第22話 プライド勝負【晴真side】

 今日は、夏休みの前に行われる、毎年恒例の体育祭。

 5クラスあるからかなり盛り上がると聞いていたけど……確かに予想以上。


 B組だから、朝比奈さんとは同じチームじゃない……残念……。


 朝比奈さんは、中学校時代の初恋相手。


 真面目で、優しくて、誰にでも親切に接することができる、完璧な子。

 ずっと好きだったけど、『友達』で終わってるのが悔しい。


 ……まぁ、諦めないけど。


『最後は選抜リレーです。各クラス、4人の選抜メンバーで行われるリレー! 大白熱まちがいなしです! 出場選手は準備をお願いします!』


 リレー……。


「川澄、頑張れよ!」

「任せて、1位取るから」

「おおーっ!」


 昔、サッカーをやっていたこともあるのか、かなり足が速い方だ。


 自分のスタート場所に立って、隣にいる人物に気が付いた。


「蒼良も選抜? 聞いてないんだけど……しかもおれと同じアンカーだし」

「休みの補充だ」


 蒼良と一緒か……。

 こんなん絶対勝つしかないじゃん……。


 こっそりとA組の方を見ると、朝比奈さんが視界に入った。

 きっと同じA組の蒼良を応援するんだろうけど、負けられないな……。


「蒼良、おれ本気で行くからね」

「……俺も本気出すから」


 お……?


 いつもなら「あっそ」とか興味なさそうにするのに……珍しいな……?

 最近蒼良が変わったなと感じることが多い。


 それはきっと……。


 朝比奈さんのおかげだろうな。


 おれも、朝比奈さんと関わって変わったことが多いし、何より彼女からいろいろ学んだ。


 朔人とかも最近おかしいし、マジで好きになるんじゃないよな。

 いや、朔人は女子に対してもああだし、逆に本気で落ちるところを見てみたい……。

 楓は絶対恋愛しないタイプとか決めつけてたけど、最近なんか妙に甘いし……。


 とにかく、最近生徒会メンバーの様子がおかしい。


 待ち時間、おれは何気なく蒼良に尋ねる。


「蒼良って、朝比奈さんのこと好きなのか?」

「……分からない」

「分からないってことは好きってこともあり得るってこと?」


 周りが騒がしい中で、冷静に今の言葉を分析する。


 待て、落ち着け。


 蒼良が女嫌いだったのは知ってるし、恋愛するタイプじゃないと思っていたが……。

 意外にあるのか?


 マジか……。

 

 蒼良がライバルになったらかなり強敵……。


 そんなことを考えていると、パアンッという音とともに、第1走者の人が走り出す。

 おれたちがアンカーだから、いちばん最後の大トリってところ。


「絶対負けない……」

「好きにしろ」


 げ……勝つ気満々じゃん……!

 余裕全開の様子を見ると、やっぱりなめられてる……?


 そしてアンカーの手前の走者がやってきた。


 今のところ、トップがA組。

 その次がB組だけど……。


 ほぼ同時にバトンを受け取り、瞬間、力強く地面をけった。

 負けない……!


「頑張れ~っ!」

「A組行け~っ!」

「ぬかせ~~~っ!」



 みんなからの声援が聞こえる中、とにかく地面をけり続ける。

 アンカーは半周することになっているから、ぬかすこともできるけど……。


「神楽さん! 頑張ってください……!!!」


 朝比奈さんの声……?

 でも応援されてるのおれじゃないけど……。


 と思ったら、また朝比奈さんの声が耳に届いた。


「はっ、晴真くん~~っ! 頑張れーっ!」


 っ……。


 好きな人からの応援で力でない奴いないだろ……!

 しかも名前で……。

 敵なのに応援してくれるとか……どこまで素直なやつだよ……。


 残り、10メートル、9,8,7……。

 4,3,2……。


 1。

 0。


 ほぼ同時にゴールして、レーンの内側に倒れ込む。


『1位は……! B組です! おめでとうございます!』


 アナウンスが聞こえて、倒れ込んだまま汗をぬぐう。

 勝った……!


 蒼良に勝てるのはこれくらいだから、やっぱりかなり嬉しい。


「……ま、しょうがない」

「今回はおれの勝ちってことで」


 青い空を見上げて思う。


 もし蒼良が朝比奈さんのことを好きになっても、これだけは譲れないなって。

 やっぱり絶対諦めきれない、って。








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