Chapter6 交差する想い

第26話 はじまりました、文化祭!

 夏休みも終わり、ついに季節も秋へバトンタッチ。

 そして、今日から始まる2日間の、神楽祭が開幕する。


 ――それぞれの想いが交差し、恋を知りながら。


 ・・━━・・━━・・━━・・━━・・━━・・━━・・


「いちごあめ1つ! あとリンゴ1つ!」

「は~い!」

「300円になります~」


 すっかり文化祭一色に染まる中、わたしは今外のブースで売店をやっていた。

 1クラス1売店っていうのが決まっているんだけど、わたしたちのクラスではフルーツアメの売店をやることになったの!


 クラスの子がはっぴをデザインしてくれて、すごくかわいいはっぴが完成!

 当番の時間、あと10分かぁ……。


 わたしは生徒会の方の企画もやらないといけないからかなりハードスケジュール!

 だけど、やっぱりお祭りってすごく楽しい!

 すると、突然キャーという黄色い悲鳴。


 ……生徒会メンバーかな……?


 となりにいた玲音ちゃんと目を合わせると、「絶対そう!」と興奮気味にうなずいた。


「やっほ~、お、乃彩ちゃんと玲音ちゃんだ~」

「さ、朔人様……!」

「朔人さん来たんですね……!」


 衣装を着て売店の中に入ってきた朔人さん。


「玲音ちゃん、おすすめは?」

「あ、えっ、っそそうですね……あっ、やっぱりりんご飴、とか……?」

「じゃあそれ1つ~」

「はっ、はい!」


 さり気なく朔人さんの誘惑に捕まった玲音ちゃん。

 朔人さん……やっぱりチャラいっ……。


「疲れた~」

「あ、そうですよね……! お疲れ様です!」


 きっと生徒会のお仕事とか、やってきてたんだろうなぁ……。

 と、言うと……。


「あの、他の皆さんは……?」

「あー、蒼良は来ると思うよ。そもそもここの売店やる係でしょ」

「そ、そうでしたね。葉桐さんと晴真くんは……」

「クラスの方やってると思うよ、行ってきなって言いたいところだけど、やばかったよ」


 ヤバかった⁉

 そ、それっていったいどういう……?

 不安そうな顔で聞くと、朔人さんは笑いながら教えてくれる。


「だから、人気がありすぎってこと。込んでたな~」

「あ、なるほど……」


 二人のことだから……うん、なるほど。理解。


「さ、朔人様……! ええと、お代は120円です」

「ありがと~。じゃ、乃彩ちゃんと玲音ちゃん、頑張ってね~!」

「「ハイっ……!」」


 二人そろって頭を下げ、朔人さんを見送る。

 と、そこでちょうど10分の休憩が入り、売店の人の休憩時間が設けられた。


「ヤバかったあ……かっこいいよお……」

「よかったね……まさか来てくれるとは思ってなかったからね。……神楽さんも、来てくれるかなぁ……」

「神楽さん?」


 あ。

 ヤバイ、声に出てた!?

 や、やばいっ、玲音ちゃんにはその、言ってないし……っ。


「い、今のは別に……そう、生徒会のことで話したいことがあって!」

「……ふ~ん?」

「だ、だから別にそんなんじゃないっていうか……っ」

「そんなんって?」

「う、ち、ちがっ。そういうのじゃなくてっ」

「……乃彩ちゃん」

「な、何でしょう……」


 周りに誰もいないことを確認し、玲音ちゃんがわたしの目をじっと見つめてくる。


「神楽様のこと、どう思ってるの?」

「!?」


 れれれ、玲音ちゃんっ⁉

 ま、まさか気づいて――。


「うん、まぁ結構前から気づいてはいたかな」

「う、嘘……。わたし、分かりやすい……?」

「まー本人は知らないんじゃない? っていうか、しっかり口から聞きたいんだけど」

「な、何をでしょうか……っ」

「好きかってコト」

「む、無理!」


「気づいてるんだからサッサと言いなさい」っていう玲音ちゃんを前に、わたしはうつむきながらもぼそりとこぼす。


「す、好き……です」


 ばしいぃぃんっ!


「いったあっ⁉」


 わたしが決死の覚悟でつぶやいたのに対し、玲音ちゃんがすごい強さで背中を叩いてきた。


「じゃあ、告白するよね? 今日?」

「こっ、告白っ……⁉」


 わたしが……告白……⁉

 む、無理だよおっ。

 しかも今日⁉

 いつ、どこでっ……!


 わたしがあわあわとしながら玲音ちゃんを見ると、「今日じゃなくても文化祭中にだよ!」って言われた。


「ほらっ、3日目の後夜祭! 一緒に花火を見たいと思う人が、自分の大事な人なんだって。ほら、最初の花火が上がる前に告白すると、想いが届くみたいなのあるじゃん?」


 う~ん、知らなかったけどなぁ……。


「でも、そ、そんな経験ないし……というか、女嫌いなんだよ? 伝えなくていいよ、困らせるだけだし……」

「だーめ! というかね、文化祭って告白の大チャンスなの! 文化祭後にはカップル続出するっていうじゃん!」

「う、うーん、そう言われれば……?」

「だからだよ! 乃彩ちゃんには……ハッピーエンドで終わらせてあげたいから」


 急に元気のなくなった声に、わたしは驚いて玲音ちゃんの目を見る。

 笑いながら、それでも切なそうに目を細めて……ふっと、影が落ちる。



「……私は一生叶わない恋をしてるんだよ?」



 え……?

 それって、朔人さんのこと……?

 人気者だからってこと? だから一生叶わないってこと?

 そんなこと……。


「そんなことな――」

「ううん、朔人様のことが好きだから、分かるんだよ。分かりたくないけど、分かっちゃう」


 寂しそうにそう言った玲音ちゃんに、わたしは口をつぐむ。

 それは……朔人さんが絶対に玲音ちゃんのことを好きにならないってこと……?

 それとも……朔人さんはもう好きな人がいるってこと……?

 

 そんなことないよって言ってあげたいのに、きっと今は何を言っても、無神経に玲音ちゃんを傷つけちゃう。


「だーかーら、可能性があるなら、その可能性を信じてほしいの。というか、乃彩ちゃん気づいてないと思うけどさぁ……」

「?」

「絶対成功すると思うよ、告白」

「!?」


 れ、玲音ちゃんっ⁉

 どうしてそんなことがわかるの……⁉

 だって、成功するってつまり……か、神楽さんも……っ。


 あの体育祭以降、ちょっと心の中で期待してる自分がいる。

 もしかしたら、わたしと同じ気持ちに近いものをいだいてくれてるかなって。


 冗談だって知ってるのに、そうだったらいいなって期待しちゃうよ……。


「れ、玲音ちゃんのバカっ!」

「も~、乃彩ちゃん……」


 わたしは「少し歩いてくる!」と言って屋台を出た。


 だから、知る由もなかったの。


「乃彩ちゃん、愛されてるなぁ……」


 って、玲音ちゃんが一人つぶやいたことに。

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