第21話 繋いだ手と彼の特別

 パンッ!


 校庭いっぱいに響く音で、選手のみんなが走り出した。

 1人につきお題を引くのは1回なんだけど、どんどんタスキをつないでいって、2周したチームが勝ち。


 足の速さが関係せず、引くお題によって勝敗が左右されるといっても過言ではないから盛り上がるんだよね……。

 しかも今回はその中に神楽さんがいるし……。


 この学園の中で、きっと学年を超えて神楽さんの人気は伝わっている。

 だからやっぱり注目なんだよね……!


 そうこうしているうちに、A組第1走者の神楽さんがお題を引いた。

 それを見て、あからさまに固まる神楽さん。


 どうしたんだろう……ものすごく難しいお題とか……?

 他のクラスの人はさっきから声を張って呼び掛けている。


「今日が誕生日の人いますか~っ?」

「卓球部の人~~!」

「国語科の先生ってだれ―?」


 うわあ、みんなすごく楽しそう……!

 わたしは誕生日今日じゃないな……。


 卓球部じゃないし……残念!


「双子の人⁉ 双子ってこの学園にいるの⁉」

「じゃんけんが強い人⁉ 誰か~じゃんけん強い人いますか~~っ⁉」


 じゃんけんかぁ……。

 確か、『じゃんけんに強い人』を引いた人は、審判の生徒に3回勝たなきゃいけないとか。

 逆に『じゃんけんが弱い人』っていうのは3回連続で負けないといけないとか。

 どっちも絶対無理っ!


 と、いきなり、「きゃあ――っ!」という黄色い悲鳴が飛び交った。


 何だろう、と思って校庭を見ると、神楽さんがこっちに来てる⁉

 何も言わないけど、お題はなんなんだろう?


 すると、わたしたちのクラスに入ってきて、まっすぐわたしの方に来る。

 目の前で「ん」と手を差し出されてわたしは固まって周りを見る。


 な、何……?

 手を、つなぐってこと……?


「……来て」

「は、はいっ?」

「…………おまえしかいないから来て」

「ふえっ?」


 もももしかしてわたし、借りられる!?

 借りる人とは手を繋がないといけないルールだから、その手を取らないといけないのにそれすらも恥ずかしくて。


 ただそれだけの理由なのに、1人でいろいろ考えちゃって顔が真っ赤になる。

 差し出された手にわたしの手を重ねると、ぎゅっと握られて「行くぞ」って言われて、大歓声の中走り出す。


 彼と手をつないだところが、すごく熱い。

手まで心臓になっちゃったみたいにどくどくしてて、このままでいたいっていう思いがどんどん膨れていく。

 彼の横顔を見ると、ほんのり頬が赤い、ような……?


 わたしが選ばれるお題、というと……。


「あの……お題って、じゃんけんが弱い人ですか?」

「……違う」

「……じゃあ、読書好きな人?」

「……違う」

「あ……それなら、もしかして青色の靴下はいている人、とか」

「……違う」

「ネコの鳴きまねができる人、とか」

「……できる人は多いよな」

「そっ、それなら、ここの食堂でアップルパンをまだ一度も食べたことがない人、とか」

「食べたことないのか」

「な、ないです! 全部売りきれちゃってて……」


 他に何なんだろう……気になる……!


「教えてください、気になります!」

「……無理」

「ええ……っ」


 そうごまかされると、よけい気になっちゃうのが人間。

 必死に紙を見ようとしたけど、彼の手の中に会ってなかなか見えなかった。

 もうすでにE組の第1走者が、第2走者にタスキがパスされている。


「急ぐぞ」

「は、はいっ!」


 そうして審判の人の前まで行くと、わたしにお題を隠すようにして審判の人に紙を渡した。


「はい、おっけいです! そのままタスキをつないでくださいね~」


 審判の人に明るく言われて、ドキドキしながら神楽さんの横を走る。


 神楽さんがタスキを渡して、わたしたちはレーンの内側に入る。

 その時、手が離れていきそうになって、思わず力強くぎゅっと握ってしまった。


 神楽さんを見ると、驚いたようにこっちを見てくる。

 でも、その神楽さんの耳が、赤い。


 わたしもさっきからドキドキと、心臓が騒いでる。

 

 だって、見えちゃったんだもん。

 神楽さんが引いたお題。



 A組の第一走者、神楽蒼良。引いたお題は――。





『特別な人or好きな人』

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