番外編 恋敵上等【晴真side】
彼女が困ったとき、いちばんに頼るのは蒼良だった。
彼女が嬉しいとき、隣で笑うのは蒼良だった。
彼女が泣いたとき、涙をすくうのは蒼良だった。
彼女が好きになったのは――。
こっちを見てよって、言いたくなった。
もっと頼ってってて、言いたくなった。
――好きだよって、叫びたかった。
・・━━・・━━・・━━・・━━・・━━・・━━・・
時刻は17時。
生徒会の仕事もちょうどさっき一段落して……。
最近忙しかったから……今日はゆっくりできて助かる……。
チラリ、と朝比奈さんの方を見ると、生徒会室に配置された小さな台所でお茶を沸かしていた。
しばらくじっと見ていると、彼女はスマホを取り出して、何やら熱心に画面を見ている。
「あっ、蒼良さんから……! 皆さん、今日は仕事がはやく終わるのですぐ帰れるそうです……!」
画面を見て、ぱあっとっ効果音のつきそうなくらい顔を輝かせた朝比奈さん。
それだけで、たったそれだけの変化で、どれだけ蒼良のことを想っているか安易に分かってしまった。
しかも、いつの間にか蒼良さん呼びになってるし……。
「お茶淹れました! 今日はアッサムティーです!」
「ありがとう、……うん、美味い」
「そうですか? ありがとうございます!」
心配そうに見てきたと思ったら、急に笑顔になって笑ってる朝比奈さん。
ヤバ……かわい……。
って何考えてんだおれ。
ここまで来るとさすがに異常……?
ちょっと変わりつつある自分に驚きながら、紅茶をすすり、目の前に置かれたチーズタルトを食べていく。
「こっちもうま……」
「そ、そうですか? 嬉しいです……!」
どこで買ってきたやつだろ……。
おれも実は甘党だ。
それを言うと驚かれることもあるけど、甘党っていうほどだからかなり甘いものが好き。
絶対リピートしたい……。
パクパクと食べ進めながら、目の前にいる朝比奈さんを見る。
「朝比奈さん、これどこで?」
おれが何気なくそう聞くと、彼女は「あの」と言って申し訳なさそうに小さな声でつぶやいた。
「それ、実はわたしが作ってきたんです……!」
恥ずかしそうに下を向いてそう言った朝比奈さん。
ん?
待て待て待て、これって、朝比奈さんの手作り……⁉
それ、早く言ってよ……。
半分食べ終わったタルトを見て、少し肩を落とす。
もっと大事に食べればよかった……。
「すみません」となぜか謝ってる朝比奈さんに対して、おれは「いや、おいしすぎるからつい」と声をかける。
「え~なに、これ乃彩ちゃんの手作りなの?」
おれたちの会話を聞きつけた朔人が、席を立ってこっちにやってくる。
「あ、はいっ、いつも朔人さんがお菓子を差し入れしていたので、今日はわたしが……」
「じゃあ一つ食べよっかな」
朔人、今日は休む暇ないなとか言ってたくせに、食べる暇はあるのか……っ?
じとーとした目で朔人を見ると、おれの視線に気がついた朔人が食べる手を止めてこっちを振り返った。
「朔人、仕事は?」
「あ、もう終わったよ。意外とさっさと処理できちゃった……これ美味いね」
タルトをかじりながらそう言った朔人。
げ……どんだけ仕事速いんだよ……。
今日は楓と蒼良が会議行ってるから、せっかく朝比奈さんと二人っきりのチャンスだったのに……。
少しだけ不満に思いながらも、朝比奈さんがもう一つタルトを出してくれたから、それを食べて何とか気を紛らわす。
「あのさ……また、作ってくれない?」
「あっ、うん! 喜んでっ」
ちょっと図々しいかと思ったけど、彼女はにこにこの笑顔で笑ってくれた。
こういう優しいところとか、本当に好き……。
と、朝比奈さんのスマホからピコンッと音がした。
「えっと……あっ」
画面を見て、すぐさま顔を明るくさせた朝比奈さん。
蒼良か……。
「もう会議が終わったから今日はすぐ帰れるそうです!」
「りょーかい」
「うん、おっけー」
まだまだ敵わないけど、絶対に、いつか。
正攻法でその場所、奪うから。
待っててね、蒼良。
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