第31話 告げた言葉とつながる想い
「……好きです……っ」
口から流れ出るようにして出た声は、思いのほか震えていて。
頼りないくらい小さな声で、情けなくなってくる。
目を開いたときに見たのは、すっごく驚いた顔をした神楽さん。
こんなこと言われるなんて、みたいな。
それを見て、あ、と気づく。
――わたし、やっぱり身の程を知らなすぎたんだ。
こんなかっこいい神楽さんと、わたしなんて釣り合うはずがない。
そんなこと、知ってたのに……。
「それ……ホントか……?」
神楽さんに尋ねられて、わたしは目をつぶってうなずく。
もう、泣きそう。
じわっと視界がにじんで、握りしめる拳がわずかに震える。
外は花火が上がっていて、それにこたえるような歓声が響いている。
静かにわたしたちを照らす光が、ただただ眩しかった。
「あっ、あの、返事は今、いらないですっ、そのっ、えっと、わたし変なこと言って、ごめ――」
「……俺も」
「わたしが伝えたかっただけなのでっ、何も言わなくて――」
「好きだ」
「ええと、は、花火続き、見、ま――………………っ!!!???」
わたし、なんにも、何にも聞こえてなかったけど。
もしかして、今。
もしかして。
今。
――返事、してくれた?
「神楽さ――」
「—―朝比奈」
「はっはいっ」
ほぼすべての意味を理解し、真っ赤になりながらわたしは目の前に立つ彼を見つめる。
「好きだ」
直球の告白に、声の甘さにぼうっとしながら、わたしは顔を手のひらで覆う。
神楽さんが、好き……?
わたしのこと……?
嬉しい、嬉しい、嬉しい。
でも、幸せすぎて……。
「信じ、られない……です……」
わたしがそうつぶやくと、神楽さんがわたしに近づいて、耳元でそっとつぶやかれる。
「……すぐに信じさせてやる。乃彩」
名前を呼ばれてそっちを見たら、すぐそこに神楽さんのきれいな整った顔があって。
大きな花火が、重なるわたしたちを照らした。
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翌日の朝、いつものように後ろの人の席を借りた玲音ちゃんと話していた。
「なぁるほどぉ……。ま、予想通りだけど……ね。何か私もうれしい!」
「あはは……。で、でもわたし大丈夫かなぁ……ファンクラブの人たちに何かされるんじゃあ……」
「そこは心配いらないと思うけど……神楽様が何とかしてくれると思うし」
呆れたようにわたしの方を見てくる玲音ちゃんに、わたしははてなマークを浮かべる。
心配はいらないって……いや、不安しかないんだけど……?
それにしても昨日、本当にいろいろ大変でドタバタだった……。
告白がうまくいったのは今でも信じられないし……。
あ、あのときわたしたちキッ、キ……した……⁉
思い出したら恥ずかしさがこみあげてきて、ボンッと顔が真っ赤になる。
うううっ、だめ!
思い出すとさらに恥ずかしくなるからっ……!
「っと、本人が来たみたいだね。乃彩ちゃんと神楽様がカレカノかぁ……。羨まし~なぁ!」
「か、カレカノっ⁉」
そ、そうだよね。
これからは神楽さんの彼女ってことで……いいんだよね?
「……はよ」
「お、おはようございますっ」
昨日のことを思い出したり、一気に緊張したせいでロボットのような動きになりながらも神楽さんの方を向く。
「そ、そういえばさっき晴真くんが生徒会の時のことについて連絡をしてくれて……」
「……」
「神楽さんにも伝えてほしいということだったのですが」
「……」
「い、今伝えても、いいですか……?」
途中から、神楽さんの放つオーラが変わった気がしてわたしはそおっと神楽さんの方を見る。
「乃彩」
「は、ハイっ」
「……なんで呼ぶとき晴真のことは名前なんだ?」
「へっ……」
怒られるか、何かもっと別のことを言われるかで覚悟していたから、拍子抜けして変な声が出てしまった。
名前なんだって……。
そう呼んでって言われた、から……。
なんで今、それを……?
そこまで考えて、ふっとある仮説が思い浮かぶ。
「も、もしかして……」
「……」
「名前で呼んで欲しい……ですか……??」
「……」
プイっと窓際を向いて、頬杖をついている神楽さん。
耳が――少し赤い。
か、可愛い……。
なんて不謹慎だよね……っ。
こうして神楽さんの気持ちを知っていくことで、彼の知らない一面が見えて――好きになっていく。
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放課後。
いつも、一人で向かうけど。
ちょっと勇気を出してみよう……っ。
心の中で何回か練習して、いざっ。
「そっ、蒼良さん、きょ、今日は一緒に行きませんかっ……?」
帰り学活が終わった直後にそう言って彼を見ると、顔を手で覆って小さくうなずいてくれた。
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