僕の失敗劇(2)
街の中でもカッコウの見世物小屋から真反対にあるウサギの質屋。雨の中を走り抜けた僕は、暫くしてその建物に辿り着いた。
何とも言えない店だった。濡れそぼった建物は僕と同じ。距離は思ったより遠くないし、でも近いとも言えない。不思議に思いながらその建物に入って行った。足を突っ込むと乱雑と物の置かれた店内が目に入る。
カッコウの店と違って明るい。振り返って、さめざめとした外の世界を見るとそこには看板があった。
『忘れもの屋』
今度こそ読める。わすれものを扱っている店なんだろう。そう賢い人になった気分で考えてから、今一度店内を見回した。
大きなオルゴール、ゴミのような銀紙、割れた鏡、誰かの噛んだガム、色々な物を置いているらしい。僕がじっとそれを見ていると、後ろから声を掛けられる。
「……客か」
「わっ!」
そこに居たのはエプロンを付けた男。どれくらいの年齢か──とかは僕には分からなかったけど、同級生のお父さんたちより老けて見える。彼は静かな声で「邪魔なのだが」と言うと僕の横をすり抜けて店の中に入った。どこから現れたんだろうか。足音なんてしなかったけど……そう目を輝かせていると、彼は目の前の大きなオルゴールを弄り始めた。
「あの、それは?」
「ただのオルゴールだ」
「どこから現れたんですか?」
「どこからでも。部品が飛んで行ったから取りに行っただけだ」
そう言った彼の手には、なるほど小さな歯車があった。けれどそれをオルゴールに組み立てる訳じゃなく、彼は忘れもの屋の雑多な店内に置いた。
それに首を傾げつつ、店内を見回す。やっぱり不思議なもので溢れている店内。忘れものって言っていたけど、全部誰かがこの店に置いていったのかな。そう考えてから、本題を思い出す。
「あの、カッコウさんからここに来れば死ねると聞いたんですが……」
僕はうずうずした状態でそう言った。ちょっと声が上ずっていたかもしれない。緊張に包まれた瞬間、ギロリと睨まれた気がした。気がしただけで、目の前の男は何も変わらなかった。彼は、ただため息を吐いて、こんこんと説教を始めた。
「カッコウに死にたいとでも言ったのか?」
「……」
それが悪いことだと分かっている僕は、下を向いた。それを頷きと取ったのか、ウサギは腕を組んで言う。
「カッコウが一番恐れていることをお前はしに行ったのだろう、私はそれが腹立たしいのだ。むやみにアイツに死を向けるな。もう近づいてやるな」
そう言われて、酷くショックを受けた気になった。僕が起こしたことは思ったよりも大きかったのかもしれない。僕は、拙い言葉でどうにか謝れないか聞いた。
「……それはアイツを思ってのことか。それとも自己保身からか」
「ちがっ、わか、分からないです……」
泣きそうになって言うと、ウサギは眉を下げた。それは可哀想だと思っているというよりも、困った子供を見るような目だった。まさにその通りだったけど、僕はその目が何とも嫌で背を向けた。
「逃げ出すのか」
その一言が耳にこびりついて消えない。ただ、ウサギの言葉が頭の中でこだまするたびに、また忘れもの屋に行かなくちゃという気持ちが膨れ上がった。
(続)
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