第30話 溢れた想い


「こんな時までお人好しなの? ほんと、呆れるほどね」

「あとは私たちがやるから、しっかり約束守ってきなよ」


 咲ちゃん、美桜ちゃん……!

 なんで、ここに……?

 しかも約束って……なんで二人がそのことを……? 


 わたしがぼーっとしていると、咲ちゃんが近づいてきてこそっと耳元でつぶやかれる。


「ここはあたしたちでやるから、しっかり告白してきてよね、乃彩」

「……! だからなんで知って?」

「ふふふ、ひ~みつ。ほら、さっさと行ってきなさい」

「……ありが、とう。咲ちゃん……!」

「どーいたしまして」


 ちょっと照れたようにそう言った彼女に、わたしは全力で頭を下げる。

「ま、もともと保健委員だったし」とつぶやく彼女に、じゃあ、と言って立ち上がる。


 わたしの用事を優先しちゃうのも何だか罪悪感がある。

 この二人も、花火見たかっただろうし……。


「あ、あたしたちのこと考えてる? あたしたちはいいから」

「え、でも」

「来たくて来てるの。こうして助けに来たのも、たまたま通りすがったとかじゃなくて、あんたを応援したかったからだし。ね?」

「どうしても嫌だっていうなら無理やり連れてくけど」


 そう言っている美桜ちゃんの目かなり本気で、あわてて身を引いた。


「告白の結果しっかり報告してよね」


 ぼそりと付け足された美緒ちゃんの声にも、どこか応援されている気がして。


 そこまで言ってくれるなら……。


「……うん、行ってくる!」


 支えてくれる仲間がいて、こうして応援してくれる仲間がいる。


 なら、怖いものなんて何もない。


 駆け出す。約束の場所に向かって。


 ・・━━・・━━・・━━・・━━・・━━・・━━・・


 急がないと……っ。


 せっかく髪もおしゃれにしてみたけど、走っているせいでもうぼろぼろ。

 でも、直して花火に間に合わなかったらいやだし……!


 もういいやっ。

 とにかく今は、生徒会室までっ……。


 廊下にある時計を見ると、時計の針はもう7時くらいを指していて。

 泣きそうになりながら、わたしは生徒会室のドアを思いっきり開ける。


「……神楽さんっ」

「! ……もう、うちあがると思うんだが……」


 神楽さんはもう窓際にいて、わたしは迷わず駆け寄る。

 校庭から、カウントダウンの声が聞こえてきた。


「……そういえば友達と見なくてよかったのか」

「……」

「? どうした?」


 心臓が今にも飛び出していきそうなほど高鳴っていて、手が震えた。

 ぎゅっと、おろした手を握って神楽さんを見上げる。


 何にも、言葉が思い浮かばなかった。

 でも、突き上げる想いが言葉となって、考えるよりも先に言葉が紡がれる。


「……好きです……っ」


 周りの喧騒がふっと途絶えて、一瞬時が止まったような錯覚を覚える。


 わたしの呟きが、夜空に吸い込まれて。

 告白をたたえるかのように、窓の向こうでドーン、と大輪の花が咲く。


 明るく照らされた彼の横顔は、今までにないほど驚きで満ちていた。

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