第16話 仲間


 しばらく、フォートゥウェンティー号には沈黙が続いた。

「俺は自由になるんだ。それが、約束だから」

 そして、黒彩石の指輪をもう一つ探し、お墓に備える。そのために旅をしてきた。

 フォーが涙を流すように呟き、乾いた笑顔で言う。

「でも、また戦いだ。同じことの繰り返しだ。自由になろうとすればするほど、俺は戦わなくちゃならない」

 両の拳を見つめるフォーに、クードゥーは問う。

「戦うことが怖いの?」

「……そうかもしれない。でも、俺には戦うことしか出来ない」

「そんなこと―――」

「俺だって他のことをやってみた。その結果があれだ」

 フォーは机の上のガラクタを指さす。それは戦い以外の何かを見出そうと、必死にあがいた形跡である。

「俺は戦い以外なにも出来ない」

 ポツリと、疲れ果てたように言うナンバーフォー。

だが、クードゥーは怒っていた。

「ちょっと、なんで落ち込んでるの。私はあなたに助けられたのよ。ナンバーフォーが戦ってくれたから、こうして生きてる。そうでしょ」

「……クードゥー」

「私だって、盗み以外の仕事が出来たならやってるわよ。それでも、他人を蹴落として生きるしか道がないから、そうやって生きてきた」

 でも―――。

「フォー、あなたは違う。私はあなたに助けられたのよ。ナンバーフォーが戦ってくれたから、こうして生きてる。だったら誇りに思いなさいよ」

「誇り」

「私は、フォーの力を正しいことに使いなさいなんて言わない。その力はどう使ってもいいの」

 クードゥーは言う。過去は消えない。なら、自分で自分に納得するしかないと。

「その力で、どれだけの人を殺してもいい。助けたっていいわ。けど、納得しなきゃダメ」

 どんな悪事も、どんな善行も、その行いに誇りがなければ意味がない。

「フォー。あなたには自由になるって大切な約束がある。なら、どんなことをしても叶えなさいよ。他人なんか気にせず、自分の約束の為に戦いなさい」

 あなたの戦いは自由のための戦い。それを誇らなくてどうすのだ。

 言いたいことは言った。フォーが何も言わないことを見て、クードゥーは部屋を出て行こうとした。

「クードゥー」

「……」

「―――ありがとう」

 部屋を出て行くクードゥー。コインもパタパタと去って行き、部屋にはフォー一人。

「……自分の約束の為に、か」



 翌朝、クードゥーが目を覚まし歩いていると、リビングが騒がしかった。

「砂糖入れろ。砂糖入れろ」

「俺はしょっぱい派なんだ」

「コインは甘い派。コインは甘い派」

「最近はいつも甘かっただろ。今度はしょっぱいのだ」

「甘いの。甘いの」

「しょっぱいのだ」

 見るまでもない。フォーとコインがキッチンで言い争っている。

「……何やってるの」

「ああ、クードゥーか。卵焼き、コインが甘いのがいいって言うんだよ。次作る時はしょっぱいのって決めてたのに」

「話盛るな。話盛るな」

「なんだと。決めてただろ」

「決めてない。決めてない」

「ちょっと両方作ればいいじゃない」

「……ふむ、確かに。フライパンの二刀流か。悪くないな」

「やったれー。やったれー」

「おうよ。コイン、見よ。この華麗なフライパン捌きを」

「いいぞー。いいぞー」

 謎のアクションを間に入れながら、確かにお見事なフライパン捌きを披露するフォー。それを囃し立てるコイン。

「……ふふ」

 クードゥーは一人勝手に笑っている。

 そうこうしていると、朝食が出来た。

「いただきます」

「いただきます。いただきます」

「いただきます」

 フォーとコインはクードゥーが卵焼きを両方口に入れるのを今か今かと待っている。

 そんなに見つめられたら食べづらいが、期待に添わなくてはいけない。

「両方美味しいわ」

「どっちかと言えば?」

「……しょっぱいのかしら。甘いのもデザートみたいで悪くないけどね」

 そう言うと、フォーはニンマリと笑顔を浮かべてコインを見やる。

「ほうれ見たことか。やっぱり、しょっぱいのじゃねーか」

「変人。変人」

「どこがだ。これが普通なんだよ」

「変態。変態」

「それは違うだろうが。適当なこと言うな」

「フォーが言うな。フォーが言うな」

「なんだと」

「やるか。やるか」

 そう言いながらも言葉だけで、実際には朝食を元気よく平らげている。パクパクと食べている内にさっきのことはどうでもよくなり、仲良くお喋りを始める。

 そんないつもの風景。

「ごちそうさまでした」

「ごちそうさま。ごちそうさま」

「ごちそうさま」

 食器を片付けて、自室へ戻ろうとしたクードゥー。それをフォーは呼び止る。

僅かに躊躇してから、出し抜けに言う。

「考えたんだ。このままシャロムをおいてシーワン星を離れたら、心から笑えない。自由じゃなくなる。だから、シャロム達革命軍に力を貸そうと思う。いいか?」

 いいも何も、クードゥーは最初からフォーがそうすると思っていた。

「いいわよ。でも、何で私に確認するの?」

「仲間だからだろ」

「私はごみ溜めから生まれた犯罪者だけど?」

「クードゥーが言ったんだろ。自分の為に戦えって。俺は、クードゥーと一緒に居たい。だから戦う」

「……私は犯罪者。普通なら警察に捕まるのよ」

「そんなこと言ったら、俺だってリゴーラに追いかけまわされてる。あいつも警察だろ?」

「―――そう、だったわね」

「ああ。ってどこ行くんだ?」

「シャロムのとこ行くんでしょ。その準備よ」

「そうだった。コインも準備しとけ」

「もう出来てる。もう出来てる」

「早いな」

「コイン天才。コイン天才」

 さっすがー。今度はフォーがコインをおだてている。そんな声を聴きながら、クードゥーはリビングを出る。その目に浮かんだ涙を隠すように。

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