第3話



 「氷おにぎり」


 「うるさいなぁ」



 今持ってくるから待っててよ。


 ったく、たまには自分で取りに行ったらいいのに。


 階段を降りればすぐじゃん。


 しかも、ただの氷じゃなくて「氷おにぎり」ときた。


 彼女のために何個もストックしているが、今日はもうこれで7個目だ。


 すぐにできるもんじゃないんだから、少しは控えめにしてほしい。


 そもそも部屋には、彼女が食べる物が山ほどある。


 クーラールームは、僕からすればただの業務用の“冷凍室”だった。


 氷はもちろん、彼女の好きなアイスクリームやシャーベットが、棚の上から下までズラッと並んでいた。


 キッチンの冷凍庫に入りきらない物は、ひとまず彼女の部屋に置かせてもらうのが日課だった。


 お腹が空いたんなら、適当に何か食べればいいじゃん。


 そう言うと、彼女はムッと顔を膨らます。


 いつものことだ。


 それを知っているから、黙って取りにいくことにした。

 


 彼女の名前は、“たま”という。


 氷咲たま。


 僕と同い年で、青い髪と青い瞳を持つ。


 自他共に認めるサバサバ系女子。


 極度のめんどくさがり屋で、一日中ゲームをしてるエリート級の引きこもり。


 部屋の中でひんやりクッションを椅子がわりにし、どでかいイヤホンを耳に取りつけながら快適なスローライフを満喫してる。


 スローライフ…ではないか。


 自由気ままな生活を送ってるって言っておこうかな?


 国際的に危険視されている妖魔にしては、かなり平和な日常を送っているのではないだろうか?


 あれもこれも、“博士”のおかげなんだけれども。

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