されると夢にも思っていなかったのかルルは心外そうに眉を顰める。
「どうしてよ!?」
「理由はいくつかあるが、まずお前。初対面の人間にホイホイと情報を教えるかよ。交換条件だ。ここ最近の世界の詳細を教えろ」
「……いいわ。でも、世界中の人が知っている状況と大して分からないわよ? それでもいいの? ……あ、ごめんなさい。教えてくれるような人が居なかったのね。もしかして迷子じゃなくてこの付近に隠居している人だったのかしら? だとしたら、戦闘部族のようだけれど……」
自分の発言を途中で止めてかわいそうにとでも言いたげな、憐れむ視線をソウマに向けるルル。
その視線と発言に「イラッ☆」としたソウマは青筋を浮かべながら叫ぶ。
「ふざけんなよ、お前! 戦闘部族はどっちだよ? 俺だってここに居るのは不本意なんじゃい! お家で家族と平和に過ごしたかったわ!!」
「ご、ごめんなさい……悪気は無かったの。複雑なのね……」
「……お前な、悪気が無いのが一番、
ソウマが考えた通りなら彼女は根っからの真面目でその発言に一切の悪意が含まれていないことなどソウマにも分かっていた。
だからこそ、それ以上ソウマも責めることはしない。
親が子に抱く気持ちってこんな感じなのかもな……と目を遠くして考えるソウマのことを察することも無くルルは要求通りに世界の現状を説明する。
「ここ最近、世界では突如として魔物が人語を操り、人に近く進化していっているわ。人々はその変化を魔物の生存戦略で人間を襲いやすくするためのものであると結論付けて人に近い魔物――真魔と戦争を繰り返しているわ」
(ここまで一緒だと逆に笑えてくるな……ってか、俺、これからどうすりゃいいんだ……?)
ルルの説明と記憶にあるソウマが創った設定が見事に一致して、これ以上ない確証を得たソウマは頭を抱えた。
一方、いきなり頭を抱えだしたソウマを、変人を見るような目で見始めたルルは常識も知らない変な奴に声をかけてしまったかもしれないと若干後悔し始めていた。
「いや、悩んでても仕方ないか。おい、ルル。お前の要望には応えるから、人が居るところまで案内してくれないか? それと、もっとこの世界のことを教えてくれ」
「……それも、交換条件ってこと?」
頭をぐしゃぐしゃとかき回していきなり立ち上がったソウマは腕を伸ばしてストレッチをしながらルルに言った。
命令的な口調にルルは少しムッと口を閉じるが、立ち上がって問う。
「そゆこと。対価らしい対価は、さっきの心当たりについて教えることくらいしかないが……まあ、やってくれるよな? 人々を守ってきたことで有名なかのホルト家のご令嬢?」
「……嫌な言い方ね? さも私が人に親切にするのは当然みたいな言い方じゃない?」
「ハッハッハ、何を言っているのかね? ろくな戦闘術も持たない俺をリンゴ潰すみたいに人の頭潰せそうな筋骨隆々ゴブリンが徘徊する森に放置出来るのか? お前が? ハッハッハ。冗談はこの状況くらいにしとけよ」
片手を額に当ててわざとらしく笑うソウマにルルは手が出そうになるのを必死にこらえながらも自分自身の目的のためにソウマのあの術の詳細を聞かないという選択肢は無かった。
それ以前に、ソウマが戦闘能力を持たない珍しい男だということはルルの目からも明らかで、ルルはそんな人物を危険極まりない森に放置など出来ないお人好しなのだから尚更彼の言葉を無視するわけにはいかなかった。
「分かったわよ……」
「おう、サンキュー」
(変な人……)
ソウマはこうしてルル・ホルトに同行することで生存するために必要な最低条件をこなすことにした。
が、ルル・ホルトからしてみれば彼は初対面にも関わらず、まるで昔から自分のことを知っているかのように接してくる変人であることに変わりなかった。
言いようのない不信感を抱きつつも自分から声をかけた以上、置いていくことなど出来ないので話しかけたことを後悔し始めた。
しかし、ルルはまだ知らなかった。
遠くない未来、ルルはソウマに出会ったことを、この日を心の底から感謝することに。
(なんつってな……俺は純粋な『主人公』じゃねーから、んなことにはならねーだろ)
人物構成をしたソウマにはルルの心の中がわかったのでもはや状況を楽しむぐらいの感覚で冗談交じりにそう心の中で呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます