Another Story *番外編*

番外編 この想いは封じて【楓side】

僕が一人で歩いてきた道は、真っ暗で、すごく寒い場所だった。

絶対に開けることのできない窓から温かくまぶしい光をくれたのは。


まぎれもなく、彼女だった。


なぜか目が離せなくて、今日もそっと目で追う。


――接するうちにたまっていく名を知らない想いに鍵をかけて。


 ・・━━・・━━・・━━・・━━・・━━・・━━・・


 ある日の放課後。


「朝比奈さん」

「……こっちかな…………でも」


 横に立って、彼女に声をかけるけど仕事に夢中になりすぎていて全く届いていないらしい。

 少し声を大きくしてもう一度彼女の名前を呼ぶと、ようやくこっちを見てくれた。


「朝比奈さん」

「……よしっ……! あっ、葉桐さん!」

「そろそろお茶でもどうですか?」

「はいっ! 喜んで……!」


 ぱあっと顔を輝かせた朝比奈さんに、僕は用意していたお菓子の詰め合わせとお茶を出した。

 これ、朔人からオススメされて買ってみたんですが……。


 いまいちおいしいお菓子について知らない僕は、反応をうかがうためそっと朝比奈さんを見た。


「……! おいしい……!」

「そうですか、喜んでもらえてよかったです。今日は僕以外に誰もいないので、ゆっくり楽しんでください」

「はい……! 嬉しいです、とても!」


 おいしそうな顔でほおばる彼女を見ていたら、いつの間にか目が離せなくて。

 朝比奈さんから声をかけられるまで、意識がすべて彼女に向いていた。


「は、葉桐さんっ?」

「ああ、すみません。……おいしそうに食べているな、と思ったらつい」

「は、恥ずかしいです……」


 真っ赤になる朝比奈さんを見ているとドクンっと異常なほど大きく胸が鳴った。

 とたん、名の知らない熱い気持ちが沸き上がってきて、それに押し出されるように口を開いた。


「……朝比奈さん」


 この気持ちは……?

 焦がれるような熱さに、心臓をつかまれるような強い衝撃。

 そう、もしこれに名前を付けるとしたら、きっと――。


 ガチャンッ。


「ただいま~、っと。って楓⁉ 朝比奈さんと何やってっ?」


 僕が次の言葉を言う前に、タイミングがいいのか悪いのか、生徒会室のドアが開いた。

 二人きりの空気を割って入ってきたのは晴真。


 焦りを含んだような声に、僕はスッと席を立って、朝比奈さんの隣から外れる。


「朝比奈さん、あとは晴真とお茶でもしててください」

「あっ、は、ハイ……?」

「え、今日朔人は?」

「いないです。蒼良は会議に」


 それを聞いた晴真が「よし」とつぶやきそのままさっきまで僕がいた位置に座った。


 ……晴真はまだ諦められないといってましたが……厄介ですね、恋心は。


 それが、どんなに願っても結ばれないとわかっていたら。


 僕は決して……朝比奈さんの事を好きになっちゃいけない。

 蒼良の隣にいるものとして、そして晴真の友達としているために。


 よし、二人がお茶をしている間に片付けないと。まだやらないといけない生徒会の仕事はたくさんある。


 数多くの仕事を前にし、頭を仕事モードに切り替えて作業を開始した。


 ――ひっそりと動く恋に、目を背けながら。

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