第29話 現れた二人組
「そろそろかなぁ?」
「ね~、今年も花火すごいらしいよ」
「1組の田中君に告白するんでしょ、頑張れ!」
「ええっ、ふ、フラれたらどうしようっ!」
「大丈夫だってば!」
日が沈み、あたりも暗闇に包まれた18時、45分。
やっぱり周りも最後のイベントということで盛り上がっているらしく、先ほどから生徒たちの話し声で校庭のボルテージが上がってきた。
花火が打ちあがる19時まではまだ時間があるけど、そ、それまでに告白……っ。
結局、あの後神楽さんから「わかった」って言ってもらえたから、あとはわたしの告白しだい。
人混みが苦手そうだし、何よりわたしも人気のないところで……って思っているから、生徒会室に集まるって話になった。
「乃彩ちゃん、準備どう?」
「こ、心の準備が……」
「だいじょーぶだって言ってるでしょ? ていうか乃彩ちゃんかわいいんだし、自信持ってよね」
「か、可愛い……⁉ 冗談もその辺に……!」
「……無自覚だ……」
ボソッと何かつぶやいた玲音ちゃんに、わたしは「なに?」と聞き返すけど教えてくれない。
自信もってって言われても……。
って、いけない。
今日はしっかり伝えるんだって決めたんだ……!
『後夜祭、花火打ち上げのお知らせをいたします――。打ち上げ開始15分前となりました。生徒の皆さんは移動してください――』
「ほいっ、じゃあ乃彩ちゃんガンバ~っ!」
「れ、玲音ちゃん! わっ、わたし頑張ってくるねっ」
「うんうん、応援してるよっ」
ぎゅっと手を握って、深呼吸する。
ただ、わたしの気持ちが伝えられればいい。
大丈夫、大丈夫。
トンッと背中を押されて、わたしは走り出す。
彼と約束した、生徒会室まで。
・・━━・・━━・・━━・・━━・・━━・・━━・・
階段を駆け上がって、もうすっかり行きなれた生徒会室まで走る。
緊張とドキドキが合わさって、すぐに息が切れちゃった。
来てくれるかな。
しっかり生徒会室に来てくれる?
なんかビミョーな雰囲気になったらどうしよう?
……いろいろ思うことはあるけど……だめ。
強くなれ、乃彩!
生徒会室までの廊下を、小走りで駆ける。
と、その時。
ドンッ。
「キャアっ⁉」
「わっ」
右の方から飛び出してきた他校の女子生徒とぶつかり、わたしはすぐに立ち上がって手を差し出した。
「だ、大丈夫……ですか……?」
「いっ、いった~いっ! 血、出てる~~っ! キャーいたいいっ」
「……⁉ そ、そんなに痛みますかっ⁉ ええと、とりあえず保健室までいきましょうか?」
「早く連れてって! あたし、この後大事な用事があるのおっ、ああ、痛い痛いっ」
「じゃ、じゃあ早めに行きますね」
肩を貸し、わたしは保健室までのルートを頭の中に入れて歩き出す。
歩くときもずっと痛いって言ってて、本当に申し訳なくなる。
きっと当たった場所が悪かったのか……それとも相当痛かったのかな……。
ごめんなさいっ。
「着きました……! あ、そこに座っていてください……!」
「ありがとう、ああ~血が出てる~っ、早く拭いて~っ」
保健室の先生は今いないから、わたしがやらないと……。
ええと、まずは血を拭いて、そこから傷口消毒して、絆創膏?
「消毒しま――」
「ぎゃあああああっ、いたいいいいっ」
「……あの、まだ当ててもないで――」
「痛いいいいっっっ」
あわわっ、かなり痛みに弱い人……⁉
確かに消毒は痛いけど……ちょっとだし……しかもっ。
わたし、時間に遅れちゃう……!
さっき、5分前のアナウンスが流れた。
ってことは、もう5分以内……!
どうしよう、どうしようっ。
焦る生で、よけいにどうしたらいいのか分からなくなって、プチパニックだ。
この女の子もすごい悲鳴上げてるし……。
ガララっ。
保健室のドアが開く音がして、わたしと彼女が一斉にそっちを向く。
それと同時に、ある人の声がわたしの耳に届く。
「こんな時までお人好しなの? ほんと、呆れるほどね」
「あとは私たちがやるから、しっかり約束守ってきなよ」
咲ちゃん、美桜ちゃん……!
現れたふたりに、わたしは目を見張った。
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