第6話 ナンバーフォー


「コイン見てろよ。俺達が帰ってくる頃には凄いことになってるぞ!」

「首を洗って待っとけですわ!」

 そう捨て台詞を吐いて、夜のカジノへ向かった二人。

「確かに前はコインに助言を貰った。けど、俺達の力でもあるはずだ」

「そうですわ。ワタクシたちの地力があったからこその勝利でしたわ」

「そうだ。俺達だってやれるって所を見せてやらねーとな」

「ええ、ええ! やってやりましょう!」

意気込みだけは一人前で、カジノへ入ろうとしたところ、黒のスーツを着た大男にとめられた。

「なんだ?」

「申し訳ございません。お客様は当店へは入店できません」

「え? なんでだ?」

「昨日の勝負。あれはカウンティングを使っていましたね」

「カウンティング?」

 首を傾げるフォーとシャロムだが、思い当たることはある。コインが何やら指示を送ってきたのでそれに従っただけだが、それがどうしたと言うのだ。

「当店ではカウンティングなどのイカサマを禁止しております。ですが、勝負の間にお止め出来なかったのは、こちらの不手際。なので、チップはお客様の物。ただし、当店への出入りは禁止とさせていただきます」

「なっ! そんな馬鹿な」

「そんな!」

「いいえ。これ以上抵抗するようならこちらも容赦しませんが?」

「……はあ、仕方ねぇか」

「はい。他の場所を探しましょう」

 ここはカジノワールド。見渡す限りカジノが広がっているのだ。

 別の場所で稼げはイイ。

 そう思ったのだが……

「イカサマをするお客様は入店できません」

「イカサマは禁止されております」

「人間はよそのカジノへ行きな」

 と、すでにフォー達の顔は知れ渡っているようでなかなか入店できない。

「はあー。コインのやつ、分かってやったな」

「一本取られましたわね」

 違う店舗でも、大本は同じ。イカサマで出禁になった客を入れるカジノなど、どこにもなかった。

「どうするかー」

「どうしましょー」

とぼとぼ、ぽとぽと、たんたん、だんだん。歩いていると、不思議なものを見つけた。

 隙間にある看板。

「大金持ちになるならここ?」

「ハイリスクハイリターンの大勝負?」

 それはただの路地裏と表現できる空間である。建物と建物の間に出来た隙間。そこにある不釣り合いな看板。

この星はカジノで出来ており、ホテルもレストランもあり、他の星と変わらないように見える。フォーもこの隙間と看板を見るまでは疑問にすら思っていなかった。

「この星、綺麗すぎるな」

 そう。まるでパズルをはめ込んだようなキッチリとした建物。ある程度の間はあれど、動物の通れる大きさではない。奥を見ることも出来ない。よく言って、絵画のような街。悪く言って、人工的に作られた街。

「……」

 そんな街の隙間を見つけてしまったフォー。

さてどうするか。

 いや、問うまでもないだろう。

 その隙間には一種の魔力がある。友達の家に行くと必ず締まっているドアがある。たまたま空いてる時が合ったら覗かないだろうか。いつもシャッターが閉まっている店が開いていたらつい足を向けないだろうか。

 特にフォーは面白そうであれば、すぐにつられるタイプだ。

「シャロム。行くか」

「ハイリスクハイリターン。望むところですわ!」

 二人は当然のようにその隙間の奥へと進んでいった。

 くねくねと迷路のような細道を進んでいくと、いつの間にか辺りが暗くなっている。高い建物の間なのか、ゆっくりと地下へ進んでいたのか、パイプなどがむき出しになった薄暗い道を進む。

「なんか裏側って感じだな」

 そう呟いた時、それは目に入った。ボロボロの布で覆い隠された扉。一目見ただけではそれが扉として機能しているとは露にも思わない。

だが、その扉の前に老人がいた。

「ほう、自力でここまで来るとは」

 髭をさすりながら、老人はフォーとシャロムを舐めるように見回す。

「な、何なんですの」

「ほうほう。よいよい。お主たちなら合格じゃ。ほれ、入られい」

「は? おいおい、なんなんだよ」

 何が何だか分からいままフォーとシャロムは、扉の中へと押されてしまった。

 扉の先は階段である。地下へ下るような階段をくねくねと移動する。

「なあ、ここどこなんだ」

 老人に聞いても、黄色い歯が薄気味悪く見えるだけである。諦めて、素直に歩いて行く。

 そして、扉があった。鉄パイプのような取っ手の不格好な扉である。

「やっと、到着か」

 錆の匂い漂う扉を開くとそこには、街が広がっていた。しかし、お世辞にも誇れるような街には見えない。

金属をつけ合したような建物は、カジノの美しい建物とは正反対である。凸凹で、平坦な道や壁すらない。地下であるため空は拝めず、天井すら今にも落ちてきそうだ。

まるで余りもので作られた街。

「ここは、ウラカジノ。はみ出し者どもの巣窟じゃ」

「ウラカジノ?」

「お主たち、表のカジノを追い出されとるんじゃろ。だったら、ここで稼ぐといい」

「なんで俺たちがカジノ出禁になったの知ってんだ?」

「ふぉっふぉっふぉ。表のことは大抵伝わっておるわい。それがワシらの商売じゃからの」

 思わず寒気のするような笑顔で、老人はある建物を指す。

「あそこに行くと言い。命があれば誰でも稼げる。命を懸ければもっと稼げる」

老人はそう言うと、階段を上り元の場所へと帰っていった。

「命を懸ければ稼げるか」

 フォーは僅かに顔をしかめる。だがそれも一瞬で、くしゃみをする前の歪んだ顔のように思えた。

 ともかく、右も左も分からない身としては、老人の言った建物に向かうしかあるまい。

 そこは闘技場であった。

 フォーは受付ロボットに適当な説明を受ける。

「俺一人じゃダメなのか?」

「現在エントリー可能な試合はダブルスのみです」

「……だって。シャロムどうする?」

「やりますわ」

「大丈夫か? 俺が守るけど、怖くないのか」

「ワタクシはシーワン星の王女ですわ。戦うべき時に戦わなければなりません」

 真っ直ぐな視線を受け止め、フォーはダブルスの試合にエントリーをする。

勿論、残ったチップは自分達に全賭けした。

 老人の言っていた稼げる方法とは、自分で自分を買うのである。闘技場に選手として出場し、自分に賭ける。

ちなみに十回出場すると、チップ一枚貰える。しかし、大抵は一回ももたずに辞めていくと言いう。

 ある程度チップを持っている奴は、単純に勝ち負けに賭ければいい。無ければ、自分が出場し、自分に賭ける。勝てば官軍負ければ賊軍と言う訳だ。

「フォー様にシーワン星に伝わる奥義をお教えしますわ」

 控室と言う名の牢獄の中で、シャロムは不思議な動きをする。その動きは円のように空気の流れを動かす。

「ほう」

 フォーの目の色が変わり、同じような動きを繰り返す。

「いいですわね。本来は門外不出の奥義ですが、勇者のフォー様になら許してくれると思いますわ」

 二人で謎の奥義の練習をしていると、アナウンスが聞こえてくる。

 鉄格子の前に銃を持ったゴツイ男がやってきた。

「おい、出番だ。出ろ」

 ガンガンと鉄格子を叩いて急かし、フォーとシャロムが出た途端、背中を銃で押される。

「ほら、さっさと行け」

 リングまでは一直線の廊下で、同じようなドアがいくつかある。視線を動かせば、顔はこけているが殺気を孕んだ瞳で遠くを見ている。

「はあ」

 正直言って、フォーは戦いは好きじゃない。殺し合いともなると、逃げれるなら絶対に逃げる。だが今は、シャロムがいる。不安そうな顔はしてはいけない。

それに、相手を倒せばいいだけだ。殺す必要はない。

 そんな期待を裏切るように、目が飛んだ男が一人待っていた。

 ダブルスなのに、相手は一人なのかと問う前に、男が殴りかかってきた。

「よっと」

 シャロムを抱えるように避けておいて、会話を試みる。

「すこし、話をしないか―――って聞く気なしか」

 なりふり構わず拳を振り回す男。その拳には殺気はこもっているが、当たらない。どれもシャロムを抱えて紙一重でかわしていく。

 まるでダンスを踊っているようにかわしながら、会話を試みる。

「だから、俺の話を聞けって」

 男の大振りを交わし、背後から肩に手を置く。その瞬間、男はポケットから銃を取り出した。

「おいおい、飛び道具は反則だろ」

 おそらく、男が一人なのはそうゆう理由だろう。

 だが、それにしても不公平だ。

 二対一だろうと、銃を持っている方が強いに決まっている。

 現に銃を見たシャロムの顔は強張り、不安げにフォーを見やった。

 刹那、背筋を通る寒気。

 全身の毛が粟立ち、細胞と言う細胞が危険信号を発して震える。

 それは男の拳銃がシャロムを捉え、弾丸が発射されたからではない。

 シャロムの視線は迫りくる弾丸を見てはいなかった。

「……フォー様?」

 まるで能面だった。

 瞳から色が消え、表情という表情は消え失せている。

 普段あれだけふざけて、感情豊かなフォーとは正反対。

 ロボットのように冷たく、触れるものを容赦なく傷つける刃のようであった。

 風に揺られるように動いたフォーは弾丸を片手で受け止め、男へと近づく。

反動で上がった銃口を下から突き上げる。

 宙に舞う拳銃。ぶっ飛んだ男が理解できずに拳銃を見上げる。見上げたまま白目をむいた。フォーが腹に一撃を叩きこんだのだ。

 拳銃が地面に落ちるとともに、ぶっ飛んだ男は意識がぶっ飛び、フォーの顔に表情が戻った。

 観客が湧く。怒声ともいえる歓声に、フォーは笑顔で手を振ってリングを後する。呆けたままのシャロムの手を引きながら。


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