5.学友

「……………………以上で学園生活にての説明を終わりにします。今日はここで終了となりますので、この後は一度寮へ向かい、後はご自由にお過ごしください。」


そう言うと、ナートル先生は教卓に置いていたファイルを置いて外へ出て行った。


次の瞬間、チャイムが鳴り響く。


放課後の合図だ。


なり終えると、数人のクラスメイトが席を立って友達と話し始めた。


俺はというと、とりあえず配られたプリントを、鞄の中にしまう。


「ねえねえエスタ。」


目の前の席だったナルキが、後ろを向いて話しかけてくる。


「ん? 何?」


「なんか凄い面白そうじゃない? ランキング制度とか、独自通貨とか。なんかわくわくしてきちゃった。」


ナルキが身を乗り出してくる。


「まあ、そうだな。」


元気だな…こいつ。


「とりあえずランキングは置いておいて、狩りは楽しそうだ。どんな強い魔物がいるかな? 少なくともハイオーク以上がうじゃうじゃいてくれたら嬉しいな。」


「いや、そんな森あったら超危険なんてレベルじゃないよ。」


「ん? ああ、そうか…」


よく言われてみれば、ハイオークってかなりの危険種だったっけ。


五年前に勝利して以降、定期的に狩ってた相手だったから弱く感じてた。周りと少し感覚がずれてんな…


気を付けないと。


このままだとぼろが出そうだから、とりあえず俺は話題を切り替えた。


「そ…それにしても、面白いやつもいるもんだな。グレルって名前だったっけ? 入学初日に先生につかみかかるなんて、狂気の沙汰だろ。」


俺がそう言うと、ナルキは頷いた。


「うん、あれはすごかったね~。彼、本名はグレル・サーズティンっていうんだって。」


「サーズティンって、苗字? 貴族か?」


「そうそう、サーズティン子爵家の長男。だけど生まれつき病気で体が弱く、弟に次期当主の座を奪われたらしいよ。それでぐれてるんだって。」


「へぇ。」


体が弱く…か。


俺はグレルの方に目を向ける。


短髪ショートでツンツン頭に、ガタイのいい肩。


どう見ても筋肉ムキムキのボディ。


体が弱く…?


なんなら既にガラの悪そうな生徒達と付き合い始めている。


「おい、とても体が弱くは見えないんだが? それ正しいのか?」


俺がナルキに向かってそう言うと、彼は困ったような表情をする。


「そうなんだよね。前から聞いていた情報とは全然違くってさ。」


「前から聞いていたって、それどこ情報だよ…」


俺がジト目で突っ込むと、突如として背中の後ろから聞いたことのない女性の声が聞こえてきた。


「わたくしですわ。」


後ろを振り向くと、そこに立っていたのは金髪で縦ロールをした可愛らしい女の子だった。ついでに隣にも白髪赤目の女の子が立っている。


「君は?」


「ローズマリー・オルトー、オルトー伯爵家の三女ですわ。」


「げッ、貴族!?」


俺はつい声を上げてしまった。


そんな俺を見て、ローズマリーは眉をひそめる。


「げッとはなんですか? げッとは… 失礼な方ですね。」


「い…いや、すみません。貴族の方と喋るのは初めてで、今後無いように気を付けます。」


この国には、貴族という高い身分の魔族が存在する。


その大半が高い魔力や戦闘能力を受け継いだ血が流れており、弱肉強食と言われるこの魔界において、彼らは強大な権力を有している。


中には歯向かったり失礼をしただけで首を飛ばす、なんて貴族もいるのだ。


俺達平民の大半は親から、出来るだけ彼らとはかかわらないようにするように教育される。


「別にそんなにかしこまらなくても怒りませんわよ。敬語も結構ですわ。」


ローズマリーは、そういいながらため息をついた。


あれ? 敬語いらないんだ。


相手がフットワーク軽そうなのを確認すると、俺はフッと肩の力を抜いた。


「そうで……そうか。俺はエスタ、いずれ世界最強となる男だ。よろしく。」


「傲慢な男は嫌いじゃないですわ、よろしくお願いしますね。」


彼女はそう言うと、右手を出してきた。


なので、俺はその手を掴んで握手する。


終えると、後ろにいたナルキが、ローズマリーに話しかける。


「そういえばマリー、その隣にいる子は?」


質問にローズマリーが答えようとするが、先に隣りの子が喋りだした。


「私はシア。クラス順位は103位だよ、よろしくね!」


白髪赤目で童顔。流れるように長い髪は、とても綺麗で美しい。全男子が憧れるような完璧なスタイルで、清楚華憐という雰囲気。


正直かわいい。


「よろしく。」


「よろしく~。ちなみに僕はナルキだよ~。」


ひとまず全員の自己紹介をおえたところで。


「なあ、ナルキ、お前実は貴族だったりするのか?」


俺はそんな質問をナルキに投げかけた。


すると彼は不思議そうな表情で首をかしげる。


「ん? なんで?」


「だってローズマリーさんと知り合いなんだろ? 普通平民と貴族はあんま交流ないからさ。」


そう俺が言うと、ローズマリーが答えた。


「ナルキさんは貴族ではありませんわよ。わたくしが道端で拾ったので仲良くしているだけですわ。」


「道端で拾った?」


「そうです。ちょうど半年前、わたくしの屋敷の前で倒れていたので、面倒を見て差し上げたのです。」


彼女がそう言うのでナルキの方を見てみると、彼は恥ずかしそうに頭をかいていた。


「いや~。あの時は本当にお世話になったなぁ~。僕、遠くの方からやってきてたから行く当てがなくて餓死寸前だったんだよ~。たまたまマリーが助けてくれなかったら今頃どうなっていたか…。」


餓死寸前って…んな滅茶苦茶な。どんな無計画な旅をしたらそんなことになるんだ?


「よく助けてくれたな。」


俺がボソッと呟くと、ナルキは恥ずかしそうに頭をかいた。


「本当にそう思うよ~。」


ふと、周りを見ると、ボチボチと人が移動し始めていた。


寮の方へ向かっているのだろう。


俺は三人に向けて提案した。


「ここで喋っててもなんだから、もう寮の方へ向かっちゃうか?」


すると、皆頷いた。


「そうだね、荷物の整理とかもしないといけないし、早く行くに越したことはないもんね。」


「行く途中で、皆さんのお話を聞かせていただけませんでしょうか。これから共に生活する中です。親睦を深めましょう。」


俺達は、ひとまず寮へと向かうことにした。




★☆★☆★★☆★☆★




オルエイ高等学園は3年間制の高等学校だ。


場所は魔族国家ギャルバンという国の、王都のど真ん中に位置する。


入学すれば将来は安泰、また最高の設備や、国の一線で活躍する教師陣たちにより非常に高い倍率を誇っており、国中から学生が集まってくる。


よって全寮制を採用している。


王都に住む者も、地方から来た者も、関係なく寮で住むことを強制され、親から独立して集団で生活する事を余儀なくされるのだ。


まあ、それはいいだろう。


親元から離れるためにオルエイ高等学園に来る人だって多くいるし、自分達で生活する力を学校に通いながら身に着けられることはいいことだ。


特に不満はない。


だが…


「流石にこれはないだろ…」


俺は目の前の寮を見て、ついボソッと愚痴をこぼしてしまった。


そんな俺に皆同調して不満をぶちまける。


「え? 汚くない?」


「わたくしここに3年間住むのですか?」


「うわ、ぐろ。」


目の前にはこれから住む寮が建っていた。


地図と照らし合わせても、Fクラスの寮はここで間違えない。


しかしこれは…


ボロボロの木で建てられた木造建築。


木は錆びまくっていて、今にも崩れ落ちてしまいそう。


壁をよく見れば、虫が食い荒らしていて、清潔のせの字もない。


汚い、ぼろい。しかも若干臭い。


教室もかなりひどかったが、これは流石に予想を超えてくる。


「俺達、こんなところで寝泊まりするのか?」


体育館とはえらい違いだな。


向こうはあんなにもきれいだったのに…


「と、とりあえず、入ってみましょう。」


ローズマリーがそういうので、俺は寮の入り口の扉を開けた。


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