第28話 約束を胸に

 神楽祭、2日目。


 今日は吹奏楽部とか、合唱部の発表がある。

 あと、午前中は今日も屋台を出店する予定。

 そして、今日の夜、7時には……。


 なんと、後夜祭で花火が打ち上がるの!

 それが、けっこう隠れビックイベントとか言われるらしいんだよね。


 そ、それで……。

 じ、実はそこで……神楽さんに……こっ、告白しようと……っ。

 でも、誘えないし……絶対断られるし……。


 で、でもやっぱり私の想いは知ってほしい……!


「朝比奈さん、何か……困ったことありましたか?」

「あっ、ごめんなさい、何でもないです!」

「僕、ここやっておきますので、少し休んでは?悩み事なら聞きますよ? 言いづらいかもしれませんが……」


 ウウッ、葉桐さん、優しい……!

 でも、まさか「告白しようと思ってて」なんて言われるとは思ってないだろうし、そんなの言えるわけない……!


「だ、大丈夫です……! ごめんなさい、仕事集中します!」


 今やらないといけないのは、神楽祭の閉祭セレモニーの進行計画の直しなんだけど……。


 集中してないせいで、本当に終わらない!


 朔人さんの「乃彩ちゃん終わった~?」という声に、わたしはびくりと肩を揺らしてせっせと仕事を開始したのだった。


 ・・━━・・━━・・━━・・━━・・━━・・━━・・


「朝比奈さんどうした? 分からないところある?」

「乃彩ちゃん、やっぱりぼーっとしてるよね。なんか考え事でもしてるの?」

「いえっ、なんでもっ! ご心配なくっ」

「「……怪しい」」


 やっと仕事が終わりに近づき、終盤になったころ。

 少し休憩しようか、ってなってぼーっとしてたら晴真くんと朔人さんに心配されちゃった。


 いけないよね……迷惑かけちゃってるよ……。


 で、でも……告白なんて初めてでっ。


 きっとこの二人は恋多き人たち。

 でも、さすがにアドバイスはもらえない~っ恥ずかしすぎる!


 ひとりで赤くなって青くなってを繰り返しているうちに、自分でももう頭がパンクしそうっ……!

 ちらっと神楽さんの方を見てみれば、本人はすました顔で作業を淡々と進めている。


「ま、乃彩ちゃんとりあえずなんか食べる? せっかくの文化祭、生徒会仕事でつぶれるのもねぇ……」

「これ、さっき2年生の先輩が差し入れですって持ってきたんだよね。みんなで食べちゃう?」


 そう言われて差し出されたのはケチャップとマスタードがかかったフランクフルト。

 これぞ文化祭の定番だよね。


 それをもぐもぐと食べているうちも、神楽さんのことが頭から離れなかった。


 ・・━━・・━━・・━━・・━━・・━━・・━━・・


「よし、終わり! じゃああとは後夜祭までゆっくりね~」

「おっけ~」


 ぞろぞろとみんなが部屋から出ていって、残ったのはわたしと神楽さん。

 シーン、と生徒会室が静まりかえる。


「行くぞ」

「……」

「……? はやく行かな――」

「神楽さん」


 わたしはドアの前で止まった背中に向かってつぶやく。


「……と一緒に………て……えませんか」

「?」


 恥ずかしさに下を向いて、ギュッと握りしめた拳が震える。

 神楽さんに言わないと。

 後悔、する……。


「わたしとっ、一緒に花火を、見てもらえませんか……っ」


 顔を上げて見たのは、神楽さんの驚いた表情だった。

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