6.寮が汚すぎる
中へ入ると、ロビーの受付のような場所で数人並んでいた。
入居手続きで何か書かされているようだ。
それにしても…
「やっぱ中も駄目そうだな…」
俺が呟くと、ナルキが同調した。
「そうだねぇ~。外観よりはましと思えば何とか…?」
歩くだけできしむ床。
さびてる壁や天井。
しかも、よく見ればあちらこちらに蜘蛛の巣がはられている。
とてもだが、莫大な予算がつぎ込まれているオルエイ高等学園の寮とは思えない。
俺達が言葉を失っていると、ローズマリーが口を開いた。
「来る途中、Aクラスの寮を見ましたが、とても比較になりませんわね。」
「…そうだな。あそこはえぐかったからな。」
学校側の嫌味なのか、校舎からFクラス寮へ向かう際に必ずAクラス寮の隣を通るので、どうしても視界に入ってしまう。
そんなAクラス寮なのだが、全体が黄金や宝石で覆われていて、超豪華。
とても凄いなんて言葉で言い表せない。
あれは寮一つで王宮よりお金かかってるな、絶対。
それに対してこっちは…
周囲を見渡すと、なんだか自分達が情けなく感じる。
これがオルエイのクラス差か。
担任の先生の言葉を借りると、この寮が俺達の身分にふさわしいってことになるが、流石に限度っていうものがあると思う。
一体何百年前の建築物だよ。
ずっと見てると住みたくなくなってくるので、俺はあえて視界を狭めて、これ以上見ないようにした。
とりあえず、俺達は入居手続きを済ませることにした。
手続きを終えると自分の部屋を案内された。
Fクラスの寮は、他のクラスと比べると小さく、そのせいで2人1組で部屋を振り分けられるらしい。
他のクラスは1人1部屋貰えるらしいのでここでもクラス差があるというわけだ。
割り振りは登録した順で、俺はナルキと同じ部屋で過ごすことになった。
ひとまず、先に届けておいた荷物を受け取り、自身の部屋で開封する。
1人で荷物の整理をしていると、後から手続きを済ませたナルキが部屋へ入ってきた。
「うわぁ、ここで3年間生活するのかぁ…」
見ると、ナルキは目を曇らせていた。
部屋の様子を見て絶望したのだろう。
「寮を入った段階で、汚いだろう事はわかってただろ。とっとと荷物整理して、部屋の掃除するぞ。」
「確かに…これは掃除が必要だねぇ…」
そう呟いて、彼も荷物の整理を始める。
部屋には三人くらいが同時に使えそうな大きなカウンターが一つと、キッチンが一つ、そして二段式のベッドが一つと大きめの棚が一つ。
棚にそれぞれの服や小物類を収納する感じだろう。
机やベッドは最初から配置されている事を伝えられていたので、荷物自体はそんなに多くない。
それはナルキも同じようだった。
俺はテキパキと整理を進めた。
荷物整理を終えると、いよいよ部屋の掃除だ。
壁は薄汚れていてカビだらけだし、キッチンの床なんて、キノコが生えている。
俺は試しに壁をさすってみた。
すると、手のひらが真っ黒に変色する。
「これは……何というか…」
もはや室内と呼んでいいのかわからない汚さだ。
俺が言葉を詰まらせているのを見て、ナルキは更に目を曇らせた。
「時間かかりそうだね。」
「すぐには終わらないだろうな。」
これから住む家になる場所である以上、汚いままというのは避けたい。
掃除は必須なのだが、掃除用品は、ロビーに行けば貸してくれるだろうか?
「ひとまず受付へ向かうか…」
俺がそうナルキへ言った瞬間、突如ドアがノックされた。
なんだ? と思って扉を開けると二人の女の子が立っていた。
例の二人だ。
「どうしたの? マリー。」
ナルキがローズマリーに向かってそう言うと、彼女はジト目をしながら要件を伝える。
「二人とも、狩りへ行きますわよ。」
「「狩り?」」
★☆★☆★★☆★☆★
場所は森で覆われた道。
寮から狩りへと向かう道中である。
オルエイ高等学園の生徒達は、狩りをして金を稼が無ければならないのだが、この狩猟にもルールが存在する。
原則として、狩りを行う際は、受付所にて手続きを済まさなければならないのだ。
怪我人や死亡者が出ないようにするための配慮で、色々説明や、やらなければならないことがあるらしい。
その為、現在、俺達は狩りの受付所へと向かっている。
「それにしてもさあ、なんで急に狩り?」
ナルキが小言を言っている。
「あら、不満かしら?」
「いや、別に? ただ、急だな~って思っただけ。」
「生活する為のお金稼ぎには狩りが必要ですの。お分かりですか?」
「いや、わかるけど、わざわざ今日やる?」
生活する為には狩りでお金を稼がなければならない。
例えばシャンプーや歯ブラシなどの日用品や朝昼晩の食用品。
それらを買うために俺達は狩りをする。
しかしナルキの言う通り、別に今日やる必要はない。
というのも、先生の説明曰く、最初の一週間分の食料と生活必需品は無料で配布されるのだ。
だから、一週間かけてゆっくりお金稼ぎを始めればいい。
なんでこんなすぐに狩りに行こうと言い出すのだろうか。
「なんなら、俺達は部屋の掃除をしようと思ってたくらいだからな。」
俺がそうつぶやくと、ローズマリーと一緒にいたもう一人の女の子が説明する。
「私たちも、しようと思ったの。それで、掃除用具貸してーって、管理人の人に問い合わせたんだけど、自分で買えって言われちゃって。」
「貸してくれないのか!?」
「うん…」
まじか…
それでお金を稼ぎにってことか。
確かにあの部屋の状態ではとても寝泊まりなんてしたくないしな。
「なるほど、それは狩りをしないといけない案件だな。」
俺がそう言うと、ローズマリーが反応する。
「わたくしたちだけで行ってもよかったのですけど、保険を打ってお二人方にも声をかけさせていただいたのですわ。」
いろいろ状況を理解出来た。
俺らからしてもメリットは色々あるし、来て正解だったな。
「それにしても、そこで声をかけるのが俺とナルキなんだな。貴族だったら他にも知り合いがいそうなもんだが…」
魔界では、強い魔族が貴族となるため、貴族生まれの魔族は才能に恵まれた優秀な人材が多い。
故に、オルエイ高等学園に入学する生徒は貴族が多くなる。
また、貴族には貴族同士の顔のつながりが広いとよく聞くので、オルエイに知り合いが多くいそうなものだ。
俺の考えを察してか、ローズマリーは答える。
「縁を切られましたの。」
その余りにもド直球なもの言いに、一瞬呆ける。
「は?」
「一番下のクラスに入学が決まった時点で、周囲のオルエイ入学者とは完全に交流を絶たれましたわ。Fクラスの貴族出身者はわたくしとグレルだけなので、必然的に知り合いはいなくなりましたの。」
「なんか、ごめん。」
「気にしないでくださいまし。貴族階級ではよくあることですわ。」
彼女は澄ました顔で言うので、なんだか申し訳なく感じてきてしまった。
それにしても、貴族怖っ。
そんな簡単に縁を切っちゃうんだ…
見ると、彼女は少し切なそうに肩をすくめていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます