第23話 無くなった壁
今日はお昼休み、中庭に来て読書中。
お話ししている人もいれば、友達同士で遊んでいる人もいて、あとはガゼボっぽいところにあるピアノを弾いている人もいるの。
中庭はあんまり来たことがなかったけど、結構いいかも……!
と、本を閉じた時だった。
「朝比奈さん」
「……! 林さん……! に、三井さんも……?」
そう、なんとそこにはあの事件以来少し苦手になった林さんと三井さんがいたの。
クラスは一緒だけど、あんまり話してなかったから……もしかしてまたなんかされるのかな……?
「あの……何の用ですか……?」
「そんなに怯えないでくれる? またあたしたちがいじめてるみたいじゃない」
怯えないでって言われても、あんなことされたんだから警戒はしちゃうよ……。
「渡したいものがあったから来たの」
「これ、あたしたち行かないからあげる」
三井さんがそう言って差し出したのは……。
「沖島水族館チケット……?」
沖島水族館……。
ん⁉
ここって最近オープンしたばかりの新しいところじゃないかな……?
ちょうど夏休みに行きたかったところ……!
しかも、受け取ってよく見ると……。
「5人分……⁉」
「そう、あたしたち、他の予定あるし、チケット有効なの8月までだから」
「ちょうど5人だし生徒会メンバー誘えば」
「え……」
待って、なんか急にいろいろなことが起きてる⁉
「あの、でもわたしなんかが生徒会メンバーの皆さんと行くのは、やっぱりその~なんというか……」
恨まれそうだ。そして嫉妬の目線が……っ。
それを想像して、ぶるりと身震いする。
「あたしたちがいいって言ってるんだから行きなさいよ」
「三井さん……」
彼女の優しさに思わず涙が出そうになる。
少しづつかもしれないけど、しっかり歩み寄ろうとしてくれてる……?
「そ、それなら……」
う~ん、でもみんな予定合うかなぁ……。
というか……。
「そもそもこのチケット、どうしてわたしに……?」
この二人なら、他の友達もいると思うけど……。
きっと、この二人だって生徒会メンバーのことが好きな人たち。
なのになんで譲ってくれたの……?
「他の女子にわたしてリードされるより、とっくにリードしてる朝比奈さんの方がいいし」
「……あと、今までのこととか悪かったって思ってるし」
「まぁこういうので借りを返すのはダサいけどね」
林さんに三井さん……!
やっぱり、根は全然悪い人たちじゃない。
しかも、絶対私が受け取りやすいように言葉を選んでくれた……!
それは自惚れかもしれないけど、じんわりと胸が熱くなる。
これから仲良くするっていう未来、もしかしたらあるのかも……!
「あのっ、名前で呼んでいいですか……っ? よければ、わたしのことの乃彩って呼んでほしいです……」
「……あたしは
「私は
「あ、ありがとうございます……!」
う、嬉しいっ……!
咲ちゃん、美桜ちゃん……。
「あの、これありがとうございます……!」
「あたしたちは別に。ね?」
「うん、楽しんできてね」
もう1回頭を下げながら、ふと思う。
わたし、間違えてしまった二人をちゃんと元に戻せたかもって。
もう、わたしたちの前に隔てる壁は何もなかった。
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